親友との再会(3)

 それはまったく偶然の出会いだった。

 そう思ったのは、向こうも同じだろう。


「……テダですか?」

「ロシェス!」


 街を彷徨さまよううちに通りかかった酒場の裏。そこで見かけたさかだるを担いだ赤茶髪の青年に声を掛ければ、もしやと思った人物その人が私を振り返った。

 やや吊り目な金の眼がニッと細められる。私が挨拶をしたときにする、いつもの彼の笑顔だった。

 そのことにやっぱりと思う一方、どうしてと疑問も湧く。


「ドワーフのあなたが何故ここに?」


 エルフ同様、ほとんどのドワーフは里から出ることがない。彼はどんな用事で人里に下りてきているのか。

 そこまで考えたところで、私は今気付いた事実に目をみはった。


「テダ、あなた……奴隷印が……」

「まあ、そういうこと」


 仕事をしながら話をしたいというテダに、私は彼に付いて酒場が所有する倉庫までやって来た。

 倉庫から出す荷物は先程の樽が最後で、残っている仕事は倉庫前に積まれた荷物の入庫だという。「今日は少なめ」というテダの台詞から、私の目の前にある大量の荷物が当日分のみだとうかがえた。


「あなた一人でこれを?」

「ああ。だからここでこうしてしやべっててもバレないってこと」

「手伝います」

「ありがたいけど、それは無理。盗難防止で登録者以外が一定時間以上触れると主人に知らせが行っちまう」

「そうですか……」


 テダの返答に、私は荷物に伸ばしかけた手を引いた。その荷物を、別の荷物を置いて戻ってきた彼がひょいと持ち上げる。私が両手で何とか持てそうな木箱を片手で肩に乗せたテダは、さらに小さめの木箱を片脇に抱えた。


「相変わらず、力持ちですよね。あなた」

「ドワーフの里じゃ鉱石や金属を運ぶのが日常だったからな。こっちで重労働と言われることでも所詮は人間が基準だ。俺にはそれほどでもない」

「そうです、何故あなたが奴隷になったんです? どんな事情があったにしろ、奴隷商に売るなどといういん湿しつな真似をドワーフがするとは思えないのですが」

「正解。俺を売ったのは、エルフの里だ。お前が奴隷商に売られた話を聞いて抗議に行ったら、捕まって売り飛ばされた」

「何てことを!」


 軽い口調で返されたテダの実情に、私は青ざめた。

 たもとかったとはいえ、同族であるエルフのあまりの仕打ちに身体が震える。そしてそれ以上に、テダがエルフの里へ行く原因となった自分に対して怒りが込み上げた。

 しかし――


「いや、俺としては案外悪くないハプニングだったと思ってる」


 私の心中とは裏腹に、テダは変わらず軽口でそう返してきた。


「前にちらっと言ったと思うけど、ドワーフ族は各家に一子相伝の技がある。それの後継者、俺が不出来すぎて従兄弟が選ばれたんだよ。俺は一人っ子だったのに。だからちょっと里に居づらくてさ」


 酒樽を二つ重ねたテダが、元々酒樽が固められていた一角にそれを持って行く。

 そしてまったくバランスを崩すことなくそれを配置した彼は、両手のほこりを払いながら私を振り返った。


「技と言えば、聞いたぞロシェスの噂。お前、薬師になったらしいじゃないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る