36話 【コラボ配信】「ふたりはるるハル!」6

なんか自分のペースで人と話しながら好きなことしてると温まってくるよね。


普段は誰とも話さない生活な僕だけども、たまにはこういうこともあるんだ。


だからお口は疲れてきたけどもちょっとだけ楽しい僕。


「あ、ここのダンジョン浅いんですね。 もうボスフロアっぽいです」

「そうだねぇ……」


「るるさん、大丈夫ですか?」

「だぁいじょうぶぅ……」


「無理はしちゃだめですよ?」

「………………………………」


るるさん、なんかげんなりしてる。

……昨日の夜眠れなかったりしたのかな?


【ハルちゃん……もうちょっと手加減というものを……】

【るるちゃんかわいそう……】

【こんなにもるるちゃんがかわいそうな配信はあっただろうか】


【この前のやばかったの以来じゃない?】

【そうか、つい最近だったな】

【草】


なんか普段の配信……って言っても2回3回しか見てないんだけどね……そのときのるるさんに比べると、ものすごく疲れてる。


ペース配分間違えた?


ダメだよ?


前衛さんこそスタミナ管理だよ?


【多分本気で分かってないハルちゃん】

【ま、まあ幼女だし……】

【合法ロリならるるちゃんとほぼ同い年だけどな】

【うん……今回の見るとロリって思えるよ……】


【ハルちゃんにもできないことってあるんだね】

【むしろできることとそれ以外がはっきりしてそう】

【興味があればすごそう。 ダンジョン攻略のスキル的に】

【スキルツリーも対人ツリーも完全に尖ってるタイプか】

【興味が無いことには今のるるちゃんみたいな扱いになりそう】

【草】


えみさんからの通信によると、ここは10階層と浅いところ。


この前みたいなのになったら困るからって、レベル自体はそこそこだけども別に深くもないってのを選んだらしい。


英断だね。


だって、なぜかるるさんこんなに疲れてるんだもん。


きっと何かがあって、付き合いが長いらしいえみさんが前もって決めたんだろう。


帰ったら「ヘンタイさん」って呼んであげよっと。

ここの人たちみたいに喜んでくれるよね。


【けど道中はことごとく悲惨だったな……】

【ああ……】


【本当にハルちゃんひとりでできちゃったもんね……】

【る、るるちゃんも……ムード盛り上げようってしてたから……】


【まずハルちゃんが乱射】

【近くの敵はだいたいだいたい死ぬ】

【ハルちゃんに合わせてしゃがんでたるるちゃんが起き上がる】

【るるちゃん、お仕事ないって悟る】

【起き上がって2人でドロップ拾い】


【そのあいだに反応して向かってくるモンスターたちをハルちゃんが順次乱射】

【遠くの敵もだいたい死ぬ】

【るるちゃん、お仕事ないって悟る】

【2人で手分けしてドロップ拾い】


【そこからやっと1匹とか2匹とかのモンスターが来るようになって、るるちゃんが軽く戦ってからハルちゃんがズドン】

【で、またドロップ拾い】

【途中からるるちゃんが率先してひとりでもくもくドロップ拾い】


【……うん、るるちゃんがんばった】

【すっごくがんばった】

【えらい】

【この乱射幼女……どうして……】


伏し目がちなるるさんが気になるから、気が付けば普段の逆で僕から話しかける形が多くなってる。


「ごめんなさい、るるさん」

「ううん、いいの」


「るるさんってものすごく運が悪いので」

「うん、運が悪いの」


【草】

【るるちゃん、話聞けてない……】

【もしかして:普通に戦うより疲れてる】

【なんならトラップで大変な目に遭うより疲れてる】


【かわいそう】

【あれ? でも】


「るるさんに近づく敵を先に倒して回ったからか、罠、引っかかりませんでしたね。 良かったですね」


「うん。 ……うん?」


あ、ちょっと元気になった?

やっぱり女の子は話してあげなきゃだめっぽいね。


「今日は念のためにって、見えてる罠踏まないように誘導したんですけど」

「うん? ……うん?」


【えっ】

【え?】

【ゑ?】


【いやいや、罠から誘導って……マジ?】

【……ハルちゃんは冗談は言わないよな】

【だって天然だもん】


【むしろ言えないよな】

【ああ、言えない】

【ハルちゃんはそんなこと言わない】


【「嘘つく」とか「騙す」とかはハルちゃんと最も縁のない言葉】

【草】

【負の方向に信頼が厚いハルちゃん】


僕がるるさんと一緒に潜るのは、今日が実質的に初めて。


あのとき?

