第128話 すべてはゲールトの築く未来のために(???視点)

 ギトス、TSR01共に命動反応の消失を確認。

 作戦は失敗、それのみならずザトロイ施設の廃棄にまで至った。

 損失は中規模、実行員の補充は急務である。


 しかし迷宮神ユーティリスの存在を確認できた事は大きな収穫であった。


 ……ユーティリス。

 君はまだ私を許してはくれないのか。


『リアリム』

『雑念は捨てよ』

『それこそが存続の要』

『……』

『わかればよい』


 すべてはゲールトの築く未来のため。

 ひいては人類存続の永劫化のため。

 敵となるのならば如何な者も排除せねばならない。


 ――ならばギトス、貴様は敵か? 味方か?


『ギトスの生命活動を微量ながら確認』

『役立たずめ』

『処分するか?』

『要検討』

『その必要は無い、廃棄せよ』

『待て』


 ギトスの記憶に一部混乱の痕跡あり。

 解析が必要と判断。


 理由、ユーティリスへの追跡転送後の記録確認のため。

 転送地点はエルモニアン砂漠中腹、地下空洞。

 ただし内部における動向は我々の知るに至る所ではない。


 TSR01と共に記憶の解析を推奨する。


『ふむ』

『理解した』

『許可しよう』

『ならば解析を始める』

『生命維持を実施、記憶の解析開始』


 ――ギトスの記憶解析、確認完了。

 雑念の割合92.782%。大半が妄想、虚構、歪曲の可能性あり。


『なんと酷い』

『これは本当に人間か?』

『情報の信憑性に欠く』

『ならば視覚記憶のみを辿る事とする』

『異議なし』


 ギトス視覚情報の取得確認。

 TSR01の記憶情報の取得確認。


 ……人物照合。

 マスクの男、ラング=バートナー。またはダンジョンブレイカー125号。危険度中。

 背負われていた者、迷宮神ユーティリス。最重要危険人物。

 仮面の戦士、ブレイクナイト。性能は準X級冒険者と認定。特級危険人物。

 魔術士、ブレイクソーサラー。性能はA級中位。危険度低。

 褐色の剣士、シャウ=リーン。ザザザッ……解析不能。

 翼人の女、太陽神ニルナナカ。最重要危険人物。

 モーリアン族、名称不明。危険度低。


『やはり神が問題か』

『待て、一人おかしい』

『解析不能とは』

『画像確認。奴は間違い無い、ミュレ=ディネル』

『リミュネール商会会長か!』

『やはり……!』

『だがなぜ奴の情報が開示できない?』

『今回ほどの接触情報はかつてないはず』

『情報プラットホームに異常があると判断』

『バカな、それは』


 情報プラットホーム、ゲールトの持つ全情報の保存源。

 そこに異常をきたす事は本来ありえない。

 数千年において触れる事を許されたのは我々ゲールトのみである。


 ……いや、厳密に言えばもう一人。


『まさか!?』

『そんな!?』

『ミュレ=ディネルは、あの偽神ディマーユだというのか!?』

『可能性は大いにあり得る』

『奴の情報はすでに封印、引き出す事は叶わない』

『だが奴は森林大陸にいるのでは』

『出立していてもおかしくはない』

『だが奴に我々へ逆らう理由がある?』

『考える時間は大いにあった』

『ならばディマーユが敵になったと思うしかない』

『肯定』

『恐れていた事が現実になった』

『いや、なっていたのだ。商会はすでに何百年も前から動き続けている』


 安心しきっていた。

 ディマーユは我々の傀儡であると。

 だが長い時を経て叛意を抱くまでの思考力を得たか、失敗作め。


『奴の存在はニルナナカよりも物理的に危険』

『ならば対策を』

『その心配はいらぬ』

『対応策はすでにできておる』

を試す気か?』

『肯定』

『では被検体はどうする?』

『ここにいる』

『理解に苦しむ』

『こやつの思考性能では理性破綻の可能性あり』

『調整を入れる』

『サブユニットを組み込めば問題無い』

『理解した』


 対偽神兵器の製造、七賢者の合意確認。

 これよりプラントを稼働、ギトスおよびTSR01の改造に移る。


 搬送開始。

 ギトスの肉体の死亡を確認、だが作業に支障はなし。


 これより改造作業開始。

 偽神ディマーユの肉体製造時における精製情報とサンプルを転送。

 思考間バイパスの接続確認。融和に至るまでの時間、およそ92時間。

 

『間に合うか?』

『奴らは急いて来るであろう?』

『この場所がわかったならばあるいは』

『では改造を急ごう』

『希少資材を投入せよ』

『これはゲールト存続の危機である』

『ギルドも全導入せよ』

『リミュネール商会の動きを止めるのだ』

『逆らう者には死を』

『それこそが世界存続の鍵ならば』


 ユーティリス達が攻めて来るのは間違い無い。

 ならば我々は備えねばならない。それが我々の役目ならば。


 それはかつての君がそうしたように。

 ゆえに私もまたそのやり方を貫こう。


 たとえ愛していた君が立ち塞がろうとも、もう立ち止まる事はできないのだから。

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