第17話 ほぼ恋人

 美穂は洗濯物を片付けたことで、服はびしょびしょになっていた。


「美穂さん、タオルで応急処置を・・・・・・」


 タオルを渡そうとするも、受け取る気配はなかった。水気をしっかりと切らないと、風邪をひくリスクは高まるのに。


 美穂の口から出てきたのは、思いもよらない言葉だった。


「体をまんべんなく拭いてほしい。できないというなら、せめて背中だけでも・・・・・・」


「美穂ちゃんの体をふくの?」


「そうだよ、何か問題があるの」


 胸はダメだとしても、背中くらいなら拭いてもいいかな、そのように考えた男は了承することにした。


「背中だけなら・・・・・・」


 美穂は明らかに、不満な表情を浮かべている。豊は知らず知らずのうちに、意にそぐわない発言をしたのを察した。


 美穂の後方に位置を取ると、ブラジャーが透けていた。服の中から見える二つの胸、は男を刺激するには十分すぎる威力を持っていた。


「豊君、早くしてね」


 服の透けた背中をまともに見たら、理性は完全崩壊。視線をそらした状態で、背中の水分を拭き取ろうと思った。


 美穂の体をふいていると、むにむにという感触があった。豊はどこなのかを確認すると、バストの上だとわかった。


「美穂さん、ごめんなさい・・・・・・」


 美穂はいつにもなく、落ち着いた声で話を返す。胸を触られたことに対する怒りは、まったく感じられなかった。


「胸も拭きたいなら、そういってくれればいいのに。すべての個所を応急処置してもいいといったよね」


「そうだけど・・・・・・」


「清彦君は遠慮しすぎ。もっともっと積極的になってもいいんだよ。私の体を奪うくらいの勢いが欲しい」 


 恋人ではないけど、ほぼ恋人とみなしているのかな。彼女の胸の内を、完全に読み取ることはできなかった。


「同じところをいつでも触っていいからね。足、○○○などもウェルカムだから」


 豊はへくしゅんという咳をする。


「豊君の体を応急処置しないと・・・・・・」


 美穂は背中だけでなく、おなかなどにもタオルを当てていた。痴漢と訴えられるリスクの低さからか、堂々としているのが印象的だ。


「水気を拭き取るときは、こんな感じでやってね。ゆったりとしていたら、体の調子は悪化の一途をたどることになる」


「美穂さんは成長期を過ぎても、まったく変わることがないね」


 成長期を迎えるまでは、当然のように体を触っていた。あの頃に戻ったかのように感じられた。


「豊君との付き合いはとっても長いからね。私の中で変えていくのは、もう不可能だとわかったんだ」


「これから・・・・・・」


 美穂は長年の経験から、次の言葉を読み取っていた。


「どうなるかはわからないけど、一秒でも長く一緒にいられるといいね」


 豊、美穂のどちらかが交際相手を見つけたら、関係は変わっていくのか。水気を切

ったばかりの男にはわからなかった。


「豊君、ドライヤーを貸してほしい。髪はベトベトして、とっても気持ち悪い」


 豊はタンスの中から、ドライヤーを取り出す。


「美穂ちゃん、ドライヤーだよ」


「豊君、ありがとう」


 美穂は手慣れた手つきで、髪の毛を乾かす。


「豊君、故障しちゃったよ」


 10年前のものを使用し続けていたため、ついに寿命がきてしまったようだ。


「美穂ちゃん、新しいものをもらってくるね」


 美穂は壊れたドライヤーを見つめていた。


「どうせ捨てるんだったら、私にちょうだい。大切なコレクションにする」


「壊れているけど・・・・・・」


「プレゼント交換をしたけど、形に残らないものばかりだった。一つでいいから、形として残るものを欲しかったの」


「いいよ。美穂ちゃんにプレゼントする」


「ありがとう・・・・・・」


 美穂は故障したドライヤーを、宝物さながらに見つめていた。

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