救助要請のあのときは別だし……。


で、今日は様子がおかしい彼女のこと、最初からちょっと観察してた。


……そうしたらるるさん、なぜかことごとく罠のある場所を踏み抜こうとしてるんだ……いやほんと、なんで?


分かってはいるけどね……それがみんなが呼んでる「呪い様」ってやつなんだって。


観察した限り、彼女はちゃんと周囲を見てるし足元も警戒し続けてる。


……でもどうしてかそっちの方ばっか足が向くんだよねぇ……呪いって怖い。


僕には無くって良かった。


いや、無いからこそこうして幼女するハメになって、そこそこに居心地の良かった職場クビになったんだけどね……。


あ、ちなみに会社の件は誤解を解いてくれたらしく、不登校もとい出社しなくなっての解雇じゃなくなったらしい。


ありがたいね。


「……ハルちゃん? その、誘導って」

「え? ああ……るるさん、そこに立ってください」


まだちょっと頭が回ってない感じだから分かりやすい場所へ誘導。


「え? う、うん……」

「そこから真っ直ぐ歩いてくださいね」

「え、えっと……うん……」


【……罠が見えるのはスカウトスキルで知ってるけど】

【ハルちゃん、使うそぶり無かったよな……?】

【ああ、ただただ乱射してただけだった】


【あ、でもそう言えば何かとるるちゃんのこと呼んで「そこを右」とか「左」って……あれって誤射避けるためじゃなくってもしかして……】


「……ついたよ?」

「じゃあ動かないでくださいね」


今日はなんだか物足りないって思ったら、最初の石集めが無かったんだって思いだした僕。


数歩歩き回っていくつかの石ころを拾い上げて――。


「音、しますからね」

「う、うん……わっ!?」


がしゃんっ。


痛そうな音。


るるさんの左右40センチくらいのところに石を投げると、片方はひゅんっと毒矢、もう片方はばしっとトラバサミが牙を剥く。


罠の方向的に大丈夫だって確信してのだからケガとか無いだろうけど、びっくりはするよね、やっぱり。


【は?】

【罠そこぉ!?】

【あったよ! 罠!】

【えぇ……】


「るるさんは素直なので誘導は楽でした」

「そ、そっか……ありがと……」


ちゃんと教えてあげたからそこまでびっくりしてないね。


【天然に褒められる素直っぷり】

【良くも悪くも、るるちゃんってば普段から指示され慣れしてるしな】

【えみお母さんのおかげだな!】


「……ハルちゃん。 これ、もしかして今日、初めから?」

「はい。 なんかるるさん、ほっとくとことごとく罠の方に向かうので」


【ああ……それで普段から転んだり罠踏んだりするのが今日は無かったのか……】

【え? じゃあハルちゃん一緒ならるるちゃん、もうドジっ子卒業?】


【ドジっ子って言うか不幸体質だけどな】

【呪い様に対抗するには天然だったか……!】

【どっちかって言うとスカウトスキルじゃね?】

【とりあえずるるハルが正義だってのは分かった】


ぼーっと足元の罠の跡を見てる、るるさん。

そうだよね、やっぱ怖いよね、そういうの。


「僕と一緒のときは罠から守ってあげられますから大丈夫ですよ」

「……………………………………」


む。


また変な感じになってる……なんでだろ。


「帰ったら髪の毛は好きにして良いですから」


そう甘い飴を投げてあげてもなんか固まってる。

この子、良くなるよねぇこうやって。


【ん?】

【今】

【なんでもって】


【るるちゃんには言ったな】

【つまり帰ったら百合展開?】

【姉御のためにおねショタ展開とも言っておいてあげよう】


【あなたいい人ね。 後で郵便受け見といて】

【は?】

【草】

【なんか犯行予告にしか聞こえないセリフが】

【え……こわ……】


「おーい」


なんかるるさんが固まっちゃってるから近づく。


……本気で怖くなっちゃった?


