17話 「はじめてのだんじょんはいしん(全世界公開)」1

【おい、もうハルちゃんのゲリラライブ、トレンド入りだってよ】

【だって実質デビュー配信だろ? これ】

【それがまさかの平日昼間なゲリラだもんなぁ】


【さすがるるちゃんに吸い寄せられたハルちゃん……格が違う……】

【草】


【事務所のサプライズだって説が一蹴されてて草】

【普通ならまず大手事務所が新しいプロデュースしてるって思われるのに、コメント欄がほぼるるちゃんのせいって一致してるの草】


【るるちゃん大人気だね!】

【そりゃまあまだみんなあの配信の衝撃忘れてないし】

【それがハルちゃんとセットだもんなぁ】


【羨ましいはずなのに羨ましくない事実】

【だってるるちゃんだよ? お前ハルちゃんと代わるか?】

【いや……それはちょっと……】

【普通の人間にはちょっと……】

【草】


ふむ、よし。


もう30層くらいだと思うけど、それなりに素材のドロップも武器とかのドロップも手に入っていつも通りになって来た。


さすがにここまで潜って来ると、最初みたいに舐めてたら痛い目見るだろうから慎重にはなってるけども、まだまだ行けそう。


やっぱり何年も毎日のように潜ってたからダンジョンの中の方が心が安まるね。


僕ここに移住しようかな。

冗談だけども。


と言うか……普段から安全マージン取りすぎてて正直僕自身のレベルがよく分かんないんだよなぁ、最近。


男のときはここまで毎日じゃなかったけども、女の子になってなんか信じてもらえなくてクビになってからは生き甲斐がダンジョンしかなくなったし。


少し冒険しようって思ってもソロだと万が一がなぁ……ってなっていつも通りのランクのとこ潜っちゃう。


あ、えみさんとかに来てもらえば良いのか。


るるさん?

