第142話 最弱職無双
マトックの矛先が軌跡を刻むたび、燐光が斬影のごとくほとばしる。
これもすべてダンタネルヴによって軽く強く強化してもらえたおかげだ。
そうして最大強化されたヴェプラーンは神殺しの剣にさえ負けていない。
いや、厳密に言えば削られてはいるのだろう。
しかし損耗率を凌駕する再生能力により太刀打ちする事ができている。
最高だぜダンタネルヴ、あんたの仕事は!
加えて、今までの修行と経験の成果が如実に現れている。
まるで剣を奮うかのごとく振り回し、リアリムに攻撃の隙を与えない。
『ちィ!?』
「どうした英雄サンよぉ!? こちとら最弱職のハーベスターだぜえッ!!?」
マトックで剣を薙ぎ払い、追撃で拳や蹴りを見舞う。
その一発は微々たるものだが、奴にとっちゃ職業補正無し、防御無視の一撃だ。
おかげで綺麗な顔にもうアザが浮かび上がっているぜッ!!!
『キサマ、調子に乗っ――ぐうっ!?』
きっと奴自身も動きにくいんだろう。
職業補正があるかないかで動きの意識に天地ほどの差が出るだろうから。
今こいつは天高く飛び跳ねようとして、でも掌一つ分しか跳ねられない――そんなジレンマに苛まれているはずだ。
だから俺を両断するつもりで剣を振っても軽く打ち返されてしまう。
そうしてできた隙を俺は、師匠の戦技は見逃さねぇーーー!
再び奴の剣が跳ね上げられ、俺のマトックもまた振り切っていて。
しかしその勢いを右拳に乗せ、一歩踏み込み奴の腹へとブチ込んでやる。
『ごっはぁ!?』
丁寧に抉るように、捻り込むように。
命波なんていらねぇ。ただ全身全霊を一発ごとに込めるだけだ。
しかし次の瞬間には一歩を引き、体ごと頭を逸らさせる。
するとまもなく斬撃が俺の頭肩スレスレに刻まれていて。
直後、あらかじめ引き込んでいた右拳を奴の顔へとまっすぐ見舞ってやった。
拳に「ズンッ!」と衝撃が走る。
奴の体が「ビグンッ!」と跳ねる。
『がはっ……!?』
それでついにはヨロヨロと後退を始めていて。
「うぅおおおーーーッッッ!!!!!」
『ッ!?』
だが俺はそんな隙を見逃しはしない。
振り下ろされていた奴の腕を足蹴にし、高く跳ねていたのだ。
マトック先を反転、矛先ではなく槌先へと切り替えながら。
そうして力の限りに叩き落とす。
チンケな賢者ともども奴の頭蓋を粉砕してやろうとして。
防御しようとしても無駄だ!
俺とヴェプラーンのパワーはお前の防御能力の遥か上を行くぜッ!!!
「うっらああああああ!!!!!」
『ぐぅあああッ!!?』
ゆえに大・激・打。
奴の頭が剣にも押されて歪む。
跪き、流血を伴うほどに激しく強く!
追撃するか!?
いや、答えはノーだ!
その判断の元に飛び跳ねて退く。
すると斬撃が水平に刻まれる事に。あぶねぇ!
しかし直後には逆に俺の足が伸びていた。
奴の剣の握る手を踏みつけてやったのだ。
さらには奴の首へと柄棒を強引に叩きつけ、押し付けてやる。
奴の手腕と剣、それと頭を引き離さんとばかりに体を伸ばしながら。
『グッゲェェェ!!?』
腕が千切れそうな感覚に見舞われているだろうなぁ!
首も苦しくてたまらないだろうなぁ!
ならその剣を離してくれてもいいんだぜぇッ!!!
