イケメンご用意されました!(4)

 高級奴隷商の店、『ニーダ』に来た私は店主自らお出迎えという歓迎を受けた。

 どうやらグストさんから予め連絡が行っていた様子。グストさん、ありがとう!

 私の感覚でいうとアラビアン風な内装の応接室に通される。座席にはムートンシートクッションのようなものが置かれ、足元は本物にしか見えない巨大な虎に似た毛皮の敷物が。これを平気で踏めるくらいの人種しか、本来はこの店に来ないのだろう。そうひしひしと痛感した。


「イチノセ様。本日はどのような奴隷をお探しでしょうか?」


 妖艶な魔女という形容が相応しいだろう、女主人ニーダさんが私ににっこりと微笑みかけてくる。これは性別問わず見蕩れてしまうと思う。


「一番重点を置くのは、読み書き計算ができることです」


 私はどうにか平常心を呼び戻して、ニーダさんの問いに答えた。

 異世界生活を平穏に送るにあたって考えた私の計画は、自分のお店を持つこと。何故なら、多くの異世界もので店をやると繁盛していたから。

 そしてその場合は、店が繁盛して居場所がバレるというところまでワンセットだった。だから私は、ここを工夫するのだ。特殊能力を使っているのは別の者ということにして。お決まりパターンの美味しいところだけいただくというわけ。

 私の要望を聞いたニーダさんが、手にしていた書類を手早く分け始める。程なくそれらは糸綴じのカタログとなって、私に差し出された。

 管理している奴隷全員分の能力を把握しているとか、大商人という感じだなあ。店の高級感は言わずもがな。

 私は受け取ったカタログをペラペラと捲ってみた。金額で降順になっているようだ。最も高額な人で、22万ダル。何とかギリギリ伝説の飴一個より高いことにホッとした。


「ん? このロシェスという人は妙に安価なのですが?」


 最終頁まで来て、私は思わず顔を上げてニーダさんに尋ねた。

 高級奴隷というだけあって、大体15万から20万あたりが相場のようで。ロシェスさんの一つ手前の頁の人も、12万となっていた。

 それなのに、ロシェスさんの表示は6万ダル。何と下から二番目の人の半値。もしかして、所謂事故物件という奴……?


「ああ……彼ですか。一応条件に合ったので候補には入れましたが、お勧めはしません」

「理由を聞いてもいいですか?」


 ニーダさんの言い方からして、予想通り事故物件の扱いと思われる。けれど元の世界では、単に「墓場に近いから」ぐらいの理由で安くなっている例もあった。こちらが気にならない理由であるなら、ロシェスさんはお買い得だ。


「理由は二つあります。まず、そこにも記載してあるように彼はエルフなのですが、魔法が使えません」


 お勧めしないと言っているのに食い下がる私にも、ニーダさんは嫌な顔一つせず説明を初めてくれた。

 ――ん? 待って、エルフって言った? あ、本当だ。値段に驚いて他を全然見てなかったけど、エルフって書いてある。うわ、ファンタジーだ。


「次に、愛玩用としても使えないそうです。容姿が優れるエルフですから、過去に夜の相手にと求められたお客様が何名かいらっしゃいました。しかし、どのお客様からもあっちの方が使い物にならなかったと返却されております」

「二つってことは、それだけですか?」


 あれ? 全然事故物件じゃなくない? すごくお買い得じゃない?


「それだけと仰いますが、本当に読み書き計算のみでいいのなら、普通の奴隷を買った後に秘密保持魔法を別途施した方が安上がりです。3万も掛からないでしょう。ロシェスの場合は買い入れた後で判明した事柄でしたのでここに置いていますが、そうでなければ高級奴隷としては登録しませんでした」


 あ、そういうこと。普通はここの店に来る時点で、それプラスαを期待していることになるのか。私が求めているのは、そのまさかの読み書き計算のみだったわけで。


「通常の奴隷商へ、その条件を記した紹介状をご用意することも可能ですが、如何いたしましょう?」


 ニーダさんがにこやかに、こちらへ提案してくる。今話した内容を黙ったまま私に売りつけることも可能だったのに、彼女はそれをしなかった。取り扱っている対象が日本人の倫理観に引っ掛かるだけで、彼女自身は誠実な商売人だと思う。

 それに、素晴らしい目利きのグストさんが紹介した相手だ。買うならやはりニーダさんからがいいだろう。


「いえ、その必要はありません。ロシェスに会うことはできますか?」


 私はカタログを閉じて、ニーダさんに前向きに検討している旨を伝えた。

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