4話 VSボスモンスター。 僕にしては珍しい2発目の砲弾は僕自身と

しっかしほんと、バカでかいドラゴンだなー、あれ。


中層の普通の洞窟なもんだからぎゅうぎゅう詰めじゃん……。


【ハルちゃん、だから手元見えちゃってる……って見てねぇ!】

【ハルちゃん、普段から狩り終わってからコメント見る派だから……】

【まぁ見ても基本的に「ありがとうございます」とかだけだけどね……】

【その素っ気なさが良い】

【ああ……!】


【とりあえずハルちゃんがマジで子供のおててしてるのだけは把握】

【あと長い金髪な】

【て言うか何あの武器。 見たことないんだけど】

【ハルちゃんお手製武器だぞ?】

【あのお手々でちまちまと……】


無反動のロケット砲……もどき。

自作だからその辺はさっぱりだ。


一般的な魔物は、銃弾くらいじゃ簡単には倒れない。


倒れるんだったら今ごろ世界中のダンジョンは軍隊とかが制圧してるもんね。


そんな攻撃でもヘッドショット……つまりコアに直撃すればそうでもないけど、図体が大きくなっていく中層以降のモンスターには効かないことも多い。


でも「効きませんでした」じゃ困る。

僕はソロだし、事情的に救助要請は出せないんだ。


だから自作武器で、なんとか足りない筋力を底上げ。


魔力は結構あるけど、あれって半分くらい使うとクラってしてくるからあんまり好きじゃないし、魔法での攻撃はMP的な残弾がシビア。


そんなわけで構えた、銃でありつつもロケット砲にもなる……もちろん無反動のこれ。


ダンジョンのドロップ品だから作った僕ですら仕組みはよく分かんないけども……動くならいいんだよね。


弾は1発数百万……いや、素材はドロップで作ってるからあくまでお店で頼んだらね?


そんなお高いとっておきなんだ、僕は普段の何倍も時間を掛けて狙いを定める。


【カメラ! カメラが肝心のモンスター捕らえてないよハルちゃん! お手々だよお手々!】

【草】


【幼女のお手々配信……なんて斬新なんだ】

【斬新すぎる】

【そんな発想は誰にも浮かばない】

【やる気無いここでしか見られないレア配信】


【俺……今日初見でここ来て良かった】

【もちろん登録したよな?】

【ハルちゃん親衛隊は全アーカイブの視聴が義務だぞ】

【がんばる】


【ちなみにほとんどは移動と待機だから大した量じゃない……まぁ4年分くらい、週4とか5だけど】

【え、なにそれこの子どんだけ潜ってるの】


【専業でも普通は週2から3だよなぁ……やっぱハルちゃんおかしいわ】

【しかも10時間以上潜ってる日でも、ひとことも発しない強靱メンタル】

【強靱では?】

【狂人の間違いじゃ?】


【あっ……】

【あっあっ】

【ハルちゃーん! コメント見てー!!】

【どうしたみんな】


【どんだけの絶望なのかって深谷るるの配信行ったら……ハルちゃんの金髪、あっちのカメラに映ってるー!?】


【草】

【よりにもよって助ける相手から身バレするの、ハルちゃんらしいと言えばハルちゃんらしい】


「………………………………」


どうやらあのドラゴン、本来はバカでかい最下層のボスフロアで手下と一緒に動くつもりだったのが、よりにもよって中層だから狭くってあんまり動けないらしい。


「なんかここ、つっかえて狭いんだけど!?」って顔してるし。

暗くて表情見えないけどね。


分かる分かる、家具と壁のすき間に落としたの取るときとかそうなるよね。

大人の体だった頃に何回も思ったからよく分かる。


今?


子供の体だからね……ベッドの下にだって潜り込めるよ。


そんなドラゴンさんはかつての僕がすき間に入ったもの取ろうとあがくみたいにもぞもぞしてるだけ。


おかげで、1分くらい経っても助けなきゃいけない子との距離もそこまで縮まらない。


で、そこに僕も居る。


――残念だったね?