あの子はちょっと……ほら、一緒に落とし穴落ちそうだし……。


【顔出し無し、ほとんどしゃべらない、たまにお手々が映る程度で同接20万……】

【ゲリラで始めたばっかでこれはすごい】

【あのときほどじゃないけど、あのときが以上だったんだよなぁ】

【いろいろと普通じゃないもんな、ハルちゃんは】


【るるちゃんがトラップ踏み抜き始めたあのときからの流れがまだ続いてるんだろ】

【ここからが勝負だよ、ハルちゃん】

【え? またるるちゃんと一緒にドラゴンと戦うって?】

【イヤ無理だろそれ】


【でもこのままだと同接下がり続けそう……ハルちゃん大丈夫かな】

【ハルちゃんだから全然気にしないでしょ】

【なんなら10人とかになってもけろっとしてそう】

【「そういうこともありますよね」とか言いそう】

【それがハルちゃんだ】

【うむ】


【始原から布教されたハルちゃん像で納得する俺たちがいる……】

【でもなー、もうちょっと派手なところ見せろよなー】

【せめて顔くらいは見たいよなぁ】

【ていうか自己紹介とかないの?】


【雑音多いけどハルちゃんがんばって!】

【残念、ハルちゃんはろくにコメント見ないんだよ】

【良くも悪くも動じない、それがハルちゃんだ】

【草】

【ある意味プロのメンタルな安心感】

【完全にマイペースだと逆に安心できるな】


今の手持ちは普通品質のパチンコと石72個、同じく長弓とぼろ矢35本、狙撃銃と弾20発にショットガンと5発。


さすがにリュックに入らなくなって体に引っかけるスタイルになりつつある……まぁいつものだし、走ったりしないから良いけど。


まだドロップ品で充分に戦えるレベルだから良いけども、コモンの武器で一撃で倒せなくなってきたら引き返し始めよっと。


初心者用ダンジョンだし、ドロップを換金しても大したお金にはならない。


今日の稼ぎは緊急脱出装置1回分の使用代金的には赤字になりそうだし、歩いて戻らなきゃだもんね。


【しかし本当ハルちゃん、しゃべらないしコメント見ないな】

【だってハルちゃんだし】

【だから始原しか居なかったんだもんな、この前まで】


【しかも敵がカメラに映る前に倒しちゃってドロップしか映らないから見せ場も何もないと来た】

【よく始原はこのハルちゃんの配信観続けてきたな……】


【これにはこれの良さがあるんだ】

【ああ……言葉にはできない何かが】

【にわかには分からんよ】

【見るんじゃない、心で感じろ】

【草】


【ラジオ配信って思えば楽しいぞ?】

【基本効果音と攻撃音と断末魔だけどな】

【ASMRじゃねーか!】

【ASMR草】

【ダンジョンASMR配信……斬新すぎる……】

【しかも本人の声は無いって言うね……】


【まぁ金髪ロリってことで一定数は観続けるから……】

【お巡りさん、俺たちです】

【あ、俺たちノータッチなんで大丈夫です】

【何が大丈夫なんだろうか】


【ハルちゃん高レベルだし、下手におさわりしたら手首折れそう】

【「あ、ごめんなさい、つい」とか言う猛者スタイル】

【ちょっと出かけてくる】

【待て、早まるな】


「あ、この先モンスターたくさんいるところですね」


【しゃべったぁぁ!】

【かわいい】

【声だけでファンになりました】

【そのお手々と握手したい】


【ってモンスターハウス!?】

【ハルちゃん、やっぱここ違う、初心者用ダンジョン違う】

【初心者用ダンジョンとは一体……】


【誰か、ハルちゃんがこのコメント見たら教えてあげて……ハルちゃんハルちゃん、初心者用ダンジョンはね、モンスターハウスとかない場所なの。 ちゃんと協会のHPで安全が確保されてるダンジョンだけ指定されてるの】


