陽炎の杜で

蒼桐大紀

その1 人と会うのはひさかたぶりでな(出会い)

文中注記補足

 SE:効果音。音響効果参考情報。場合によってはわかれているSEを一つにまとめたり、指定をわけたりすることも想定しています。

 環境音:BGM扱いとしています。オンからオフまで続いてバックに流れている音です。

 FI:フェードイン。

 FO:フェードアウト。

 ※シーン情報補足:そのシーンにおける位置関係や周囲にある物などを簡単にまとめてあります。

 ●位置:前後左右の位置取りと、上下位置の補足、大まかなマイクとの距離(遠近)です。

 「」:セリフ。セリフは全て明菜あきな(ヒロイン)の声です。

 <>:明菜やあなた(リスナー)の動きを補足として書いてあります。



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//SE 鈴の音A 小さな鈴(神楽に使うような振り鈴)が「しゃりーん、しゃん」と鳴る。エコーあり。


※シーン情報補足:あなたは森の中にある神社にいる。参道を背に拝殿でお参りをしている。


//環境音A オン 森の中の神社。夏。蝉の声(アブラゼミ、ときどきツクツクホーシ)と葉ずれ、時折鳥の声(ヤマガラ、エナガなど)が聞こえる。


//SE 賽銭箱さいせんばこに小銭を投げ入れる。

//SE 鈴の音B じゃらんじゃらんじゃらんと大きな鈴が鳴る(3回振る)。

//SE 2回礼をする。

//SE 柏手を打つ(2回)。


//少し間を取る。


//SE 1回礼をする。


//環境音A オフ

//SE 風の音 ひゅおおう、と吹き抜ける。



※ここでシーン転換



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※シーン情報補足:あなたは森の中にある神社の社務所の縁側で、明菜に膝枕されて寝ている(靴は脱いでいる)。ひたいには濡らし手ぬぐいが置いてある。参道が正面、拝殿が右手に見える。

 膝枕をしている明菜は白衣に緋袴ひばかまの巫女装束姿。


//環境音A FI


●位置:前 近距離(このセリフをFI)

「てーん、てーん、てんそらつき、かすめ」//ゆっくり口の中で声を転がすように、子守り唄のように歌う。


//SE うちわで仰ぐ音。


●位置:前 近距離

「手まりは、手に手に、飛んでいくー」


//SE うちわで仰ぐ音。


「てーん、てーん、の影、浮舟うきふね引いて」


//SE うちわで仰ぐ音。


「鬼さ——」//動く気配に気づいてわずかに顔を上げる。


//SE 衣ずれと髪が服に触れる音。


「……」//ひと呼吸間を置く。


//SE うちわがピタリと止まる。


●位置:前 近距離

「お、気づいたようだな」//少し楽しげに。


//SE うちわを縁側に置く音。


●位置:前 近距離→接近(顔を近付ける)

「ああ、よいよい。そのままそのままー」


//SE 上体を倒して膝の上をのぞき込む。


●位置:前 接近→前 近距離(顔を離す)

「ふむん」//「ふん」と「うん」の中間くらい。


//SE 顔を上げ、体を起こす。


●位置:前 近距離

「ん。うむ、大丈夫そうだの」//安心した感じで。


<あなたのひたいに乗せていた濡れ手ぬぐいを取り、(明菜の)右側にある湯涌ゆおけ(=木製の洗面器)に入れる>


//SE 手ぬぐいが水につかる音(氷入りなのでころころと音がする)