――もちろんそう簡単に手放さない事だけはもうわかっていた。
ゆえに奴が顔をのけ反らせ、柄棒を顎からすべらせて受け流す。
だから俺もその勢いに乗って跳ね、奴の背後側へと飛び込んだのだ。
奴が警戒のままに剣を振り切るその先へと。
そして転身させながら着地を果たし、即座に再び戦闘態勢へ。
「おうおう、随分と丁寧な剣さばきじゃねぇか。道場剣術かい?」
「キサマはまるで獣だ! この野蛮人め……!」
「おぉ~、てめぇらの産み出した神様の戦闘術がここまで有効的とはねぇ!」
「ギッ、ギサマッ! 」
おいおい、興奮して地声が出ちまってるじゃねぇか。
美声かと思いきや、まるで掠れて迫力がない。
声帯までは改造しなかったのかい?
……しっかし、ディマーユ
きっとあの人はこういう時のためにあの戦闘術を組み上げたんだろう。
いつか英雄リアリムと戦うかもしれない、その未来を見越して。
それでもあの人には勝てる確証が無かった。
当時を知るあの人にはリアリムって存在がそれだけ大きかったに違いないから。
だが、それは英雄の力があってこそだ。
奴は今、英雄の力が使えない。
その力に頼っていたおかげで動きも緩慢だ。
だからこそ、このまま一気に決着をつける!
ゆえに俺は恐れずまた駆け抜けていた。
今度は潰すのではなく穿つために。
ああ、奴の脳天に見事な穴を掘ってやるぜえええーーーッ!!!!!
『調子に乗るな!』
『七賢者を』
『舐めるなよ!』
「――ッ!!?」
しかしその途端、奴の額に違和感が。
そうして現れたのはなんと、六つの目!
その目が赤く妖しく輝く。
俺が奴へと到達する前に。
その瞬間、突如として俺の体が動かなくなってしまった。
まるで一瞬で石になっちまったかのようにピタリと。
な、なんだこれは!? なぜ、動かないっ!?
「あっ、がっ!?」
『リアリムに止められなければ』
『ここまで好きにさせる事はなかった』
『だがお前はやり過ぎた』
『処刑せよ』
『見せしめだ』
『安易に我らに逆らった己の罪を呪うがいい』
でもリアリムの野郎は自由に動けている!?
崩れていた体勢を戻し、立ち上がり、俺へと向けて歩んでいて。
そしてにんまりと笑い、俺を見下していやがる……!
『そういう事だ、ラング=バートナー』
「が、か……」
『お前達チリ芥がいくら抵抗しようと、我々はその上を行く。そして支配は変わらぬ。世界はなおこのまま続き、我らによって平穏を貫くのだ』
「あ、おお!?」
『その礎として、その生贄として、お前との戦いは後世に残そう。世界の叛逆の根をすり潰すための我が戒めとして』
奴が語りながら剣を引き込む。
俺を突き刺し殺すつもりか、モズ贄のように!?
俺の死体を見せつけて叛逆の意思を消そうっていうのか!?
だけど動かねぇ!
クソッ、クソオオオ!!!!!
俺は、こんな所で、負ける訳には、いかねぇんだあああーーーーーー!!!!!
しかし無情にも、剣は突き出された。
迫る切っ先に対し、俺は無力だった。
だがその切っ先は、俺には刺さらなかった。
ウーティリスが間に入り、その胸で受け止めていた。
その現実が、リアリムにも動揺を与えた。
その動揺が、剣から手を離させた。
俺の硬直が、不意に解けた。
俺は元の勢いのまま、駆けるしかなかった。
ウーティリスが己に突き刺さった剣を引き抜き、俺へと放っていた。
鮮血が舞い散る中、俺は剣を受け取っていた。
ウーティリスの意思が、示す指先を通して見えていた。
だから俺は、剣を振り被っていた。
そしてリアリムの肩へ、ただ力の限りに振り下ろす。
俺の今までのありったけを込め、すべての怨念を断ち切るつもりで。
それはただ静かに、真っ二つへと斬り裂かれていた。
リアリムの体が二つ、宙を舞う。
そして転がり、赤い体液で白床を汚しながら動きを止める。
そのすべてが無我夢中での出来事だった。
だからこそ俺はとても現実とは思えなかったのだ。
俺がやった事も、ウーティリスの身に起きた事も。
何もかもが、夢ではないのかと思えてならなくて。
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