第114話 すでに復活していた鍛冶神
まさかあの鍛冶神ダンタネルヴがすでに復活していたとは。
男のケツを拝まなくて済んだのは幸いだが、これはこれで意外な事実だった。
――で、そんなダンタネルヴに連れられて今、俺達は社長室にいる。
「そこにかけてくれたまえ。なに、遠慮はいらんよ。二人の神仲間がいるからな」
「ここすごいね、ギルドマスターの部屋よりずっと豪華……」
「はっはっは、ここは
「じゃあこの会社は?」
「それも当然吾人が造ったものである」
「おお……」
しかもその神がモーリアンの里で企業を興していたとはな。
なにからなにまで理解が及ばんぜ、こいつぁ。
そんなフレンドリーな神に言われるがまま、部屋中央のソファーへ腰をかける。
するとダンタネルヴも続いて自分のデスクへと乗り上げた。
「さて、何から話したものか。あまりに懐かしくて話題には事欠かなさそうだが」
「そんなの決まっておろう。そなたが復活していた理由が聞きたいのら」
やはりウーティリスも気になっていたか。
そうだ、俺もまずそこを聞きたい。
「そうか、その事か。なぁに簡単な話だよ。およそ一九〇〇年ほど前にダンジョンから掘り出されたのだ。彼らモーリアンの手によってな」
……やはりか。
モーリアンが穴掘りに長けているという事は誰が見ても明らかだ。
地下空洞を構築し、里まで築けるほどに。
だがまさかダンジョンまで掘り尽くしていたとは。
スキルなしでもここまでやれちまうのは正直なところ感服だぜ。
「しかも彼らはすぐに吾人を信頼し、協力関係を結ぶ事ができた。それに吾人にもまた復活させてくれた彼らに対しこれ以上無い恩義があった。だからこそこの腕を奮い、彼らに製造技術という文明を与え続ける事にしたのだ」
そして神復活の見返りはスキルではなく文明ときたか。
本当の意味で神らしい恩恵だよな。
思っていたよりずっと奇妙な先進文明だった訳だが。
「幸い、土の中を掘り進められる彼らにダンジョンの難易度など関係はない。ゆえに出現すれば資源を根こそぎ掘り尽くし、宝も回収し、即座にコアも破壊し事なきを得る。上級以上が発生しようとも吾人が出張ればそれでよい」
「その通りらな。そなたならば上級ダンジョンの敵程度では傷一つ付けられぬ至高の防具も造れよう」
「ああ当然だともっ! 知らぬ者もいると思うから敢えて言わせてもらうが……何を隠そう、ダンジョンに仕込んだ武具のマスターベースはすべてこの吾人が造ったものなのだぁ! フハハハ――」
「致命的なのはデザインセンスだけなのら」
「「「……」」」
おいおい、ハッキリ言うなお前!?
ほらぁ、ダンタネルヴさん口すぼませて震えてるじゃんかぁ……。
とはいえ、まぁウーティリスの言いたい事がわからない訳でもない。
なにせ、ここに至るまでに見た物すべてが箱型だったのだから。
ほぼすべてが四角くて、細かい造形がないスッキリとした形状のものばかり。
こだわりを感じる縦横比でこそあるものの、それでは意匠もクソもないだろう。
「え、ええい、ならばこいつを見ろォ! 吾人の新作を見て同じ事を言えるか!?」
すると何を思ったのか、ダンタネルヴが右腕を突き上げる。
そうした途端、何も無い所から何かが落ちてきた!?
これはインベントリ能力!?
神でも使える奴がいたのか!?
って事はつまりこいつぁ……!?
「あ、インベントリみたいに空中から何か出して……えっ?」
「こ、これは……」
「「「箱……?」」」
……やっぱり箱でした。
微妙に切れ目とか入ってるけどまぁ箱。
銀色に輝いて鏡みたいに美しくも箱々しい何か。
「違うよぉぉお!? ちゃんと見て!? このストレートラインの造形美! すべてがコンマ〇一以内の公差領域で精製された超精密構造なのよ!?」
「いや、だからそもそもこれはなんなのら……」
「鎧だよ!? 見ればわかるでしょお!?」
「「「鎧!? これが……!?」」」
「ほれ見よ、この反応がキサマの認識との乖離よ」
「~~~ッ!!!」
ああそう、そういう事ね……。
今さらながらウーティリスがデザインにツッコミ入れた理由、わかった気がする。
ツッコミ入れんと、ダンジョン攻略者達がみんな箱型鎧を着るハメになっちまうからだったんだな。
あまりにダサ過ぎて、これを着ろって言われても遠慮する自信があるぜ。
「クッ、なぜだ……腹部は特に磨き上げてスムーディなスリット筒式に仕上げたというのに……!」
「そういう所らぞ」
そもそもどう着るのかもわからんが。
物は良いんだろうけど、こだわりが強いのも考え物だな。
「……まぁいい。ともかくとしてこんな素敵なデザインの道具を創り出せるよう吾人がモーリアンに知恵を授けたという訳だ」
「逃げたな」
「逃げてないっ! 断じてぇんっ!」
おまけに子どもっぽい所は総じて神らしい。
……いや、いい歳したおっさんが両腕を振り回して誤魔化すさまはウーティリスよりずっと滑稽だった。
「ではなぜ人前に出ようとしなかった? さすればもっと早くこのディマーユが見つける事もできたであろう」
「おぉ、君があの噂に聞く唯一神かね。思っていたより随分と麗しいじゃないか」
「えっ!? あっ、そのぉ、麗しいなんてそんな事ないですぅ~!」
おかげでディマーユさんもパニくっているみたいだ。
おだてられるのが慣れていないのか、らしくない挙動不審さを見せているんだが?
……だがどうやら不審なのは師匠だけではなかったらしい。
気付けばウーティリスとダンタネルヴの会話にも僅かな不穏が漂い始めている。
「それだけではないぞダンタネルヴよ。モーリアンの里だけをここまで発展させてしまってはいつか地上文明との高度乖離による衝突が起きかねん。有用性を知ればあのギルドが黙っておるまい!?」
「そこだよウーティリス」
「――えっ?」
どうやら俺達が思った以上にダンタネルヴもまた賢い存在であるらしい。
ウーティリスに対し微笑み、毅然と背筋を立たせている。
そして二指を揃えた右手をビシッと鋭くウーティリスへと向けていて。
「だからこそ吾人はモーリアン達を人文明から切り離すための知恵も授けたのだ」
「「「なっ!?」」」
「モーリアンが野蛮で汚らしい……そう噂させたのは他でもない、彼ら自身の手によるものだ。あえて自ら関係を断ち、独自の文化を築くためにな」
「なっ!? あの噂ってのが、文明を分断するためのデマ、だと……!?」
「本当のモーリアンは見ての通り、実に賢い。秩序を愛し、次々と進化を果たす文化にも適応するほどにね。だから吾人は彼らだけに協力する事を選んだのだよ」
「なにゆえ彼らだけに!?」
「それは賢い君にだってわかっているんじゃないか?」
「ぬ……」
そう言われ、みなの視線がウーティリスに集まる。
しかしそんな彼女の表情はどこか浮かない。
まるで察しながらも言い出せない、そんな感じで。
「吾人はね、すでに人を見限ったのだよ」
でも直後にダンタネルヴ本人から放たれた答えは、俺達を驚愕させるには十分過ぎた。
……いや、むしろこんな答えが返ってこない訳がなかったのだ。
今までの俺達は神の優しさに触れすぎて感覚がマヒしていただけなのだから。
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