第36話花より団子ですねぇ



おネェ様に運ばれて中央広場にやってくると聞き覚えのある色気溢れるハスキーボイスが聞こえてきた。



「いらっしゃーい。小娘達じゃないかぁ。装備の調子はどうだい?」



「げっ!」



「霞さん……ですかぁ???」



「あぁ、この姿じゃわからないか。でも我慢しておくれ、いつもの姿でこっちに顔を出したら厄介なのに目をつけられちまうからね。」



ふむ、どうやら霞さんであることは確かだけど、色々表の世界に顔を出せない事情があって変装してる……ってとこかな?

事情は気になるけど聞いたら絶対はぐらかされるだろうな……



「けっ、なら出てこなければいいのよ。女狐は女狐らしく巣穴にこもってなさい!」



おネェ様、霞さんにだけ当たりが強くないか?前に名前を出した時もそうだったけど、本当に2人の間で何があったんだろう?



「アインは久しぶりの再会だっていうのに冷たいねぇ。そこの小娘達の師匠気取りたぁいいご身分だ。

陽の光を浴びて随分腑抜けたんじゃないかい?あんたは私と同じ影で生きる人間だって言うのに。それなのに一人だけ神のご寵愛を受けただぁ?笑わせるね。

どうだい、そろそろ娑婆の空気飽きてきたんじゃないか?今なら戻ってきても歓迎してやるさぁ。まあ、下っ端からだけどね。」



「お生憎様。私は今可愛い弟子がいて十分幸せよぉ。ジメジメ暗いそっちの世界に私の美貌は眩しすぎるわぁ。さっさと用事をすませたら、一人寂しくオンボロ倉庫に戻ることねぇ。」



……詳しく聞いちゃいけなそうな話だな。おネェ様本当に何者なんでしょうか?



「ふぅん。そんなかわいいかわいい弟子にそんなけったいなものを纏わりつかせておくなんて悪趣味なこった。」



「これは…とち狂った弟子はかわいいけど、厄介なものなのよ。」



「…まさか、ゆらとかいう娘っ子は自分の意志で呪われているとか言うんじゃないだろうね?」



「そのまさかというより、本来片方だったのに両目にする馬鹿よ。」



「………本当に人間か?」



「一応古代精霊種らしいけれど、まあ化け物の類であることは間違いないんじゃないかしら?」



「おう、伝説上の種族じゃないか。かわいい見た目しといてとんだバケモンだねぇ。ちょっとした嫌がらせであげたそのローブももう手に負えなくなっちまってるしねぇ。」



「はぁ、本当に問題児で困ったものねぇ。」



散々な言われようだな……そこまでおかしいことしてないと思うんだけどなぁ。


まあおネェ様と霞さんの殺気が収まったから結果オーライかも?



「ゆらさんってやっぱり人外だったんですね。納得です。」



いろはに言われるのは癪だなぁ。こっそり痺れ針をいろはの方に投げる。



「きゃっ、ゆらさん急に何するんですか!?って、多いですってぇ。あ、謝りますからぁ。」



うんうん。因果応報ってやつだよ。

おネェ様達には絶対勝てないからやらないけど、いろはなら大丈夫。



「はぁ……なんか毒気を抜かれちゃったわぁ。まあ女狐がいるってことは、ここは大丈夫ってことね。あ、そこの指輪なかなかいいじゃない。買っていくわ。」



「まいどあり。それにしてもこんな狂人がいるなんて思ってもみなかったねぇ。そのうち2人を借りるけどそんときはよろしく頼むよ。」



「けっ、用が終わればさっさと帰りなさいよ。」



……やっぱり嫌ってはいるんだろうけど、ある程度は信用してるのかもな。よろしく頼むって言葉に否定してないもんねぇ。複雑な関係ってことか……



「借金返済しにこいよー」



霞さんのだるそうな声に見送られ、私達は広場を後にした。



「はぁ……やっぱりあの女狐苦手なのよねぇ。あー疲れた。もうこうなったらやけ食いしてストレス発散よ!!!」



「は、はいぃ。そうですよね、ご飯食べましょ!(よかったぁ。話終わったよぉ。怖かった……)」



「そうですね。」



いろはは本音が漏れてるね。まあ気持ちはわかるかな。殺気ダダ漏れだったし。



「まずは商店街エリアからね!私は右側を買い占めるからいろはは左を頼むわよ。全部買えたら広場の時計前に集合!!!以上、解散!!!」



それにしても、おネェ様張り切ってるな。

なんか特別な事情でもあるのかな?


少し不思議に思いつつ、いろはと別れ屋台を猛スピードで巡っていく。



「……そろそろいいかしらね。ゆら、あの女狐といる時にいろはから目を離しちゃダメよ。あの女狐はねぇ、とんでもなく性格が悪いから狙ってる相手には一切人の前でちょっかいかけないのよ。」



あぁ、私のことにしか触れないなぁと思ったらそういうことか。まあ、実際あの路地裏の仕掛けを破ったのはいろはだもんね。



「なるほど。いろはは感情はわかりやすそうに見えやすいですもんね。おネェ様がいろはに直接言わないのもわかりますけど……あの子は見たまんまの子じゃないですよ。」



「そうなの?」



「ただの勘ですけどね。」



「へぇ……まあ取り越し苦労ならいいんだけど。」



その後は黙々と屋台飯を買い込んでいく。



「お姉様ー!!!ゆらさーん!!!買い終わりましたかぁっ?」



「ちょっと待ってちょうだーい!!!」



急に来る浮遊感。さらに重力が反転する。


うぇっぷ……



「あら、やだ。ついつい一回転しちゃったわ。ごめんなさいね。」



「……は、はい。だいじょうぶ……です。」



「明らかに大丈夫じゃなさそうですっ!?飲み物も買ってきましたから、とりあえずこれ飲んで落ち着いてください。」



いろはから飲み物を受け取りベンチに腰掛ける。

1口、口に含むとすぅっと抜けていくリンゴのような風味が気持ち悪さを和らげていく。



「ありがとうございます。少し落ち着きました。」



「ごめんなさいねぇ。」



「いえ、大丈夫です。」



「あ、一回戦始まったわ。スクリーン中継見ながら食べ比べやりましょうか。」



あー……見れないよぉ……


その後はおネェ様たちの楽しそうなきゃいきゃいした歓声を聞きながら黙々と屋台飯をかきこみ続ける。



いいもん寂しくないもん。



……早く出番来い!

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