18話 「はじめてのだんじょんはいしん(全世界公開)」2

【さっきからカメラに映るモンスターの数、増えてきてない?】

【しかもやっぱレベル30~40……】

【普通ならまずソロでなんか行かないゾーンになって来てる……】

【配信者の中には控えめに言ってもおかしい人とかいっぱいいるけど……】


【まぁソロの時点でおかしいから……】

【いい意味で?】

【これがいい意味に聞こえるか?】

【草】


【実際は褒めるしかないよなぁ】

【良くも悪くもプロの領域だし】


うんうん、やっぱりダンジョンはこうでなくっちゃ。


ちょっと前から隠蔽を戻して歩く音や衣擦れ、装備の音も消音済み。


気配も消して、さらに壁沿いを岩陰とかを利用して少しずつ前に進むいつものスタイルに戻してしばらく。


そうだよねぇ、やっぱりゲームはレベル相応じゃないと。


才能があったかどうかは知らないけども、僕は隠れての狙撃が好き。

好きって言う理由と痛いのがイヤって言う理由で選んだ後衛職――スナイパー。


いろんなスキルも取ってるから、ただの狙撃屋って言うよりは狩人とかレンジャーとかサバイバーとか、ひとりで立ち回るオールラウンダー系統。


良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏。

でも僕はこういうのが肌に合ってるんだ。


ゲームって言ったけども、普段のゲームとかでもバランス型が好きだし。


いろんなことを初級くらいにはできるってのは何でもできる気がしていいよね。


【けどすごいな……】

【ああ……掲示板で指摘されてるけど、ハルちゃん本当何者よ】

【トップランカー、これで国内500はまだしも1000に入ってないって……】


【いやまあハルちゃんって愛称だし、入ってるかもしれないけどな】

【元々配信の自己紹介文に「ハル」ってあるだけだし】


【あー、トラブル回避のために名前出さない人とか多いしな】

【配信社会だもんな、事務所所属でも変な奴とか絡まれるとめんどい世の中】

【世知辛いのじゃあ】


こそこそと壁を背にしてかに歩き、大きめの岩か窪み――今の僕は背も低いから大人の腰の高さがあれば充分だ――に体を隠し、ちょっとだけ顔を出して周囲の探索。


僕だけじゃなくてパーティー組んでても斥候役がする定番の動き。


こういうのしてると映画で出てくるアサシンみたいでなんかいいよね。


【一切ムダのない動き】

【ハルちゃんの配信見る配信とかで「参考になる」って言ってる人多いよね、この動き】


【俺はハルちゃんの動きに惚れて始原になったぞ】

【なるほど】


【他の配信者みたいに話したり顔を出したりしない分、なんか俺まで一緒に潜ってる感じがする……俺、ダンジョン入ったことないのに】

【俺も俺も】

【没入感半端ないよな】

【こういうVRゲーやりたい】


【なんか同接……やばくない?】

【海外勢に捕捉されたらしい】

【マジかよ】


【なんでも英語圏で超有名人が「スカウトはこの配信参考にするといいよ」って】

【俺たちのハルちゃんがメジャーデビュー……】

【わずか数日で駆け抜けすぎだろ】


あ、そう言えばさっきから全然しゃべってない……いや、いつもだけどさ。


けど、せっかく声もお披露目したんだからちょっとはしゃべらないとね。


配信見てるのだって9割は僕と同じ――まだ心はね、まだ――同性の男たちなんだ、ロリの声くらいは聞かせてあげよう。


同じ男としての優しさだ。


「えーっと。 少し前から敵が強くなってきたのでいつものスタイルで戦ってます」


配信とかってこうやって言うんだっけ?


