◆伝説の武器屋の看板娘
「いらっしゃーい!」
「あ、アレッ? ここって、確かマッチョでむさくるしい中年のオヤジが経営してなかった?」
だーれが、「マッチョでむさくるしいハゲオヤジ」だ。
「え?」
おっと、しまった。
「あ、いえ、オ…わ、私、この店に雇われた店員なんです」
「そうなんだ。でも、女の子なのに武器屋に就職って珍しいね?」
うッ……。
「その、私、店長さんの姪なんですよ」
実際には、オレには甥っ子がふたりいるだけだけどな。
「ちょうど、店長さんも店員のなり手を探してたみたいで……」
ちなみに、コレは本当の話。
半月程まえ、息子が冒険者として独り立ちしていったのを見届けてから、オレも久々に元冒険者の血がたぎってきたから、週末だけでも戦士として現役復帰してみようと思っていた。
そのため、オレが冒険に言ってるあいだの店を任せる人材を探していたのは事実だ。
「へぇ、なるほどねぇ」
納得しつつ得意客──中級レベルの盗賊は帰って行った。
いつもは一番安いグレードの短剣1、2個しか買わない癖に、オレがニッコリ笑って「これなんかオススメですよ」って見せた
店主としては助かるが、(不本意ながら)色気で釣って買わせたみたいで複雑だぜ。
「はぁ……それにしてもどうしてこんなコトになったんだろうなぁ」
いや、直接の原因自体は分かっている。
冒険者稼業を週末限定とは言え再開するにあたって人を雇うことにしたのは、すでに述べた通りだ。
それと連動して、今まで未鑑定のまま倉庫に放り込んでおいた商品を、この際全部鑑定しちまおうと、柄にもなく張り切ったのが運の尽きだっただよなぁ。
冒険者から買い取る品の中には、一見したところその価値が明確にわからない品物も存在する。そういうものは、何がしかの魔法の品で、大抵は高い性能を持っているんだが……中にはタチの悪い呪いがかかった物や呪いじみた効果を持つ代物もあるんだな、コレが。
今回のオレも、その被害に遭ったワケ。
「性転の額冠(テイレシアス・サークレット)」とか言う頭部防具で、被った人間を男性は女性に、女性は男性に替えちまうって代物だ。
もっとも、防具と言うよりはマジックアイテムと言うほうが正しく、しかも回数制限があるらしく、鑑定していた俺がうっかり「触って」しまったところで魔力が発動、さらにそのまま壊れちまった。
残された破片と、オレの虎の巻とも言える「エンサイクロペディア・オブ・マジックアイテム」を首っぴきで調べて、何とか事情は把握したんだが……。
「性転の額冠
入手頻度:激レア 標準価格:7000000ゴールド」
ってのは嫌がらせかよ!? つうか、再入手は絶望的じゃねーか!
一応、町の神殿と
・神殿:「これは呪いではないので、ウチでは無理ですね」
・魔法学校:「よし、まずは現物を手に入れてきたまえ。話はそれからだ」
や、役に立たねー!!
