◆てんかんのつえ

 俺・羽藤皆次(はとうかいじ)は──自分で名乗るのは少々こっ恥ずかしいが──一応、「勇者」と呼ばれる稼業しょうばいをやってる。もっとも、正確には魔王を倒した者だけが勇者の称号を得るので、今の俺は勇者候補生ないし勇者(仮)ってトコロだが……。


 え? なんでそんなモンになってるか?

 ──オンラインRPGプレイしてる途中で寝オチしてる時、夢の中でお姫様に「助けて、勇者様!」って呼び掛けられて、ついホイホイ承知しちまったんだよ。

 そしたら、お約束の「異世界召喚」から「世界情勢説明と冒険知識の講義」、「王様への謁見」→「旅立ち」の4連コンボが待ってたってワケだ。

 とりたてて格闘技とかかじってたわけでもない20代半ばのフリーターを引っ張り込むなんて、この世界の連中は何考えてんだか……。


 とは言え、断るという選択は事実上存在しなかった。


 「魔王を倒した勇者は、よほど無茶でない限り、願い事がひとつ叶えます──たとえば、元の世界への送還とか」


 それって、逆に言うと魔王を倒さないと、向こうに帰してくれないってコトっスよねぇ!?

 とは言え、勇者候補は俺だけじゃないらしいので、「全人類の運命が俺ひとりの双肩に!」って程のプレッシャーはないのが唯一の救いかね。


 もっとも、武道の経験なんて高校の頃にやった柔道の授業くらいだったけど、意外にも俺には拳法、と言うか素手格闘の才能が眠っていたらしい。

 もちろん「勇者」として刀剣の類いも一応装備できるんだけど、どっちかって言うと「武闘家」的なナックルとか爪とかレッグガードとかを着けて、手足をブン回して戦う方が性に合ってるみたいだ。


 8人いる勇者候補生の中でも、こと近接肉弾戦にかけてはトップクラスにいると自負してるしな! ……反面、魔法に関してはヘボヘボだけど。

 なにせ、レッサーデーモンをタイマンで瞬殺できるくらいのレベルにまで成長したって言うのに、いまだ使える呪文が最低ランクの「回復」と「灯り」、「脱出」だけって言うんだから泣ける。


 まぁ、魔力量自体はそれほど低くはない(と言っても田舎の祈祷師程度だけど)から、戦闘終了後に何度も重ねがけすれば、傷ついた体を全快させることはできるんだけどな。


 そんな事情から、俺にとっては、飛ぶ敵や対集団戦用に強力なマジックアイテムを手元に揃えておくことが冒険を進めるうえでの必須条件なワケだ。


 武闘家の装備は戦士系重装備に比べると若干安めなんだが、マジックアイテムのぶん、俺の出費は他の候補たちよりも多めだった。

 仕方なく、本格的に魔王討伐のため魔界へ旅立つ前に、資金稼ぎしようと地方のダンジョン巡りをしてたんだが……。


 「こいつは、たまげたな!」


 その途中、とあるダンジョンで「てんかんのつえ」と言う未知のアイテムを見つけたんだ。

 てっきり“癲癇の杖”の意味で、相手を痙攣させて動きを止められるものだとばかり思ってたんだが……。

 いきなりボスに使って効果がないとピンチだし、かといって使用回数制限があるみたいだから弱い雑魚に使うのはもったいない。


 で。

 ゲームで言う中ボスないしその前座くらいの格の強敵である魔族神官(デーモンプリースト)に戦闘開幕早々使ってみたら──煙とともに人間の女の子(しかも巨乳美少女)に早変わりしたんだ!


 いやー、まさか「転換の杖」だったとはねー。擬人化+性転換とは、この世界の神さんもわかってるじゃねーか♪


 「な、何が起こったのだ!?」


 魔族神官自身も事態が把握できずにうろたえている。

 ローブの下でおそらくはノーブラのオッパイがゆさゆさ揺れているのが、なんと言うか……エロい。


 (そういや、ここしばらく娼館とか行ってねぇなぁ)


 少々溜まってて欲求不満気味なオレは、じーっと元「魔族神官」の姿を頭のてっぺんからつま先までじっくり舐めるように見る──うん、アリだな。


 「な、なんだ、勇者め、ワシをイヤな目付きで見るな」


 本能的に身の危険を感じたのか、両腕で胸を庇いつつ、後ずさりする「魔族神官」ちゃん。

 が、もう遅い。


 「いっただきまーーす!!」


 俺は、かつてない程の速さとモチベーションをもって、元魔族(♂)の現美少女に襲いかかった──無論、性的な意味で。


 「あ~~れ~~!」


 * * * 


 その後、異世界から来た勇者候補に美味しく“いただかれて”しまった元悪魔神官な少女は、その青年の愛(と言うか愛欲?)によって骨抜き──もとい改心し、彼の冒険につき従う頼もしい仲間となった。


 その数ヵ月後、別の勇者の手によって第四次人魔決戦は、人間側の勝利で幕を下ろす。

 世界に平和が戻ったのち、カイジたちふたりは結婚し、とある辺境の村で若夫婦として仲睦まじく(毎晩おさかんに)暮らし、子宝にも恵まれたと言う。

 -めでたしめでたし-

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<作者注>

 実は私のオリジナルのファンタジー系異世界“アールハイン”が舞台の話のひとつで、「俺の魔王」(※)と同時期の話だったりします。

  ※未完成作品なので、ある程度目鼻がついたら此方カクヨムにも掲載します

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