第98話 滅殺れすぅ~~~~~~!

 ついに海中ダンジョン攻略が始まった。


 入口が安全地帯ともあり、ここでまず準備をする。

 インベントリにあらかじめ入れていた全員の装備を取り出して装備させたのだ。


「クリンの装備は預かっていないが、大丈夫なのか?」

「オラの武器はこの拳なんですねーっ!」

「必要ないって事か。男らしい潔さだねぇ!」


 そうして穴の先へと進めば、さっそくと魔物のいない理由が姿を現す。

 通路が水没し、水路となっていたのだ。


 しかしこのシチュエーションはすでに想定済みである。


 そこでまずはクリンに先行させ、通路の先がどうなっているかを確認させる。

 それで戻ってきたら今度はクリン先導の下、用意していた空気袋を備えて水中を進むのだ。


 泳げなくても問題はない。

 元々が狭い通路なので足がついて歩けるのだから。


 そうして水路から上がれば、さっそくと魔物が姿を見せる。

 アラルガンの地下にもいた、腕が四本あったり脚が六本あるような異形どもだ。


 それをA級勇者達が一斉に迎え撃ち、各個撃破。

 まだ入り口だからか、それほど苦戦はしなかったが。


「フーッ……さ、さすが超級なんですねー、魔物の強さが普通じゃないですねーっ」

「これからも多分普通に強くなっていくと思うから注意してね」

「チェルトが超級の強さをよく知っている。戦い方を参考にしてくれ」


 とはいえラクシュやクリンは初めての相手ともあり、少し困惑気味だ。

 早めにこういうモンだと思って認識を改めてもらうしかないな。


 チェルト達が戦っている間に俺やニルナナカも水路から出て水を拭い終えた。

 あとはどう進めばいいかだが……。


 ウーティリスが調子を取り戻すまで少し待った方が良かったか?


「い、いや構わぬ、わらわはとりあえず、なんとでもなろう……」

「大丈夫かよ? 声が枯れてるぜ?」

「ラングが『一番愛してるよウーたん』って愛の抱擁をしてくれれば治るのら♡」

「掠れた声でそう言われてもちっとも靡かねぇなぁ……」

「ギリィ!!!!!」


 たしかに俺らは守られる立場だが、こんなコントをする余裕はないぞ?

 ほら見ろ、チェルトが呆れたような目をこっちに向けてるじゃねぇか!


 魔物もまだちらほら来やがる。

 こりゃ落ち着くまで時間がかかるか。


「ほんっとラブリーナイトに改名しよっかなぁーーー!?」

「今その話題盛り返します!? これ違うから! ウーティリスが調子を取り戻すために必要なコントだから!」

「お二人は漫才士の才能がおありだったのです!?」


 ああクソッ、三人とも必死だからもう冗談にすらなりゃしねぇ!

 これで少しは余裕ができればまだマシなんだがなぁ!


「じゃあ~~~ニルナナカが~~~行くれすぅ~~~」

「――え?」


 でもそんな心の声に反応し、ニルナナカが「ぽよんぽよん」と前線へ歩き行く。

 まるで遊びに行くようなノリに見えるが!?


「滅殺れすぅ~~~!」


 だがその瞬間、俺達は見てしまったのだ。

 魔物を一撃で消滅させるほどの威力を誇る、ニルナナカの豪速拳を。


「滅殺! 滅殺! 滅殺れすぅ~~~!」

「ギャ!?」「ギョエ!?」「ギギィ!!?」


 インパクトの瞬間がまるで見えない。

 しかし「ボッ!」と音が鳴った瞬間、敵の肉体が破裂し蒸発、消し炭となるのだ。


 な、なんだこれ……あきらかに威力がおかしいんだが?


「当たり前なのら。ニルナナカはかつて冒険者と共にダンジョンに籠る事もあったほどの超武闘派なのら」

「「「超武闘派!?」」」

「神としての不死身特性も言わずもがな、アレの攻撃力は越界級の魔物でさえ一撃で吹き飛ばす。それゆえに以前は越界級を一人で攻略した事もあるのら」


 は!? 越界級を一人で……ッ!?

 ふ、ふざけんなよ、それ明らかに現代最強クラスじゃねぇかっ!


「ただし戦闘中はまったく人の話を聞かぬ。ほれ見よ」

「あ、ニルナナカどんどん先に行ってる……」

「滅殺れすぅ~~~~~~!」


 あーもう目的ガン無視なのね。

 魔物が襲ってこようが構わず消し飛ばしながら、先へと歩いていってしまった。


「制御できぬがゆえに何するかもわからん。しかし魔物の大半の露払いはしてくれよう」

「お、おう……」

「これ私達がいる意味あるのかなぁ?」

「ダンジョンは何も一本道ではない。たしかに音に惹かれてあやつの下に大半が向かうだろうが、そうでもない魔物はこちらにも来る。それをチェルト達が仕留める必要があるという訳なのら」

「これがディマーユさんの安心していた理由かい……」


 やっと納得したよ。

 あの超重量にも耐えうる飛行能力と、この驚異の戦闘能力。

 それ全部ひっくるめてニルナナカの持つ破邪の力だったって事か。


 となるとなんだ?