いや、アカデミーの方は、現物を見つけて持ち主から一時借りることができれば、それを研究して魔法解除の方法を見つけてくれるみたいだから、全く意味がないわけじゃないが、現時点の現状の改善にはやはり役に立たん。
神殿の邪悪感知とアカデミーの虚言探知の魔法で、オレに悪意がなく、嘘も言っていない──つまり、武器屋の店主であることが公式に認められたのは、まぁ不幸中の幸いだったが。
「──もっとも、その事実をおおっぴらに吹聴する気はないけどな」
俺は溜め息をつきながら、自分の身体を見下ろす。
中年太りしたイカつい男がそのまま女性化したら、目を覆いたくなるような醜い中年のオバサンになるかと思いきや……。
パッと見、せいぜい17、8歳の(しかも結構可愛らしい)小娘になったのは、良かったんだか悪かったんだか。
無論、元の服なんか大きすぎて着れないので、とりあえず10年前に亡くなった女房の若い頃の服をタンスの奥から拝借して着てる。
当時は俺と組んで冒険者(軽戦士)やってた頃の嫁さんの服だから、比較的地味で余分なリボンだのフリルだのが付いてないのは有難いが、それでもやはり女物のブラウスだとかスカートだとかを着るのは、女装してるみたいでどうにも落ち着かない。
──まぁ、女装どころか正真正銘の女の身体なワケだが。
その後も、なじみ客には例の「店長さんの姪の雇われ店員」という言い訳で、うまく誤魔化していたんだが……。
「いらっしゃ……(えぇぇーーーっ!?)」
かろうじて、驚愕の心の叫びは心の中に留めることができた。
何をそんなに驚いたかと言えば……。
「ん? あれ、君、誰? 親父──この店の店主のジョージはどこに行ったか知らない?」
なんてこった。独り立ちして冒険者になったずの息子が戻ってくるとは!
いや、待て、様子を見る限りでは、「冒険者稼業に挫折してスゴスゴ戻って来た」って感じじゃない。
胸甲(ブレストプレート)は、いくらか傷がついているものの、キチンと手入れされてるし、腰に佩いた剣も町を出た時より、一段いいものに変わってる。
察するに、この町にたまたま立ち寄ったから、ちょっと実家へ挨拶に顔を出したってところか。それならやり過ごしようもある。
「あ、もしかして店長さんの息子さんですか? 私、このお店に雇われたサンディと言います」
自分で言うのもナンだが、こんな可愛い娘がニコリと笑って挨拶すれば、大概の男の警戒心は下がるモンだ。
案の定、息子も表情も微妙に緩んでやがる──男って悲しい生き物だよなぁ。
「うん。僕は、このサン・ジョルディ武器店の長男クリストファーさ」
お、コイツ、若い娘の前だからってカッコつけて「僕」とか言ってやがる。
俺はおかしさを堪えて、「へぇ、そうなんですか。店長さんにはいつもお世話になっています」と神妙に頭を下げる。
「いやいや、あの人も頑固だから、ココで働くのも大変だろう。
──もっとも、家業を放り出して、冒険者なんて因果な
へぇ……ちょっと見ない内に殊勝な事言うようになったじゃないか。東方のことわざに「かわいい子には旅をさせろ」と言うらしいが、あながち間違ってもいないのかもな。
「そんなコトないですよ! 店長さん、いつも「アイツは自慢の息子だ」っておっしゃってましたよ?」
まぁ、こっ恥ずかしいから面と向かって口に出したことはないが、これは正直な俺の気持ちでもある。
男でひとつで育てて、色々不自由な思いもさせたろうに、よくぞここまで真っ直ぐに(まあ、俺に似て口だけは皮肉屋だが)育ってくれたモンだ。
「え!? そ、そうかい……アハハ、ちょっと照れくさいな」
ポリポリと鼻の頭をかくその様子は、図体こそ大きくなれ、子供の頃と変わらない。
俺は微笑ましい想いで息子の顔をニコニコ見守っていたのだった。
──あとから思えば、その時、最初の「フラグ」が立っちゃったのかもしれんななぁ……。
<ToBeContinued?>
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#と、この話はここまで。看板娘ちゃん(=店主)が立てたのは、無論、恋愛フラグ──というか、息子に一目ぼれされちゃってます。
これ以後、時折ある息子の襲来(&ナンパ的アタック)をのらりくらり交わしつつ、店の経営を続け、さらに休日は解呪費用稼ぎのために、日帰り冒険者としての激務に勤しむハメになる、ジョージ氏改めサンディ嬢なのでした。
#ちなみに「サンディ」という偽名は、店名である「サン・ジョルディ」を縮めたもの。これはジョージの祖父であるジョルディ氏が開店当時につけた屋号です。
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