「だいじょうぶ?」

「…………うん」

「本当? リストバンド使う?」


「……ううん。 ハルちゃんが居るから大丈夫」

「そ。 なんかあったら言ってね」


【尊い】

【てえてえ】


【ハルちゃんが純粋にるるちゃんのこと心配してる声……】

【深く考えられなさそうなハルちゃんだからこそ伝わってくる優しさ】

【優しい】

【いい子】


【けど、確かにソロのレンジャーだから罠発見スキルはあると思ったけど……ここまで全回避だろ?】

【やば】


【これ、事務所がハルちゃんのこと、もう離さないんじゃ?】

【いや、これだとるるちゃんの不幸っぷりが皆無になる。 撮れ高が壊滅だ】

【ああ……るるちゃんのアイデンティティーが崩壊しちゃう……】

【草】


【悲報・るるちゃん、まさかの個性喪失】

【いやまあ、るるちゃんにとっては良いことだから……】

【まあな、1回ガチで死にかけたし】


「――うん。 大好きだよ」


「? そうですか」


なんか毎日言われてる感じのラブコール。

うん、妹的存在として好かれてるだろうし、別にいいけど。


【!?】

【ひぇっ】

【おかしい、聞き間違いかな……るるちゃんの声、ドスがきいてるって言うか……】


【……あのさ、俺、ヤンデレの彼女居たんだけどさ】

【おう? 視聴者全員にケンカ売るつもりか?】

【大丈夫だ、血を飲まされそうになって逃げ出した】

【草】


【……でさ。 今のるるちゃんの感じ、あのときの彼女に……あれ、玄関の鍵閉めたはz】


【え?】

【おい、そこで止めるなよ!】

【返事がない……】


【もしかして:呪い様がヤンデレの彼女呼び寄せた】

【え……こわ……】

【これもう迂闊にしゃべれねぇじゃねぇか草】


【呪い様の精度やばない? と言うかもはや因果関係収束してない?】

【呪い様に引っかかるワード、呪い様が時空をさかのぼって探知してる……?】

【この配信やべぇ……】


「るるさん? お腹空いてます?」

「ううん……何でもないよ」

「そうですか」


この子ってば気分の乱高下が激しいからなー。


ホテルでもときどきなってる気がするし……まぁ害もないからほっといてるけどさ。


「でもるるさんに何かあったら困るので、ここから倒しちゃいますね」


「うん……………………………………、え?」


どんっ。


今日の行きでは最後の攻撃。

残りは引き返すだけだから多分そこまでモンスター出ないし。


【え?】

【あ、そう言えばここボスフロアだった】

【草】

【視聴者揃って忘れてて草】


「僕たちが立ってるところでぎりぎり起きない距離だったので、ボスは眠ったまま仕留めました」


「え……え?」


【えぇ……】

【悲報・とうとうボスすらヘッドショット】

【しかも寝たまま】

【さらには画面外って言う】

【ボスしゃんかわいそう】

【とことん配信と相性悪くって草】


【えみお姉ちゃん……ハルちゃんのカメラ、良いの買ったげて……暗いところでもちゃんと見えるやつ……じゃないと見せ場が皆無なの……】


ずしんと崩れる音。


「まぁおっきいニワトリさんでしたから、るるさんひとりでも大丈夫だったとは思いますけど」

「あ、ありがと……」


【にわとりさん】

【かわいい】

【……ニワトリ? それって】

【コカトリス!?】


【コカトリスって毒と石化持ちだから接近戦のるるちゃんとは相性最悪じゃねぇか】

【だから遠距離からのヘッドショットでワンキルだったんじゃ?】


【お前、ハルちゃんがそこまで考えたと思うか?】

【いや? あり得ないけど?】

【草】

【すごいことしたのにハルちゃんの天然って言うのに吸われてて草】


「じゃあドロップと宝箱拾ったら帰りましょうか」

「……そうだねぇ……」


【ああ、るるちゃんの目が! 目が!】

【さっきからハルちゃんしか見てなくてこわいよー】

【しかも絶妙に光が……これ、ハイライトオフってやつじゃ?】


【……るるちゃん、ハルちゃんにまた助けられてなんかスイッチ入っちゃった?】

【どうにもそうっぽいですな】

【おい、下手に言うと何かがやって来るぞ】

【え、こわ】


【……今回の配信、いろいろやばいよな】

【ああ】


【なにしろ、あの深谷るるが1回も不幸発動しなかったんだからな】

【そっちかよ!】

【草】



◆◆◆



36話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


と思ってくださいましたら↓の♥や応援コメント、目次から★~★★★評価とフォローをお願いします。

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