英雄、目覚める-10-
「さ、三尉!」
「こ、この野郎! やっぱり!」
当然俺の行動に対して、後ろの男たちがにわかに殺気立ってくる。
「いいのか? お前の能力で部下たちを抑えなくて。せっかく拾った命がなくなることになるぞ?」
「お、お前!? わたしの能力を——」
「そんなことはどうでもいい。それでどうするんだ? お礼をしてくれるのか?」
「……す、すると言ったら、部下たちに危害は——」
「もちろんだ。それに、俺の女になるお前のためにおまけをつけてやってもいい」
「だ、誰がお前の女などに——」
「そこで倒れているお前の部下たちを治してやってもいいぞ?」
「お、お前!? 回復魔法も使えるのか? そんなことが……いったい何種類の魔法を習得しているんだ!?」
「さあ……どうするんだ? お前程度の女と引き換えに部下の命もこれまでの非礼も許してやるというんだ。俺の寛大さに感謝してもらいたいものなのだがな」
「く……わ、わかった……」
「……取引成立だな。話しがわかる女は嫌いじゃない。それでお前の名前はなんというんだ?」
「間宮……綾音だ……」
「そうか……なら綾音。さっそく取引をはじめるか」
俺はそう言うと、周囲に倒れている男たちの方を見る。
やはり死亡している者はいない。
いくら俺でも死者の蘇生はできない。
まあ……アンデットとしてなら蘇生することはできるが、それではさすがに約束違反だろう。
幸い部隊の者たちはまた生者で、せいぜいが重体といったところである。
これなら十分対処可能だ。
俺は宙に浮き、男たちを見下ろす。
まだ意識があるものたちは、俺のその突然の行動に警戒感をあらわにする。
綾音も俺をこわばった顔をしながら見ている。
まあ……信用がないのは当然だろうな。
さっさとすましてしまうか。
正直回復魔法は苦手だ。
物質というのは秩序を構成する——治す——ことより壊す方が簡単だ。
それは魔法においても共通の論理だ。
俺は半径数メートル内の複数の対象を回復する魔法——グレートヒール——を唱える。
男たちの顔は恐怖から驚き……そして最後には畏怖へと変わる。
英雄というやつは、愛されるより恐れられなければな。
いや……少しばかりの寛大さも必要か。
俺は前回あまりにも恐れられすぎた。
倒れていた男たちも立ち上がり、あっけにとらわれた顔で俺を見ている。
その顔にはもう怒りや敵意はない。
今後のことを考えればこういう奴らは畏怖させて、俺の駒にしておいた方がよいかもしれないな。
いくら俺でも一人で出来ることには限度がある。
それに結局のところ強者より弱者の方が人数ははるかに多い。
そして、弱者でも無数に集まって、結束すれば侮り固い。
そのことに早く気づいていれば、こんなところで茶番劇を演じている必要はなかったのだが……。
まあいい。
俺はまだ生きている。
前回の反省を活かして、この世界で再度英雄になり、そして今度こそ——。
俺の脳裏に裏切り者の『女』の顔が浮かぶ。
あの『女』も、既にいないのだしな。
未だにあの『女』が残した忌まわしい制約はあるが……。
それにしても……やはり防護や回復といった系統の魔法についてはほぼ威力が落ちていない。
回復時に部分的に再構築が出来なくなるということもない。
回復魔法や防護魔法に限れば、暗示がとければ異世界——全盛期——の力を使うことができる。
これは興味深く、重要な情報だ。
俺はなおもざわついている男たちを横目に、綾音の前へと下りる。
「さてと……俺は約束をはたしたぞ。今度はお前の番だ」
「……本当にこんな効果の高い回復魔法を……しかも全員に同時に……。いったいお前は!?」
綾音は驚愕の表情を浮かべなから、俺を見ている。
が……この女先ほどから俺の目は決して見ようとしない。
「戯言はいい。それにしても……お前、なぜ俺の目をみない?」
「べ、別に——」
俺は顔をそむけようとする綾音の頬を両手でつかみ、強引に俺の方へと向ける。
「き、きさま!? な、何を——」
女は必死に抵抗するが、かまわず無理やり女と目をあわせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます