イケメンご用意されました!(5)

 エルフは美形の種族という説明は正しい。応接室に現れたロシェスさんに、私は思わず口を半開きで彼に魅入ってしまった。

 すらりとしたたいで白い肌、背は高すぎず低すぎず。髪色は昔持っていたパワーストーン、オレンジカルサイトによく似ている。瞳は「眺めるだけ」の代表名詞、ピンクダイヤモンドのよう。

 もうね、そこに立っているだけで癒やされる。不能という話も変に納得できてしまう。こう、そんな俗なことをやらなさそうというか。いや本当に神々しい! 使い古された感のある生成りのチュニックを着ているはずなのに、輝いている!


「魔法でこちらの会話は、ロシェスに聞こえないようになっております。それで如何でしょうか、イチノセ様」

「あ」


 完全にほうけていた私は、ニーダさんの声掛けによってようやく現実に戻ってこれた。危なかった、あのままだと夢見心地でよだれまで出かねなかった。


「……エルフで魔法が使えないのって、かなり珍しいんですよね」

「ええ、泳げない魚くらいに。そればかりかロシェスは、エルフと犬猿の仲であるドワーフと懇意にしていました。それが里の長の怒りに触れて、同族に売られたのですよ。彼は」


 それは悲惨な経歴の持ち主だ。少し想像しただけで、当たり前のことができないロシェスさんが里で肩身が狭い思いをしていただろうことがわかる。同族に仲の良い人がいなかったから、外に友人を求めていたのかもしれないのに。

 出会いはこんなだけど、私がその友人代わりになれないだろうか。お近づきになりたいよこしまな気持ちが同情を勝るような女なんて駄目か。

 ひとまず私の残念な思考は置いておいて。

 決めた。


「実際見て、確信しました。彼こそ私が探していた人材です。購入の手続きを進めてもらっていいですか?」


 泳げない魚くらいに珍しい人物、容姿は輝かんばかりのイケメン。ロシェスさんはまさに、私が求めていた隠れ蓑にピッタリの人材と言えよう。彼なら突然に特殊能力が発現しても、そんなことも起こるかもしれないと周りに思わせる下地がある。

 今のところ予定はないが、この先契約を終了する日が来ても、高級奴隷は契約者のことを忘れるという。だからその日を境に特殊能力が使えなくなっても、使い方も忘れてしまったで通用する。私の方に尋ねられても、彼に特殊能力が発現したきっかけは不明と誤魔化せば、それ以上追及しようがないだろう。契約終了後に彼が迷惑を被ることはない……はず。

 私がロシェスさんを時の人にするのだ。不遇だった彼が里を見返す……私の聖女物語より需要が高いと思う。ついでに、今は人形のような彼の無表情が少しでもやわらいでくれたらいうことなし。

 ニーダさんの「本気で購入を?」という目に、私は「本気です」とやはり目で返しながら、契約書類にサインをした。

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