//SE ひたいに手のひらが当てられる。


「さて、気分はどうかの?」


「(鼻先で笑って)もっとも悪いとは言わせぬがな」


「ふへっへっ、それはそうだろう。なにせこのわしが膝枕ひざまくらしてやっているのだからな」//尊大にならない程度からかうように。


「文句を言わせぬ代わりと言ってはなんだが、しばらくこうしているとよい」


こよみの上では暑さの盛りを過ぎたとは言え、まだまだ夏の暑さは続くからな。日射しも容赦ようしゃない」


「ここまで来たはいいが、ふいにあらわれた日の光に、おぬしのように立ちくらみを起こす者はめずらしくないのだ」


//SE 衣ずれ。右手を口元に当てて笑う。


「……(小さく笑って)。ああ……。いや、すまぬ。ここに誰かが訪れることがめずらしいのに〝めずらしくない〟とはこれいかに? とな」


//SE 明菜が参道の方を見る。


「里山の葉陰はかげに踏み入れば、うっすら獣道けものみちが見えてくる」//語り聞かせるような感じの声になる。


「その道を歩んでいくと、いつしか森の中に分け入っている」


<語りに合わせて頬に手をはわせる>

//SE 頬に手を当てる音、なでる音。


●位置:前 近距離→前 接近

「じっとしていよ」//ささやき声。

<顔を近付ける>


●位置:前 接近

「うっそうと茂る木々、じょじょに姿を隠していくてん……」


<両手でそっと目隠しをする>

//SE 手の平が目ぶたに触れる。


「緑の葉陰はかげは真昼を隠し、木立のささめきは行方ゆくえを惑わす……」


「いずれどちらに進んでいるのかわからなくなったころ……」


「ほう……緑のはざまにさっとしゅがさした」


「赤……。朱の赤……。見上げるような朱の鳥居が目の前に現れ……」


「一歩」


「前に進むと——」


<ぱっと両手を離し、体を起こしていく>

//SE 手が離される。衣ずれ。



●位置:前 接近→前 近距離

「夏の日射しに包まれていた」

<ゆっくり顔を上げる>

「……」


●位置:前 近距離

「そうして、日射しの中、まどうように参道を進み、祈りを捧げていると——」


「ふと、気配を感じた」


「あたりを見回せば——」


「ゆらめく陽炎かげろうの向こうに巫女の姿があった……」


「……(ひと呼吸置いて、語り口調をやめる)」


●位置:前 近距離

「ふへっへっ。まあこんなところではないか? おおよそ、そうやってここに来たのであろ、お若いの」


//SE 明菜が口元に袖を持っていき笑う。


「……(かすかに笑って)おっと、すまぬ。このようにして人と話すのはひさかたぶりでな」


//SE 口元に当てていた袖を下ろす。

//SE ついっとあなたから視線を外す。


「くすんだ黒の長い髪にまだいとけないかんばせ、白と緋色の巫女装束しょうぞくを身にまとった、せいぜい十五、六の娘子むすめご……」//独り言を言うように。


美醜びしゅうについては省くが、どう見ても『二十歳はたちは行くまい』と思えるほどの小娘が『お若いの』などと言うのはやはり奇妙……いや、滑稽こっけいであろうな」//独り言を言うように。


「……」//ひと息置いて。


「しかし、幾百年いくももとせの時を過ごしてみると、多くの者は幼子おさなごのように思えてしまうのだ……」//独り言を言うように。


与太話よたばなしと思うならそれでもよい。だが——」


//SE 明菜があなたの方を見る。

//SE 手を伸ばして両手を頬に当て、顔をのぞき込む。


●位置:前 近距離→少しだけ接近

「こちらに入ってきたのはおぬしのほうぞ。森に分け入り、あまたの木々をかき分け、幽顕ゆうけんのあわいにたたずむこの陽炎かげろうもりへたどり着き、わしのもとに来たのはな」


//SE 手を離して顔を上げる。


●位置:前 近距離

「ふへっへっ……。よいよい」


「来る者はこばまず、去る者は追わず。そう過ごしてきた」


「おぬしがここへ来たのも、なんぞえにしがあったゆえだろう。たいしたことはできぬが、わしがもてなそう」


「……」//何かを思い出したように。


SE 居住まいを正す(体は動かさず背筋だけ伸ばす)。


「ああ、まだ名乗っていなかったな……」


「わしは九重ここのえ明菜あきな。陽炎の杜、鬼流きりゅう神社の巫女。鬼さまの巫女だ」


//環境音 FO




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