◆偽りの聖女と放蕩息子(抄)
ここはいと尊き十柱神がしろしめす世界「セフィロト」。この中でも、最大級の国力を誇り、国の歴史自体も長い、マルクート王国が、物語の舞台となる。
御転婆が過ぎて主女神殿に巫女見習いとして預けられた姉・ファダートを訪ねて、歩いて3日ほどの距離にある村から、弟・ティファレトが王都にやって来る。
半年ぶりに会うファダートは、パッと見は巫女らしくなってはいたものの、ふたりきりで話すと、あい変わらず男勝りでガキ大将気質ないつもの姉のままだった。
とは言え、神殿での(姉主観で)厳しい暮らしには参っているようで、ティファレトは「王都に滞在する一週間だけでいいから身代わりをお願い」と頼まれる。
ちょっと気の毒には思ったものの、さすがに瓜二つの双子でもないし無理だと断るティファレトだったが、「じゃあ、方法があればいいのね?」と食い気味に姉に聞かれて、曖昧に頷くティファレト。
ファダートがこっそり神殿の宝物庫からくすねてきた(本人いわく無断で借りた)魔法具により、ティファレトの「官吏志望の村人少年/村長家の次男(弟)」という立場と、ファダートの「修行中の巫女見習い/村長家の長女(姉)」という立場が交換され、少年(偽)ファダートは浮き浮きしながら街へ繰り出して行く。
そんな弟(姉)の様子を苦笑して見送ったティファレトは、生来の真面目で善良な性格から、主女神神殿での巫女修行ライフにもすぐに順応する。
しかし、立場交換して5日後、主女神からの神託が下り、邪神復活の兆しが告げられる。そのため、急きょ見習いを含めた巫女全員が、この神殿で大切に保管されている神器・マイシェラの“試しの儀”を受けることになる。
その儀式で、なんとティファレトが選ばれてしまい、単なる巫女見習いからマイシェラの担い手の“聖女”候補として、主神の選んだ“勇者”の旅に同行することになる。
あわただしい準備の合間を縫って、ファダートと接触し、元の立場に戻ろうと促すティファレトだったが、彼(彼女)は拒否。
「担い手に選ばれたのはアンタなんだから、自分の責任は自分で果たしなよ。コッチに厄介事押し付けないで!」
どの口が言うかと思わぬではないが、正論ではあったし、(間接的にとは言え)神の選択を拒否するのも不敬な話なので、渋々、神殿に“帰る”ティファレト。
思いがけず自由を手にしたファダートは、去り際に姉(弟)とした約束のことも忘れ、村に帰ってから自堕落に過ごすようになる。
そして3年後。
主神の選んだ“勇者”と“聖女”・“弓匠”・“賢者”が協力して、復活しかけた邪神を討ち、世界に平和が戻る。
「村長の弟(家自体は長男のコクマーが継いだ)」として定職にもつかず(本人は冒険者と主張)、村でフラフラしているファダートの元を、王都に帰還した“聖女”ティファレトが訪ねてくる。
「やっぱり……こういうことになっているのではないかと思ってましたわ」
ちょうど良かった、そろそろ元に戻ろうぜと言うファダートの要求を拒否するティファレト。
「
その約束も守らず──守ろうともせず、遊び惚けていた怠惰な“弟”に、安易に渡せるほど、この“聖女”と呼ばれる立場は軽くない、と。
そんなの知るかとばかりに借りパクしたままの魔道具を作動させるファダートだったが、今や立派な聖女となったティファレトは、簡単にレジストした……のみならず反射し、魔力の逆流で魔道具が壊れる。
その瞬間、魔道具によって歪めたわめられた因果の捻れが収束し、ティファレトは(単に他人からの見た目だけでなく)生まれた時から女だったことになり、身体的にも完全に(ちゃんと赤子も身籠れる)女性──それもプロポーション抜群な絶世の美人となる。
対して、ファダートは(かなりモヤシで頼りない)男性になった。
「せめてもの情けです。その魔道具の弁償費用は、私が神殿に立て替えておきます。それでは、親愛なる
呆然とする弟に別れを告げ、ティファレトは去っていった。
さらに半年後、実は隣国サマルガンの王子だった“勇者”エイドスと“聖女”ティファレトの盛大な婚礼式典が行われ、歓呼する民衆は新たな時代の訪れを予感していた。
勇者王エイドスと聖王妃ティファレトは、サマルガン中興の祖として長く称えられるとともに、仲睦まじいおしどり夫婦(側室を持たなかったのに3男4女に恵まれた!)として、後世に名を遺すのだった。
なお、アッシャー村出身であった聖王妃の兄については、妹には劣るもののなかなかの傑物であり、郷土の発展に尽くしたとされるが、弟については歴史には何も記されていない。
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とある同人誌を読んで浮かんだ立場交換系妄想を、昔書いた『聖命樹の大地』というファンタジー中長編をベースにこねこねして、ダイジェストというかプロットにまとめてみた代物。
「生真面目な弟を振り回す、我儘な姉」というのはお約束のひとつではありますが、それも度が過ぎると、手痛いしっぺ返しが……。
好評だったら、正規版書くかもしれません。
(※↑とブログ初掲載時には書いたのですが、実は存在すら忘れていました)
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