【もしかしてハルちゃん、これだけ潜ってるのにダンジョンのこと、詳しく知らないんじゃ……】

【うん……だって拾った武器だって鑑定とかしてないみたいだし……】

【さっきもモンハウって単語自体使ってなかったしなぁ……】


【あ、半年くらい前の配信でハルちゃん、呪われた銃で突破したダンジョンあったの思い出した】

【草】

【このロリ、執着しなさすぎる】


「ということで今からちょっと画面ぶれるかもです」


【え? 迂回しないの?】

【ソロでモンハウって】

【ま、まあ、初心者用ダンジョンじゃないにしてもレベルは低いとこらしいから……】


【そもそもハルちゃん、今日1回も魔法で攻撃してないもんな】

【そうだよな、いざとなったら範囲攻撃でなんとかなるだろ、いつも通り】


暗い洞窟の先を見ながらかちゃかちゃと手元の用意を始める。


あー、これまでみたいに手元まで隠さなきゃいけなくなくなってるから首が楽ー。


これまでは首は正面で目だけ真下見てて地味に疲れてたし。


【おてて】

【お手々ぺろぺろ】

【このお手々は非常に良い】

【このスクショだけでファンが増えるな】


【ときどきかき上げてる金髪ぺろぺろ】

【横髪でこの長さ……やはり長髪なのか】

【髪フェチが現れたぞ! 囲め!】


【え、こんなときでもスリングショットなのか……】

【まぁ投擲スキルが高ければただの石でもかなりの威力だし】

【命中精度すごく高いからコストゼロの石でいいのか……】


【でも少し前の階層で拾っただけのパチンコって、相当レベルとスキルないともうこの辺のモンスターでも厳しいんじゃ……】


「じゃ、行きます」


【無茶しないで】

【ハルちゃんなら大丈夫だろ】

【始原が落ち着いている……大丈夫なのか】


【手作りの武器でボスモンスターを2発で仕留めたハルちゃんを信じろ】


「………………………………」


ここまで倒したモンスター――みんな遠距離からだったけども手応え的に――囲まれてもまだ平気なはず。


万が一のときは少ないとは言え、逃げるには充分な魔力で全力で跳躍して、そこから緊急脱出装置で問題ないはず。


「るるさんも居ないし大丈夫大丈夫」


【草】

【ハルちゃん、それフラグって言わない?】

【るるちゃんの近くで感染してるんじゃ……】


【えみお姉さんが大丈夫なんだから平気だろ】

【さすがにそこまでの疫病神じゃない。 はず……】


【そこは言い切ってやれよ】

【え? いや無理】

【だって呪い様だよ?】

【草】


目をつぶって探知のスキルを最大化。


――距離22メートルから40メートルの空間、数は……31、右の方向に固まってるっぽいな。


【あ、ハルちゃんの腕! まっしろな腕が前に!】

【モンハウの鉄板、最初は遠くからの狙撃。 だから弓みたいに伸ばすのね】

【なるほど、筋力なくてもそうやればいいんだ……】

【でもそれじゃ最初から弓とか銃使えば良いんじゃ?】


【ところがな、ハルちゃんはコスパ主義なんだ】

【つまりはケチ】

【普段から移動中はずっと下向いて石拾いだもんなー】

【あとは他の人に倒されて明らかに残されたドロップとかもな】


【ハルちゃん……もしかして:貧乏家庭】

【家族のために健気なハルちゃんだって!?】


ひゅんっ。


「よし」


1番近いのに当たった。

そいつの反応は消えたから今日の精度は大丈夫。


【え? 当てた?】

【良しって言ったからそうなんじゃ?】

【えっと……敵、これまでみたく、まだ見えてないんだけど……】


【この前の配信でカメラの型番まで指摘されてたけど、それでもこの暗さ……スキルないと見えない暗さで、最低でも15メートル以上離れてる……?】


ひゅんひゅんっ。


モンスターが動き出す気配から、さっきまでよりはっきりと見えるようになった影へ、近い順に石を当てていく。


いつも通りの感覚を最優先に、弓で言う早気……クセで油断しないように慎重に。


【え、速くない?】

【えっと……左手突き出してるから、スリングショット、多分40センチは引いてるでしょ? それを連続でって……】


む、1匹速いのがいるな……じゃ次は君で。


【あ、来た】

【飛行系!】

【前前!】


ひゅんっ。


コウモリさんらしい悲鳴でぼとっと落ちる音。


【……今の、一瞬で消えたけど……色とサイズ的にラピッドバットの上位種じゃね?】

【え、それって最低レベル30とかじゃ?】

【それって中級者ダンジョンの中盤で出てくるやつじゃ】

【見間違いじゃないの?】


【……いや、巻き戻してみたけど多分合ってる。 俺、この前対抗手段なくて宝箱諦めたからよく覚えてる】


【スペリアルラピッドバットを一撃? それも拾っただけのコモンのスリングショットと石で?】


【???】

【???】

【俺、そんなに弱かったのかなぁ……】

【ダンジョンの ほうそくが みだれる】


今のコウモリさんはちょっとだけ速かったけども、コウモリさんだから特に驚くことはない。


のそのそ起きてくるモンスターたちをいつも通り冷静に、丁寧に。


1匹1匹、石を右手で袋から出してゴムのとこにセットして、両腕にちょっとだけの魔力を込めて左手を真っ直ぐ、右手は胸くらいまで引っ張って威力のかさ増し。


――ひゅんっ、ひゅんっ。


【あの、石が風切る音とモンスターの断末魔が遠くから響くのしか聞こえないんだけど……】

【いつもながらに派手さゼロ、だけど見てるとスルメな殺戮シーンだな】


【あの、掲示板の方でこのダンジョンのレベルとか絞られたみたいなんだけど……】

【入り口はレベル10とかだけど200階層まである大きいとこっぽいんだけど……】


【は?】

【初心者用ダンジョンなら深くて25層、中級者ダンジョンで50から100ってのは知ってるけど……】

【200とか……え?】


【いやね? るるちゃんんとこの事務所のある町にあるのよ。 初心者用ダンジョンと、そっくりな名前のダンジョンが。 めっちゃ注意されるから俺も知ってる】


【でも入るときに推奨レベルとか書いてあるはずだし】


【天然疑惑のハルちゃんだよ?】

【ああ、ハルちゃんならやりかねん】

【草】


【そんなとこ持ち込み無しのアタックしてんの? ハルちゃん】

【すげぇ】


【しかもさ、なんか階段のトラップか何かで階層飛び飛びっぽい って指摘が……】


【やっぱりるるちゃん……】

【冗談じゃなくリアルでるるちゃんが感染してる?】

【るるちゃん怖……】

【なんかハルちゃんの配信見るのでさえ怖くなってきた】

【るるちゃんが追ってきそうでなぁ】


そうして僕は最後の石を投げて、ちょっと耳をそばだてる。


――よし。


「いつも通り」


【ハルちゃん、この落ち着きようよ】

【けどお願い、コメント見て……】

【ダメだ、スマホ取り出す気配すらない】


【ハルちゃんここ違う、初心者用ダンジョン違うのよ】

【初めてのおつかい的なアタックするところじゃない……】

【ハルちゃんのこのぽんこつっぷり……まさかるるちゃんの……】


【いや、ハルちゃんのこの調子はいつも通りだぞ?】

【おう、いつもマイペースだもんな】

【狩りの途中の待ち時間、タブレットで読書してるって言い放った猛者だもんな】

【草】



◆◆◆



17話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


と思ってくださいましたら↓の♥や応援コメント、目次から★~★★★評価とフォローをお願いします。


※しばらくコメントや感想に返信が追いつきませんけれども、ありがたく読ませていただいています。

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