評判の薬(2)

 私から初級HP回復ポーション+1の鑑定書を受け取ったロシェスは、ある一点をじっと見つめ、それから書類をテーブルの脇にけた。

 そのときに彼が「やはり」と呟いていたので、何のことかはわからないがロシェスの疑問が解決してよかった……そう思っていた。

 なので、朝食は晴れやかな気持ちで美味しくいただいたし、ロシェスが今朝受け取ったという『旅らくナール』の登録申請許可も素直に喜べた。

 それなのに、まさか彼の「やはり」にこんな意味があろうとは……。


「……本当だ。私には見えなかった効果が付いてる」


 片付けまで終わったタイミングで、ロシェスは改めて私に鑑定書について話を切り出してきた。――私の鑑定スキルの落とし穴について。

 まさに、落とし穴だと思う。誰が予想できようか、アイテム説明欄が個別設定だったなんて。

 でもよくよく思い返してみれば、思い当たる節はある。

 以前、商業ギルドで服を買ったときのこと。試着自由ということで、私は買う気はないけれど記念に金属製のを装備してみようと考えた。けれど、籠手の側まで行くとアイテム説明欄に『装備不可』の文字があるのを見つけたので、思い留まったのだ。そのときは、「ですよね」くらいの感想しか出てこなかったわけだけれど……。

 ――めっちゃ個別設定だわ。『装備不可』なのは私だわ。


「初級HP回復ポーション+1には、回復速度UP(微)と精神的ストレス軽減(微)。旅らくナールには、HP継続回復(微)、MP継続回復(微)が付いてる。……どうしてこうなった」


 私はうなりながら、両手にそれぞれ持っていた鑑定書をダイニングテーブルに置いた。

 聖力の影響で自動的に付く効果があるのなら、初級HP回復ポーション+1と旅らくナールは同じ効果が付いていないとおかしい。

 使っている素材によって、自動的に付く効果が決まる? それとも聖水の配合率が関係している?


「ナツハ様、確認したいのですが」

「うん?」


 ロシェスの声にそちらを向けば、今度は彼が二つの鑑定書をそれぞれの手で持って見ていた。


「最初に初級HP回復ポーション+1用の聖水を作成したとき、傷や体調不良が治って行く様子を意識しませんでしたか?」

「それはしたと思うけど」


 これをかけたり飲んだりしたらたちまちに治るとかファンタジーだわーって、ある種の感動を覚えながら作っていたはずだし。


「おそらく旅らくナールのときは、冒険者が使用することを想定していましたよね。ここに担ぎ込まれた冒険者を見て、思い付いたあたり」

「そうね」


 思案顔で書類とにらめっこをしていたロシェスが、ここに来て顔を上げる。

 そして彼は「あくまで私の推測ですが」と、私と目を合わせた。


「作成中のナツハ様のイメージが反映しているのではないかと考えます」

「私のイメージ?」

「はい。初級HP回復ポーション+1作成時は、傷や体調不良が治って行くイメージを。そして旅らくナールのときは、これで旅は身も心も快適になるはず……的なことを考えたはずです」

「それはあるかも。……ん? 待って、つまりそれって」


 ポーションで怪我や体調不良がパッと治るイメージをする

 →回復速度UP(微)、精神的ストレス軽減(微)


 身も心も快適になる

 →HP継続回復(微)、MP継続回復(微)


「私のイメージが反映……」

「はい」


 誰が言ったか、『想像は創造に通じる』。

 実現までのスピードが超高速なすごい世界に来てしまった。


「効果の程度が(微)なので正式な効能としては見なされません。だから騒ぎにはならなかったのでしょう。ただ、今後新製品を出すときは登録申請前に、一度民間の鑑定に出した方が安全そうです」

「そうだね……」


 正式な効能としては見なされないけれど、価値はある……健康食品かな?

 あ、意外と言い得て妙かも。精神的ストレス軽減ってGABA配合の健康食品感ある。道理で商業ギルドにいわゆる箱買いをされるはずだよ。

 私はロシェスの「信用できそうな外注先を探しておきます」という言葉に、うなれ半分に頷いた。

 さらに仕事を増やしてしまい、申し開きもございませんっ。

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