英雄、目覚める-09-

「さ、三尉!」


「しっかりしろ! 手はつかんでいる!」

 

 先ほどの男たちが、陥没した地面に落ちそうになりながら、瓦礫の上で悪戦苦闘している。


 瓦礫の山の中わずかに残った平地にはデスナイトと交戦していたであろう部隊の人間たちが倒れている。


 なぜあいつらが生きているんだ。


 デスナイトの攻撃はまだしも俺の魔法をうけて無事のはずがない。

 

 その答えはすぐにわかった。

 

 部隊全員に『クロニクルガード』がかかっていた。

 

 そうか……暗示がとける寸前にやつが……いや俺が……。

 

 そう……間抜けなことに防護魔法をかけていたのは俺だったのだ。

 

 俺は、男たちをいささか苦い気持ちで見ていた。

 

 と、一人——リーダー格の人間……間宮——が俺に気付く。


「おい! お前! こっちに来て手伝ってくれ!」


「さ、三尉! な、何を言って……な! あ、あいつ……と、飛んでるのか……むちゃくちゃだ……」


 当然俺には助ける義理はないので、そのまま無視しようかと思った。


 が……ふとあることを思いつき、考えを変えて男たちの元へと行くことにした。


 むろん義侠心がわいたわけではない。


 こいつらには『クロニクルガード』がかかっている。


 俺は単に現在の自身の防護魔法——クロニクルガード——の効果を確かめたかったのだ。


 それにあの間宮という人間……女なのか。


 これはいささか面白そうだ。


 瓦礫の中で、無様に固まっている連中を近くで観察する。


 軽症から立つことができないほど重症な者まで複数いる。


 が……どれもおそらく俺が『クロニクルガード』をかける前の傷だと見られた。


 先ほどのデスナイトの攻撃や俺のあの制限された魔法程度では、やはり『クロニクルガード』が破られることはないようだ。


 というより、もしかしたら防護魔法ならば、暗示の効果が及ばないのかもしれない。


 十数人に同時展開していても、威力はそれほど落ちているような印象をうけない。


 先ほどの威力が有意に落ちていた攻撃魔法と比べればそれは雲泥の差に思える。


「おい! 黙って見てないで引き上げるのを手伝ってくれ!」

 

 先ほどの女——間宮——が隣で叫んでいる。

 

 その耳障りな声で思考に集中できない。

 

 まあしかたがない。

 

 ひとつ聞きたいことがあるしな。

 

 俺は、宙で体を震わせている男の手を掴み、引き上げる。


「た、助かった……」


「か、感謝する……」

 

 間宮たちはそう言うが、しかし俺から少しばかり距離をおいて、こちらを伺っている。


 男たちの表情は警戒、不安、恐怖が9割、残りの1割が畏怖といったところか。

 

 やがて、男たちの中から一人——間宮——が代表して、俺の前に歩み寄ってくる。


「お、教えてくれ。 あ、あの化け物は……これは全部お前がやったことなのか?」


「ああ、そうだ。デスナイト……いやお前らがいう化け物は俺が魔法で消滅させた」


 後ろで男たちがざわついている。


「ば、ばかな……あんな威力の魔法がある訳がない」


「でもこいつなら……やっぱりこいつは……」

 

 まったく……面倒なことだ。


 いつだって弱者というのは助けたら、助けたで勝手にこちらに恐怖を抱くのだからな。


「静かにしろ! なんであれわたしたちがこいつにいや……この人に助けられたことには変わらない。ならば——」


「なら……どうするんだ? お前が俺にお礼でもしてくれるのか?」

 

 俺は一歩前に出て、間宮の側に近づく。

 

 間宮は驚きの表情を浮かべなからも、その場から動こうとしない。

 

 だが、その全身は震えている。


「な、何が望みだ? し、謝罪か……それとも——」


「お前……女なんだろ? それならわかっているだろう?」


「!! ふ、ふざけるな!」

 

 間宮は顔を真っ赤にして目をそらす。

 

 俺は無視して、間宮の両手をつかんで、上へと上げる。


 間宮の顔が俺の目と鼻の先にたち現れる

 

 やはりこうして見ると、この女なかなかの美貌だ。


「……き、きさま! な、何をする!」

 

 間宮がうろたえながらも、俺をきっと睨む。

 

 しかし、その行動とは裏腹にその目には恐怖……いや畏怖の念がこもっていた。

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