底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました! ~残念ながら本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでどうかお引き取りを!~
第113話 ようやくモーリアンの里へ……あれ、何かおかしくない?
第113話 ようやくモーリアンの里へ……あれ、何かおかしくない?
モーリアンの宿は実に快適だった。
冷たい水がサービスで付き、風呂まで自由に入れる。
さらにベッドの布団はふかふかで天国のような寝心地。
なにより部屋の遮音性が高く、一切の雑音なしで眠れるのだ!
あとは有料だが、注文すればメニューの料理が部屋に運ばれてくる。
光る板を触るだけで頼めるのもすごいが、すぐに持ってきたのも驚いた。
おかげで朝から肉厚ハンバーグという贅沢を堪能しちまったぜ、フッ。
何の肉かはわからんが実に美味だった。また食べたい。
それですっかりと楽しんだ後、ロビーで再び集合する事に。
ドネドネも迎えに来てくれているし、準備は万端だ。
「さて、全員揃ったのでそろそろ行こうと思うのだが……その前に一言いわせてもらう。この中に、朝から肉厚ハンバーグを喰った奴がいる!!!」
「「「ッ!!!??」」」
な、なんだとおっ!?
バカな、どうしてそれがバレているッ!?
「しかも五皿だ! やりすぎにも程があるだろうッ!」
「「「ご、五皿……ッ!!!??」」」
なっ!? 五皿だとお!?
……それってつまりこの六人の内の五人が喰ったって事?
それとも一人で五皿たいらげたって事なの???
「この際だから食べた事自体は許そう。しかし量にも限度というものがあろう。一皿200グラム分、つまりは1キログラムだ! それをすべてたいらげたのは誰だ!?」
OH、後者かよぉ……。
じゃあ俺じゃねぇわ。
しかし本当に誰なんだ?
ニルナナカは身体が大きい割にあまり食べないからまず違う。
チェルトはちょっと怪しいな、あいつ新陳代謝なかなか高いから。
師匠はまぁキレてる方だから犯人って事はないだろう。
ラクシュはよくわからんが、平然としているしきっと無罪だ。
で、ウーティリスは――
「まったくのぉゲフゥ。一体誰がそんな、たくさん食べて、しまったのかブフッ」
お前だーーーっ!!!
お前しかいねぇーーーっ!!!
よく見たらなんだその異様に膨らんだ腹は!
あきらかに容量オーバーしたものが詰まってるじゃねぇか!!!!!
ほらぁ、もうみんな気付いちゃってるじゃん。
あきらかにみんなの視線がそのデカっ腹に向いているよぉ?
「……四皿分はウーティリスの給料から引く事にする」
「んなーっ!? なぜバレたし!?」
そりゃま当然だよな。
「さて問題も解決したし、さっそく街へ繰り出すとしようか」
「ではン、後料金の肉厚ハンバーグ一八皿分その他もろもろのお会計をよろしくお願いいたしますン」
「うむ」
――おぉい、ちょっと待てェ!?
ウーティリスの分を差し引いても総数が明らかに多過ぎんだろ!?
俺昨日と含めて一皿しか喰ってないんだけど!?
なので単純に言うと、俺以外が三皿以上食べてる計算になるんだが???
受付嬢からしれっとバラされた内訳に、みんなが動揺を隠せない。
くっ、誰なんだ、そんなにたくさん食べた奴ゥ……!
「モーリアン自慢のミミズハンバーグはいかがだったでしょうかン? ぜひとも次回もご堪能くださいませン」
「「「ブッパァァァ!!!!!」」」
お、おう、あれミミズ肉でしたか……。
その割にはジューシーでなかなか美味かったからいいんだが。
あ、なんか他の五人が一斉に虹を吐き始めた。
師匠に至っては両膝を付いてしまっているんだが?
まぁ元はアンタの金だから深くは思わないけど、しかる前に身の振りなおそうな?
……とまぁこんな騒動を挟み、少し間を置く事に。
それで全員が体調を取り戻し、やっと里へと一歩を踏み出した。
なのだが。
「な、なんじゃこりゃあ……!?」
ロビーから出てすぐ現れた光景に、俺達はただ驚愕するしかなかったのだ。
なにせどこでも見た事のない異様な文明模様が姿を現したのだから。
そこらを歩き回っているのは皆、上流階級ばりの整った衣服を着るモーリアン達。
しかも歩道らしき所を行き交い、自由そうながら秩序を感じるぜ……。
おまけになんだ、その隣の道では馬なし馬車がいくつも走ってやがる。
なんだあの鉄の塊は!? 一体どうやって動いているんだ!?
よくみれば地下空間も広大で、それに負けないくらいどの建物も高い。
どれも箱みたいにカクカクとしていて、窓みたいなのも大量に見えるぞ!?
「ちょっとン、そんな所で立ち止まってないでよン危ないんだからン」
すると俺の足に一人のモーリアンが勝手にぶつかりながらも去っていった。
でも片手で例の小さい板を触りながら歩いているし。危ないのはお前だろう?
しかしなんだこの文明は?
地下で発達するとこんな感じになっちまうのかぁ!?
