大切のあり方

鈴乱

第1話


「君、ほんとは、記憶が――」


「あるよ」


 潤んだ瞳で、確かに彼はそう言った。


「記憶を失う、なんて嘘。全部、僕の中に残ってる」


「……、じゃあ、なんであんな嘘を」


「あいつは優しいからさ。僕の記憶が残ると知ったら、あっちに帰れなくなってしまうだろ」


「彼のためなの?」


「どうだろう。僕のためかもしれない」



――うん。

  僕にとって、彼は初めて出会った、僕以外に大切にしたいと思った相手だった。

  長いこと、「大切」から離れていたから、「大切」の仕方なんて忘れていたけど……。


  でもきっと、たぶん。

  僕は彼の笑顔を見たいと思った。

  僕は、彼が元気でいて欲しいと思った。


  僕に気を回さず、彼の生を貫いてほしい、と。


  僕にとっては、それが、「大切」の形。


  大切、って……、たぶんだけど、ずっと一緒にいることだけじゃないと……思うんだ。


  彼の大事なものを大事にできるようにすることだと、思うんだ。


  大事なものは……きっと一つだけじゃない。

  大事な人だって……一人ってわけでもない。


  彼が彼の大切なものを大切にできること。そのために必要な手助けをすること。


  僕には、それが……。


  僕にとってはそれが「大切」の表し方なんだ。

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大切のあり方 鈴乱 @sorazome

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