イケメンご用意されました!(1)
面白いほどすんなりと森を抜け、やって来ました隣国エムリア。
森と隣接しているここは、辺境の街リジラをいうらしい。
街道を見つけたので、辺りに人がいないのを見計らってから道に出る。森から侵入してきたのではなく、最初から道を歩いてきましたよというポーズが大事。その甲斐あって、数人とすれ違ったが「余所から来た人なんて珍しいわね」くらいの視線で済んでいた。
「あ、商店がある」
一本道の街道を南に行った先で、小さな商店を見つけた。私が今まさに必要としている日用品を取り扱っている店だ。
エムリア国でも値札の文字は読めるし、店主と買い物客の会話もちゃんと理解できた。ありがとう、チート。
ただ、問題は……。
「先立つものがないわ……」
手始めに今の持ち物を売るところから始めないといけない。とはいえ、生憎とパッと見高く売れそうなものは持っていない。宝石の付いたイヤリングでもしていれば、よかったのだけど。
「そうだ、服。今の服を売って新しい服とそれプラスαを買えないかな」
私の今の装いは、この世界の人にとって珍品に映るはず。ちょっとアイテム説明欄を確認してみよう。それっぽい記述があったら占めたもの。
私は早速、ステータスの装備画面を開いて――
「……うん、待って?」
そのまま暫し思考が停止した。
「どういうことなの……」
アイテム説明欄にあったのは、予想通りこの世界に一着しかない伝説級の品という記述。それはいい、そこまではいい。よろしくないのは、右下に添えられた一文だ。
「通常売却価格……2400万ダル⁉」
いやいやいや、落ち着け。数値の多さに引っ張られてはいけない。全体的にインフレな世界観という線もある。
丁度いいからそこの商店に売っている羽織りものの値段をチェックしてみよう。――はい、2000ダルなり。やばい、桁が違う。インフレじゃなかった。
ちなみにその羽織りものの通常売却価格をアイテム説明欄でチェックすれば、1000ダルとなっていた。その法則で行けば、私の服の購入価格も通常売却価格の倍ということになる。しかもそれ、ブラウス単体のお値段。パンツスーツの上下は含んでいない。このブラウス、元の世界では税込み千円だったのに。
――と、いうことはですよ。
私は恐る恐るインベントリにある飴の詳細を見てみた。
『非常に珍しい伝説の食べ物。20万ダル』
ひっ。止めて、止めてあげて。
これは駄目だ。何を売るにしても、街角の商店では駄目。高額商品を取り扱っている店を探さないと。
メニューのワールドからマップを展開。リジラ街をざっと眺めて……ありました、それっぽいお店。
「商業ギルド! ここなら大きなお金が動いているでしょ」
服はともかく少なくとも飴を買い取ってくれるお金はあるはず。
私は建物の場所を確認し、ミニマップを頼りに目的地へと向かった。
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