僕、めったに見ないから参考にしてるのがるるさんのとかだから自信ないけど、今してることとか考えてること言うと良いんだって。


【急にしゃべった!!】

【かわいい】

【保存した】


【もう5分くらいしゃべってくれたらAIでハルちゃんボイス作れるからもっとしゃべって】

【なにそれ怖……】

【やっぱり人増えるとやばいヤツも増えるな……】


「前方に……えっと、左に4体、右に8体居ますね。 近くて動きが素早いのから撃っていきます」


【やっぱこの暗さで分かるんだ……】

【スカウトのレベル、いくつくらいなんだろうな】

【ハルちゃんくらい敵が見えると事故なさそう】

【るるちゃんさえ居なければな】

【草】


ひゅんひゅんっ。


【とっくに中層レベルなのに普通品質のスリングショットとただの石で淡々と攻略してる……】

【攻略ペースおかしいって】


【まぁそもそも、どう考えても階段罠で飛ばし飛ばしだし】

【普段まともな武器で戦う相手を普段通りに処理してるんだぞ?】

【やっぱハルちゃんって何かがおかしいわ】

【草】


「――けど飛行系とゴースト系はほんと、速いです、ねっ」


僕の攻撃に気が付いた素早い系統のモンスターたちが、攻撃音からまっすぐ突撃してくる。


別に岩に隠れたら1回やり過ごせるし、そこから振り返って攻撃すればもっと楽なんだけども……いちいち体動かすのめんどくさいし、体力ない体だから継戦能力考えると極力動かないのがベスト。


「代わりに真っ直ぐ頭向けて突撃してきてくれますから、逆に倒すのは楽ですけど」


【……えーっと、上位のラピッドバットにフレイムホークだろ? なんで1匹づつ狙って間に合ってるのハルちゃん……?】

【おかしいよな、そんなに体動かしてないのに】


【海外勢の解説いわく「あれは石を複数個セットして散弾にしているようだね。 しかもばらつく方向も計算済みのようだ」とのこと】


【やっぱおかしいわハルちゃん】

【それは褒めてるのか? それとも敵になるという意味か?】

【落ち着け始原の、気持ちは分かるけど】


【褒める意味でも呆れる意味でもだよ……何あれ、俺、もう斥候職の自信なくしたんだけど……】


【草】

【ハルちゃん……罪な子……】

【罪な女の子……】

【罪な男の子なの!!】


【ハルちゃん絶対トップ100の誰かだって。 20人くらいは非表示だからそのうちの誰かだって】


僕のスタイル的に戦闘時間は短い。

短いから楽で、楽だからこそこの体でもやっていける。


魔力って言う肉体強化もばりばり使ってるしさ。


疲れたら?


1メートル以上上にある壁の窪み見つけて入って警戒しつつ読書して休むけど?


