異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の冒険者パーティを助けたら世界的有名人になってしまい、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
オッサン vs 陸上自衛隊特殊作戦群——対異能即応部隊——
オッサン vs 陸上自衛隊特殊作戦群——対異能即応部隊——
花蓮さんと鈴羽さんは到底承服しかねるといった顔をしているが、今のところ麻耶さんの言う通りにしていて、その場にじっとしている。
だが、この一瞬即発状態では何が起きてもおかしくはない。
人の生き死にが問われる場——戦場——というのはいつだって想定外のことが起きるのだから。
俺は異世界で嫌というほどそのことを味わってきた……。
既に俺は、部隊の突入と同時に、防護魔法を花蓮さんと鈴羽さん、それに自分自身に展開していた。
防護魔法を使うということは、すなわち敵対者に対する宣戦布告と同意義ではあるが、銃を向けられているこの状況下ではやむを得ない最低限の処置だろう。
彼らもそう思ってくれればよいが、この膠着状態が保たれているということは、少なくとも今のところは、彼らも戦闘に消極的だと信じたいが……。
彼らが装備している軍用銃の殺傷力がどの程度のものかは俺には皆目検討がつかない。
だが、異世界においても、物理特性上において銃と似ている構造を持つ——貫通特化型——魔法は存在していた。
人、モンスター、それに……魔族……、何にせよ生物である以上、急所——破壊されれば生体機能が停止する——は必ず存在する。
魔法はそもそも異世界において、殺傷の手段として、数百年にわたり進化してきた代物だ。
だから、『貫通特化型魔法』は、どの国においても、どの時代においても、魔法の中の花形であり続けた。
いかに効率的に対象を破壊、殺傷するかにおいて、『貫通特化型魔法』ほど優れたものはない。
そして、争いというのは異世界においても、この世界においても、決してなくなることはないのだから……。
いずれにせよ、『貫通特化型魔法』を使う者が多いということは、逆にそれを防ぐ魔法の需要も高くなる。
異世界で25年間生き延びてきた俺も、当然それらの魔法をいくつか習得している。
発動させた魔法は、俺がいま現在使える最大の防護魔法「クロニクルガード」である。
当然ながら三人同時に展開した場合は、一人の場合に比べて大分その効果は落ちてしまう。
それでも余程の威力を誇る『貫通特化型魔法』の直撃を受けない限りは致命傷にはならないはずだ……。
これで十分だと思いたいが……。
「さてと……二見。今後の展開はあなた次第なのだけれど……。無駄な抵抗はやめて大人しく投降しなさい。あなたがどこの国の工作員かは知らないけれど、あまりわたしたちを甘くみないことね。我が国においても、あなたのような異能を持つ諜報員に対しては、現場判断でいつでも『射撃許可』は出せるのよ」
答えなどとうに決まっている。
投降すれば戦闘を避けられるなんて、こんな有り難い話しはない。
「……抵抗するつもりはもとよりありません」
「意外と話しが通じる人間でよかったわ。異能者はたいていおかしな人ばかりだから……。まあ……人のことは言えないのだけれどね……」
俺は両手を高く上げて、抵抗の意思がないことを示す。
「拘束しなさい」
麻耶さんが静かにそう言うと、部隊の男たち数人が俺を囲む。
ついで、俺は地面に組み伏されて、両手を手錠にかけられ、両足も紐のようなものであっという間に拘束される。
ついで、猿ぐつわを押し込まれて、フードを被さられる。
俺はその対応に、ここまでやるのか……と、いくぶん不思議に思っていた。
いや……俺が知らないだけで、もしかしたらこの25年の間に日本の治安も悪化したののかもしれないな。
地下鉄で毒物が撒かれるなんて事件もあったことだし……。
まあ問答無用で殺されないだけ、異世界よりははるかにマシだし、誰にも被害が出ていないなら御の字である。
「敬三様!! 麻耶さん!! あなた……こんなことして許されると——」
「ご主人様!! 麻耶様! あなたは——」
花蓮さんと鈴羽さんの切実な声が聞こえる。
大丈夫です……と言いたいが、当然ながら猿ぐつわのせいで声は出せない。
「動かないでといったでしょう! 二見は精神操作魔法の使い手なのよ。魔法については未だに謎ばかりだけれど、精神系統の魔法の使い手は見ること、話すことで術を発動することはあなたたちも知っているでしょう? 目と口をふさぐのは当然の処置だわ」
なるほど……そういうことだったのか。
まあ……確かに精神操作魔法は視覚、聴覚に訴えるタイプが多い。
が……前述のようにその効果を及ぶすためには余程の力量差が必要だし、さらには制約をクリアする——数日、数週間といった長期にわたって術をかける——必要がある。
ここまでの措置はいささか過剰すぎる気がするが、上に立つものとはえてして心配性であるし、特に兵を動かす立場のものであればそれは悪いことではない。
しかし……それにしては、麻耶さんが、何も対策をせずに俺と正面きって話していたのはおかしな気がするが……。
彼女には精神操作魔法を防ぐ何らかの算段があるのだろうか。
「か、会長……。あの二人の拘束は……」
と、今まで無言を貫いていた部隊の人間の声がする。
なぜかは不明だが、その声は震えていた……。
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