そうしてかしゃこんって気の抜けた音が響いてぽこって弾が飛び出す。


そこでさっとしゃがむと頭にこつって瓦礫が当たる音と一緒に火を噴いて飛んで行く弾の音。


【あ、カメラ戻った】

【うおっまぶし】

【なぁにあれぇ……】


【ダンジョンっていう閉鎖空間でロケット砲吹っ飛ばすハルちゃん草】

【草】


【アグレッシブ幼女】

【こんな奥の手持ってたんか……意地でもソロでやるって意志を感じる】

【どんだけぼっちこじらせてるの、ハルちゃん……】


――どおん。


火薬と魔力での飛翔、そして頭部に直撃しての火薬の炸裂に魔力での追加攻撃。


ドラゴンが悶絶する声が聞こえる。

けどまだ致命傷にはならないだろう。


……普段は1発で倒すけども、今回はあと1発必要かな。


どうせならちゃんとした装備で来れば、こんなにお高いの使わなくてもよかったのにね……まぁダンジョン内での想定外はしょうがない。


そんなことを思いながら煙が晴れるまでにもう1発伏せながら込めて、うなり声のする方向に再度構え。


「!」


【え? やばくね】

【ドラゴン、るるちゃんの方に倒れかけてる】

【さすがのハルちゃんでもボスは一撃じゃ済まないか】

【あれ、ドラゴンが意識失っててもるるちゃんぺちゃんこなんじゃ……】


――まずい。


僕は念のためにって構えてた射出装置を片手に――くぼみから身を躍らせた。


軽い体が、ちょっとだけ浮く。


【ちょ、ハルちゃんやばいって!】

【落ちる落ちる! ……あれ?】

【むしろ前に加速してる?】

【飛行魔法?】


しゅごおおって背中からの音。


く……首が予想以上に……!


背中にしょったリュックの下半分は、僕お手製の緊急離脱装置――つまりはジェット噴射機。


これでいざとなったら飛んで逃げるためのもの。

軽い体になってるから燃料の魔力も少なくて良いし。


……ただ、初めて実戦で使ったけど……せめて速度3段階くらいにしとけば良かったぁ!


ものすごい勢いで目の前に迫ってくるドラゴンの体。


……あいつの目は開いてない。


もしかしたらもうHP、ほとんどないかも。

でも他の装備なんて持って来てないし、今の僕にはこれしかない。


もったいないなぁ……今回ばかりは保証してもらいたいなぁ。

でもムリだよなぁ……だって顔見せたらダメだもんなぁ……。


こんなときにももったいない病を発症している僕は、あっという間にドラゴンの目元。


【でっか】

【って言うかドラゴンにここまで近寄った資料ないからこの配信……】

【みなまで言うな】


【そうだな、後で金髪ロリかショタってバレたのが分かったときのハルちゃんの慌てっぷりを見たいんだ、俺は】


【分かる】

【分かる】

【さすがのハルちゃんでも声くらい上げるよな?】

【いや、冷静に納得するかも】

【分かる】


「――――――っ!」


下の方でさっきの子が叫んでるみたいだけど、あいにくごおおおおっていう僕の背中からの音で聞こえない。


「……じゃあね」


がしゃこ……あ、これ、爆風やばいんじゃ?


