束の間の遊戯-19-
麻耶さんは俺の顔色を確認しながら、やや間を開けて、
「……そこで先ほどの話しよ。つまり、ほとぼりが冷めるまであなたはどこかに雲隠れするのがベストということよ。そして、その絶好の機会が新ダンジョンの探索という訳。幸い米国政府はあなたの存在を隠したがっているから、しばらくすればDoogleの検索結果からもあなたの情報は表示されなくなるはずだわ。そうなれば世間もあなたのことを忘れるでしょう」
と、麻耶さんが自信満々にそう言い放つ。
しかし、先ほどからの表情の変化といい、麻耶さんの振る舞いは妙に芝居がかっている感がある。
だいたい昨日の今日で麻耶さんの意見は180度変わっている。
麻耶さんには申し訳ないが、どうにも胡散臭く思えてしまう。
と、俺が思わず疑いの視線を麻耶さんに向けると、
「な、なに? その目は……」
と、非常にわかりやすい挙動不審な反応を見せる。
麻耶さんは気まずそうに俺から目線をそらし、置き場のないその目を宙に泳がす。
ややあって、麻耶さんは、
「ああ! も、もう……わかったわよ! し、正直に言うから、そんな目をわたしに向けるのはやめなさい! あなたにじっと見られるとまた変な感じに……もう……」
と、そうあっけなく白旗を上げる。
別に俺は睨んでいたつもりはなかったのだが……。
どうやら麻耶さんは直情的な性格ゆえなのか、嘘をつくのはあまり得意ではないらしい。
麻耶さんの仕事を思えば、駆け引き……交渉はそれなりにある気がするし、先のクラーク氏とも舌戦を繰り広げていた気はするが……。
いや結局、最後は口ではなく実力……サンダーボルトで解決しようとしていた……か。
俺と初めて会った時もいきなり実力行使……綾音さんの部隊突入……だったしな……。
麻耶さん自身の認識としては交渉上手だけれど、実際は口より先に手が出てしまうタイプなのかもしれない。
その尻拭いを美月さんがやっているような気がする……いやそうに違いない。
「わ、悪かったわよ……。大口叩いていたのに、わたしは、あなたを……結局米国政府から守り切ることができずに、奴らの要望に屈することになってしまった」
麻耶さんをそう言うと顔をうつむかせる。
その表情は今まで見たことがないほどに悔しそうな顔を浮かべていた。
俺は麻耶さんの予想外の表情と言葉に思わず呆気に捉えられていた。
俺はてっきりなにか麻耶さんが不都合なことでも隠しているのかと思っていたのだが……。
俺が無言のまま驚いていると、麻耶さんは顔を上げて、
「なによ……そんな顔をして……。わたしだって謝ることもあるのよ。こないだだって、無理やりとはいえ……誤ったでしょ……」
と、なぜかそこで顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「と、とにかく……そ、そういうことよ。こ、これで満足でしょ!」
「い、いえ……そこまで考えてくれていたとは……なにか……そのすいません。それに……ありがとうございます」
「あ、あなたが……あ、謝る必要なんてないわ。それに本当はわたしはあなたにお礼をしなければ……」
麻耶さんはそこで言葉を止めると、何故か踵を返して、後ろを向いてしまう。
俺は、麻耶さんを疑ってしまった自分を恥じた。
考えてみれば、麻耶さんは日本のダンジョン協会の会長……つまり組織のトップを務めている立場だ。
美月さんがフォローをしているとはいえ、麻耶さんが単にワンマンで横暴なだけであれば、周りはついてこないだろう。
人には二面性がある。
麻耶さんがワンマンなのは事実だろうが、部下を守る気持ちや、自身が責任を取らなければならないという意思と覚悟もまた強いのかもしれない。
言ってみれば昭和の兄貴分的な……いやアネゴ的な性格なのだろう。
しばらくして、麻耶さんは再びこちらを向く。
その顔は幾分か緊張した面持ちをしている。
「そ、それで……二見、どうなの? 新ダンジョンに行く気はあるの?」
「はい、それは大丈夫です」
俺はそう即答する。
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