 俺、そんなニルナナカら回復系みたいなスキル授かった訳だけど。


 ――ちっともニルナナカらしくねぇじゃねぇかあああ!!!

 そこはせめてバトル系スキルくれよぉ!


「ともかく、ニルナナカがいるおかげでわらわ達にも余裕ができよう。ゆえに愛の抱擁をする時間もあるという訳なのら」

「そうは言うけどもうお前普通に戻ってるよな?」

「うっ!? そ、それはぁ……」

「抜け駆けはなしだからねぇ、ウーちゃん?」

「ぐぬぅ……」


 一体なんの抜け駆けだかわからんが、チェルトの言う通りだ。

 少しくらいは節操を考えろ。


 ……さて。

 もうニルナナカは声が聞こえないくらい奥に行ってしまったな。

 この調子だとダンジョンコアまで普通に突っ走りそうだ。


 でもニルナナカの奴、なんで今さらこんなやる気を出したんだ?


「きっとあやつはあやつなりに悩んでいたのら。封神計画の事を知り、自分なりにやれる事を模索していたのであろう」

「そうか、ニルナナカも神だもんな。仲間が封じられているって知ったらやる気にもなるか」

「うむ」

「じゃあそれを知った後に上級攻略に来なかったのは?」

「ニルナナカにとって上級ダンジョンはすべてが指先一つで消し炭ダウンにできるクソザコみたいなもんらしのう。そもそも行く必要ないと思っているのであろう」

「そこを生業にしていた私達勇者っていったい……」


 まぁ上級がクソザコっていうのはこの際置いておくとしよう。

 しかしその理屈だとまるでA級勇者でさえニルナナカには足元に及ばないと思われているんだろうな。


 そもそもだがA級勇者がこの世界において最高峰のはず。

 だとすると以前はどうやって超級や越界級、星滅級を攻略していたのだろうか?


「勇者の概念については詳しくは知らぬが、冒険者であればそなたらA級はまだまだ未熟でしかないのう」

「これでも最高ランクなのですが、それでもなのです?」

「うむ。かつてはA級冒険者の上にX級冒険者という存在がおった」

「「「X級……!?」」」


 まさかA級より上があった……!?

 そんな話ちっとも聞いた事ねぇぞ!?


「X級はA級とは比べ物にならぬ能力補正があってのう。しかも経験を積む事により、際限なく力を鍛える事ができる。ゆえに星滅級ダンジョンに関してはそのX級を極めた者達だけが挑んでいたという訳なのら」

「なるほどね、A級はそれまでの前座に過ぎないって事かぁ……」

「さよう。ようはそこまでがチュートリアルという訳なのら」


 そういう事かよ……。

 で、そのチュートリアルでイキってたA級勇者なんぞ、ウーティリス達にとっちゃ嘲笑の対象でしかなかったって訳だ。


「そしてX級に上がるには超級ダンジョンである程度の実績を積まねばならぬ」

「じゃあおじいちゃんはもしかしてX級になれるんじゃ? 地下封印ダンジョンも超級だった訳だし」

「かものう。ただしニルナナカが代替コアだったので、そもそも超級ダンジョンとして機能していたかどうかは怪しい。となると職業経験値が積まれていない可能性も否定できぬ」

「あ、そっかー」


 俺もちょっと期待したが、そう上手くはいかなさそうか。

 ディーフさんなら年寄りでもまだ伸びしろありそうだもんなぁ。


「ただ条件が整っていても、今の時代でX級に上がれるかどうか」

「えっ?」

「……いや、ただの戯言よ。気にするでない」


 けどそれならもう昇級していても不思議ではない。

 だとすると何か障害があると思っていいかもな。


 ギルドにX級へ上げる能力がないか。

 はてまた要求経験値に届いていないだけか。


 あるいは、ディーフさん自身があえて秘匿しているか。


「さて、それよりも先に進まねばなるまい? すでに道は拓けておる」

「おっと、そうだったな」


 今はそんな関係無い事を考えてる時じゃなかった。

 あやうく俺が目的を忘れそうだったぜ。


「わらわもリブレーを探ってみる。しばし静かになるから許せよ」

「おう、安心して自分の仕事に集中していてくれ」

「うむ、任せよ! さっくり見つけて案内してやろうっ!」


 そこで俺達はようやく一歩を踏み出す。

 ニルナナカが切り拓いてくれた道を、伏兵に気を付けつつゆっくりと。


 それでもやってくる敵は数匹程度。

 いつ襲ってくるかもわからないからこそ気が抜けない。


 そんな中を俺達は徐々に抜け、順調に中腹辺りへと辿り着いたのだった。

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