◆思わぬ欠点が仇(?)になる

 「捕まえた! もぅっ、あたしの姿で清彦を誘惑するなんて、何てコトしてくれるのよ、俊明!」

 「イテテテッ、はっ、はなせよ、ふたばぁ……」


 えっと──俺は夢を見ているのだろうか。

 目の前には、中学以来友達以上恋人未満な関係を続けてきたふたばの半裸姿が……ふたり!?

 ふたばには姉妹がいるとは聞いてないし、いてもさすがに双子みたくソックリってわけはないだろう。


 「まったく。こんな変装までした挙句、あたしを気絶させて服を奪ってくなんて」


 説明台詞サンキュー、ふたば。おかげで大体の事態は把握した。

 確かに、高校生の癖に怪しげな発明をくり返してる、俺達ふたり共通の悪友である俊明なら、それくらいのことはできるだろうな。


 「清彦もたいがい説明口調だと思うけどね。

  それにアンタもアンタよ。ボーイフレンドなら、あたしが本物かどうかくらい、ひと目で見抜いてよ!」


 へっ!? 無茶言うなぃ。長い付き合いの俺がこうして並べて見ても、両者の違いは殆どわからんぞ。この偽ふたばが俊明ってんなら、ふたばのフリするもお手の物だろうし。

 て言うか、ボーイフレンド? いつの間にそういうコトになったんだ!?


 「な、なによ、文句あるの?」(真っ赤)


 いや、全然。へへっ。そうか、ふたばも俺と同じ気持ちだったんだな。


 「──そうよ! コッチはずっと告白してくれるの待ってたってのに、清彦ってはヘタレなんだから」


 うん、そうだな。待たせて、すまん。

 改めて言わせてくれ。ふたば、俺とつきあってくれ!


 「清彦……うん。うれしい♪」


 俺達ふたりは唇を重ねようとした……んだが、その時コソコソと部屋から出て行こうとしている偽ふたば(俊明?)の姿が視界に入った。


 「そ、それじゃあ、邪魔者はここらへんで失礼しまーす」

 「「待てや、こら!」」


 結局、あの偽ふたばの正体はやっぱり俊明だった。ふたばの言う通り、彼女の髪の毛(正確には遺伝子)から培養して作った“皮”を着て、ふたばになりすましていたのだ。


 ただ、そんなことをした動機は、なかなかくっつかない俺達に、友人としてイライラして後押ししてやろうと思ってのことらしい。余計なお世話と言えばそうなのだが、まぁ情状酌量の余地はあるだろう。

 結果的に、俺とふたばは付き合うことになったんだし。


 「ところでさぁ、ふたば。どうしてアレが俺だってわかったんだ?」


 うん、確かに。自分以外の偽者だとわかっても、それが誰なんかなんて即断できないだろ。


 「アンタたち、鈍いわねぇ。あたし達のことをよく知ってて、かつめこんな綺麗な碧い瞳したヤツなんて、あたしには心当たりは俊明くらいしかいないわよ?」

 「「……あ!」」


 確かに、北欧系クォーターである俊明の眼の色は、かなり印象的だもんな。

 例の「皮」は目のところが空いてるため、そのままではどうしても自分の瞳がそのまま見えちまうらしい。


 「カラーコンタクトでも付けるしかないかなぁ」


 自らの発明品の思わぬ欠陥に俊明は頭を抱えている。


 時に俊明よ。半裸のまま迫られた俺が暴走して襲いかかったらどうするつもりだったんだ?


 「ん~、ま、ソレはソレで貴重な経験かなぁって。あの状態なら、理論上、おんなとして“デキる”はずだし、正直女の快感ってヤツにも興味もあったしな」

 「勝手に人の姿でバージン散らすなぁ! てか、調子のいいこと言っておいて、最後の一言が本音でしょ、アンタ!?」


 無論、俊明がふたばの鉄拳制裁を受け、“皮”は没収&「二度とふたばの皮は作りません」と誓約させられたことは言うまでもない。

 そして、俺も「見え見えの罠に気づ付かなかった」ことで、彼氏として、ふたばからペナルティを食らった(騙されたのは彼氏になる前なので、法の不遡及を主張したが却下された)。


 「ちょ……ほ、本気か、ふたば? この状態でデートしようなんて」

 「もっちろん! あたし、歳の近い姉妹ってのに憧れてたのよね~」


 そう、俺は今、例の“皮”を着せられてふたばにそっくりな格好で外出させられているのだ。

 そして言うまでもなく、今の俺が着ているものは頭のてっぺんからつま先まで、みんなふたばの物だ。フェチな趣味がなくても、正直興奮せざるを得ない。

 しかも、同性になってるせいか、ふたばの奴も妙にベタベタスキンシップしてきやがるし……。俺がオオカミになっても知らんぞ!?


 「なーんて言っても、その姿じゃねぇ。むしろあたしの方から押し倒しちゃうわよ、わかばちゃん♪」


 ちょ……ふたばサン、目が笑ってなくて怖いんですけど。


 「ええ、だって本気だもん。さ、あたしのことは「お姉様」って呼んでいいわよ」


 ──アッー!


 その日俺は、男として童貞捨てる前に、女の子としてお姉様の手で処女を奪われるという、希少だが全然有難くない経験をするハメになるのだった。

 どっとはらい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る