一瞬そう思った僕は、直後に光と音を喪失して――ちょっとだけ夢心地。


その直前、リストバンドな緊急脱出装置が反応して僕をダンジョン外へと転送させようとする感覚。


あー、ドロップがー。


でもあの子のこと助けられるからいっか。


――やっぱ大人の男から小さな女の子って、こういうとこで感覚ミスるなぁって思った。





「……すごい……」


【小さな女の子……つまりは幼女だな!】


【小さなるるちゃんより小さいならそれは幼女】

【そうじゃなきゃバストサイズで負けそう】

【絶壁だから負けてるんじゃね?】

【草】


煙が少し晴れて彼女が呟いた「小さな女の子」に反応しているらしい視聴者たち。


死ぬと思った矢先に大きな音と光、ドラゴンがたたらを踏む振動とで直感的に助かるかもしれないと思った深谷るるは――普段の癖で、ちらっとだがコメントを見て苦笑した。


――こんなときでも貧乳ネタ。


ううん、むしろみんなもちょっと安心したのかも。


……っと、カメラのスイッチスイッチ……。


彼女の手がしばらくさまよう。


――救助要請で来たと思しき誰かは、ここまで姿を現さなかったどころか声すらかけてこない。


ってことは訳アリの人ってことよね……多分。


これでも上位の実力はある自負のある彼女――ただし極めて運が悪い――は、そう判断する。


だから、後方に向いたカメラの切り替えをしようとしたのだが。


……今の爆風みたいなのでどっか行っちゃった。


けど、暗いし遠いから配信のカメラにはシルエットくらいしか映っていないよね……多分。


恩人へ迷惑を掛けないようにと配慮をする彼女だったが、たった今死ぬところから猶予ができて気が抜けて――万が一にでも顔が映ってしまう可能性を軽く考えてしまった。


【ってるるちゃん、早く隠れて隠れて!】

【たったの1撃じゃ……って、なんかやばくない?】

【なんかでかくなってる】

【違う、倒れてきてるんだ】


「ひ、ひゅええーっ!? ……あ、まだ腰抜けてますね、これ。 手しか動きませんね」


【草】

【るるちゃんの肝座ってるってレベルじゃないよね?】


【いやまあついさっき死ぬって思ってたらそうだろ】

【それもそうか】

【とにかく逃げてー】


「……っ! ……っ! ……だめみたい」


【腰が抜けるとねぇ……】

【ただでさえ3回も天井から地面に落っこちてるわけだし】

【改めてダンジョンに潜ってレベル上げてる人間の耐久力よ】

【でもあの図体が倒れてきたらぺちゃんこなんじゃ?】


ぺちゃんこ。


「……あはは」


そんな表現を目にした彼女は、最初の罠を踏み抜いてから初めて笑った。


【やばい、怖くて錯乱してる!?】

【るるちゃん、お姉さんたち、もう60階層到達だって! あともうちょっと――】

【あ、倒れる倒れる】


空が落ちてくるような錯覚。


ドラゴンという巨大すぎるモンスターが倒れてくるらしい。


――まだうなり声はしてるから生きてる。


そもそもモンスターのHPが0になってから消えるまでにはちょっとラグがあるもん。


だから潰されたら……そのままぺちゃんこよね。


それが分かっていても動かない、私の脚。

腕の力だけじゃ、とても逃げ切れない。


……けど、今なら笑顔で死ねるかも。


彼女は、理由のない笑い声を抑えるので精いっぱい。


……確かに錯乱してるのかもね。


だって、何でだか分からないけど「絶対助かる」って思ってるんだもん。


「帰ったらゆっくりお風呂入りたいなぁ」と「かみんなに叱られるんだろうなぁ」とか……「助けてくれた人にちゃんとお礼したいなぁ」とか、そんな帰ったあとのことばっかり。


これが走馬灯なのかな。

だったら……幸せね、私って。


「じゃあね、みんな…………って、ええええぇぇ!?」


なんだかヒロインチックでメランコリックな感情で美化しようとした彼女の前を轟音が突き抜ける。


「……やっぱり女の子!?」


彼女の動体視力は、目の前を高速で突っ込んでいく「彼女」を捕らえていた。


「って無茶ですー! あなたまで死んじゃいますから早く避けてくださーい! あ、助けてくれてありがとー!」


【るるちゃんいい子すぎて泣いた】

【泣いた】

【って言うか女の子……やはりロリ】

【速すぎてカメラに残像しか映ってねぇ!?】


【ロリでソロで遠距離職で高レベルで今日空いてるのは……やっぱいねぇ!?】


深谷るるの声に一瞬反応したのか、その彼女がちらりと振り返る。


――金色の長い髪に蒼い瞳、長いローブを着ていて頭には変な形の何かが王冠のようにも見える。


「……はえー、お姫様?」


【るるちゃんしっかり】

【るるちゃん生きて】


死が迫った危機のはずなのに気の抜けたコメントばかりが流れる。

その大半は深谷るるの精神状態を本気で心配しているもの。


その一瞬後、「彼女」はドラゴンの頭部へと迫っていて――銃口をかちりと向け、その瞬間。


先ほどよりも激しい音、光、振動。


――そうして深谷るるもまた、どこかへと吹き飛ばされた。



◆◆◆



4話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


と思ってくださいましたら↓の♥や応援コメント、目次から★~★★★評価とフォローをお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る