「全部倒したのでドロップ回収します。 ……けど荷物がいっぱいなのでそろそろ撤退しなきゃ」


【いつも通りの瞬殺】

【俺たちにわかにとってはいつも通りなんかじゃない】

【これスナイプ違う、何か違う】

【ヘッドショットロリ……】


【でもそうだよなぁ、ひとりで潜ると荷物の量的にドロップ諦めるの多くってもったいないよなぁ】


【だから普通はソロなんかやらないし、そもそもガチで命の危険があるから「ダンジョンで何があっても訴えない」って言う誓約書書かされるもんな】


【普通は交代で警戒するし、四方を分担して警戒するの……】

【こんな暗い洞窟で誰とも話さないで何時間も、常に命の危険を感じるとか俺には無理だ】

【安心しろ、ごく一部のおかしいのを除いてそれが普通だ】


【ハルちゃんがおかしいって言うのか!!】

【違うのか?】

【合ってるけど】

【草】


「あ、銀の宝箱」


【おめ】

【すげぇ、滅多にないんだろ? 銀のって】

【そもそもレベル換算で50を超える階層じゃないと出現しないし】


【え、つまりハルちゃん、とっくにモンスターが50とか行くレベルの階層まで?】

【配信見た限りだと、罠がなければ25層なのにな……】

【やっぱりるるちゃんの影響か】

【1階ごとにスキップさせられるとかどんな嫌がらせだよ……】


【るるちゃん自身の配信でもここまでのは無いんじゃ?】

【もしかして:ドラゴンの件で呪い様、本当に移った】


【草】

【かわいそう……】

【かわいそう】

【ガチでかわいそすぎる】


「宝箱は……なんかこう、じっと見てたら僕のレベル以下の罠なら見えます。 見えなかったら後は……気合?」


【待ってハルちゃん待って、そんな力技で宝箱を!?】

【悲報、ハルちゃん脳筋だった】

【て、天然だから……】


「で、罠はないみたいなので開けます。 ……何これ」


銀の宝箱。


1ヶ月に1、2個あるかどうかのいいもの。


僕の体くらいあるそれを慎重に開けてみた僕は、その変な袋を取り出す。


「何、この汚いの」


【草】

【本当だよ、なんだよそれ!】

【ハルちゃん! ばっちいものを拾っちゃいけません!】


【子供は何でも拾っちゃうから……】

【通報した】

【待って】


【ここだけ見ると本当に子供みたいなんだよなぁ……見た目だけ子供でやってることはどう考えてもおかしいけど……】


「……袋? 罠とかハズレじゃないだろうし……」


【『……それはもしかしたらだけど、上位の収納袋なんじゃないかな?』】


【さっきから外国勢が多いな】

【あ、ちょっと待って! なんか今すごい単語出て来た!】

【翻訳頼む】


【収納袋の上位……えっと、ドロップ品を普通の収納袋とは桁違いに収納できる超レアアイテム。 確認されてる最大のものは数トンは余裕……?】


【は?】

【なにそれ、そんなのあんの?】

【ほら、荷物が軽くなるリュックとかドロップするだろ。 あれの最上位クラスのやつだって。 Wikiによると】


【あんなぼろい袋が?】

【ハルちゃんの両手なお手々に収まるくらいだぞ?】


「あ、なんか結構入りますね」


袋と来たらとりあえず要らないものを入れてみる。


でも取り出してみても特に変わらないみたいだし、ドロップ品を物理法則無視して多めに入れられるあのリュック系統なのかな?


あれってダンジョン内でのドロップとしては破格の換金率。


まぁそりゃあそうだよね、今の科学力じゃなんでなのかすら分からないらしいし、実用性はもりもりあるし。


それで手当たり次第にドロップ品とか重いけど売れそうな装備とかを入れていったけども……全然かさばらないしすごく軽い。


「なんかいいもの拾ったみたいですし、まだ潜り始めて3時間ですから……いつも通りこの辺でお昼食べてもっと潜ってみます」


【知らないってすごいね……】

【とんでもないお宝が「なんかいいもの」だし】

【草】


【だからハルちゃんコメント……うん、見ないよね……】

【まぁ用途は間違ってないからいいや】

【このロリは一体どこまで潜るのか】


【そもそも限定公開のつもりなのに海外勢まで流れ込んできてるの 、まずいんじゃね?】


【それは大丈夫。 ちょっと前から過激なコメントの削除とかBANとかされ始めたから多分るるちゃんとこが捕捉して手伝ってる】


【ハルちゃん、るるちゃんやえみちゃんと知り合ってて良かったね……そもそもこうなったのはるるちゃんのせいだけど……】


【草】

【結局るるちゃんに回帰するの、ホント草】

【全てはるるちゃんに始まりるるちゃんで終わるのだ……】


【けどさ、みんなが心配する場所へひとりで出かけて、お腹空いたらご飯食べて冒険終わったら帰って来るのを保護者と見る。 やっぱこれ、スケールでかすぎるはじめてのおつかいだよ】


【草】

【はじめてのおつかい草】


【300万近い大きなお友達に見られるはじめてのおつかいとか前代未聞で草】

【せめてハルちゃんがここに気が付いて、配信設定戻せばなぁ……】


【と言うか事務所が手伝ってるんなら戻せるんじゃないの?】

【しないってことはなんか理由あるんだろ。 ハルちゃん自身がするなら別だけど】


【無理だろ。 気がつくはずがない。 俺たちのハルちゃんだぞ?】

【ああ、待機時間でも読書してて、終わるときにちょっと見るだけのな……】


【始原からも見放されてて草】



◆◆◆



18話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


と思ってくださいましたら↓の♥や応援コメント、目次から★~★★★評価とフォローをお願いします。


※しばらくコメントや感想に返信が追いつきませんけれども、ありがたく読ませていただいています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る