「こ、これは驚いたのら。まさかこれほどにまで文明が発達しているとは」
「いや、どちらかといえば回帰だな。四三〇〇年前を思い出さざるを得ん」
「なつかしいれすぅ~~~」
ただ神三人組は俺達の驚き方と少し違うようだ。
感心しているようにも見えるし、既視感があるんだろうな。
四千年前はこの光景が当たり前だったのか。
まったく、古代文明ってのは奥が深すぎるぜ……。
「それで師匠、これからどこへ向かうんです?」
「ここでは名を出しても構わんよ。……そうだな、アレはあるかな?」
「アレ?」
「見よディマーユよ、あれではないか?」
「おお、あったあった。案内魔光板だ」
するとディマーユさん達が何かを見つけ、歩み寄る。
それは人二人分くらいの大きさを誇る光り板だった。
しかしディマーユさんがそれに触れると、途端に板が模様を変える。
文字まで浮かんできたぞ。これは俺でも読めるな。
なになに、行き先案内?
「行くなら政庁だろうか?」
「……いいや。きっとこのド派手な工場であろう。
なんだ、行く宛でもあるのだろうか?
まるで人に会いに行くような雰囲気だが。
ディマーユさんもここに来るのは初めてみたいだし、どういう事なんだ?
「しかし歩くにはちと遠いかのう」
「ならバスを使おう」
なんだか妙に順応しているように見えるな。
神達にはこの文明がそれだけなじみ深いのだろうか。
それで俺達はディマーユさんに連れられ、馬なし車が走る道の傍までやってくる。
なんでも全員で乗って移動できる乗り物が来るそうだ。
そうしたらさっそく普通より大きなのが道の傍へ寄ってきた。
ただ、思ったより小さい……!
天井が俺の背丈くらいしかないぞ!?
ディマーユさんはともかくニルナナカなんか絶対詰まるだろこれ。
「まぁ無理だなこれは」
「ですね」
「わらわは平気そうだし、これに乗っていくのら」
「ダメだ。一人になったらどうせ迷うから」
「ちぃ!!! わらわのワクワクを返して!」
「仕方あるまい、歩いていく他ないな」
他にも乗り物はあるようだが、すべてが俺達に合わない規格外のものだ。
それなので諦め、目的地まで歩く事になった。
……とはいえ、だ。
そもそも街自体が規格外に小さいので地図の寸借も相応だった。
おかげで思ったよりずっと早く目的地に辿り着いてしまった。
「モーリアンズファクトリーインダストリアル……」
「あとモーリアンの里本社工場って書いてあるね」
「もしかして支社もあるのかのう?」
「規模が規模だしあり得るな」
思っていたよりずっと綺麗な場所だ。
建物も白くて四角くて整った形だし、敷地もしっかり舗装されている。
かといえば端は生垣や芝生なども植えられていて実に見栄えがよい。
「……ディマーユさん、ちょっといいです?」
「なんだチェルト?」
「ふと思ったんですけど、これが本当の企業って奴なのでは?」
「そんな気がするな」
「俺達の想像していたものとまったく違うよな」
うーん、なんだか現実を突きつけられた気分だ。
もしかしてダンジョンブレイク工業って結構アバウトに間違ってるんじゃないか?
そう思ったらなんか急に恥ずかしく思えてきたんだが……!?
「まーそう足踏みしていても仕方あるまい。さっさと行くのら」
「お、おう」
しかしウーティリスは我関せずと言わんばかりに俺の頭をペチペチと叩く。
ダンジョンブレイク工業を立案したのはお前なのに、よくもまぁそう図々しくいられるものだな?
ともあれ行かなければ埒が明かないので敷地内を行く事に。
事務所らしい場所もあり、しっかりと案内もされていたので迷う事はなかった。
それで事務所へと辿り着き、受付らしき所へ。
「いらっしゃいませン、MFICへようこそン」
するとなんかホテルの受付嬢と雰囲気の似た人が立っていた。
いや単に見分けがつかないだけなんだけど、本当にそっくりに思える。
「ご用件はン?」
「社長にお会いしたいのらが」
「アポはとっておられますでしょうかン?」
「あいや。だが伝えて欲しい。賢く可愛い超絶美少女ウーティリスちゃんが訪ねてきたと」
「……かしこまりましたン」
そんな受付嬢にウーティリスが率先してこう応えた。
ディマーユさんもなんか任せていたような節があるし、なんだろうか?
しかし受付嬢は小さな板を耳に充てながら独り言を始めている。
なんだ、呼びに行くんじゃないのか?
「ハイ、ハイ、わかりましたン。――お客様、しばしお待ちくださいませン」
「うむ」
でもどうやら呼ぶ事はできたようだ。
まったく、あの小さい板の能力はよくわからん。まるでスキルみたいだよ。
そう思っていたらふと、ガラス壁の向こうから誰かが近づいてくるのが見えた。
灰色のピッチリとした服を纏う誰かが、すっきりとした歩き方を見せつけながら。
「やぁみなさん、お待たせして申し訳ない!」
そうして現れたのは一人の男。
背丈は俺と似た感じだが、赤と灰色の後ろ髪を太陽のごとく広げている。
髭もなんだかワイルドでちょっとばかり共感しちまうな。
しかし一方で身なりは当然整っていて、それでいてピッチリとしていて筋肉質。
まさにクール&ワイルドを地でいく男の中の男って感じだぜ。
「それにしてもあいかわらずだな、ウーティリスにニルナナカ」
「れすぅ~~~!」
「やはりそなたであったか。元気そうでなによりなのら、ダンタネルヴ」
「「「……え?」」」
だがウーティリスの一言で俺達は揃って唖然とせざるを得なかった。
なにせ目の前に現れた人物の正体があまりに意外すぎたからこそ。
鍛冶神ダンタネルヴ。
これから蘇らせようとしていた奴がこうもしれっと現れたのだから。
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