第79話 本性覚醒(ギトス視点)

 ダンジョンブレイカーめ、よくもまた僕達に恥をかかせてくれたな!

 それどころかなんだ、ダンジョンブレイク工業って!

 企業だと!? よくわからない事を!


 だが結果は偽れない。

 ゆえに僕達はあの後、帰ってすぐにギルドマスターへと真実を報告したのだ。


 そして今、再び当事者だけがギルド執務室に集まった。

 今後について話し合うためにも、と。


「さて、全員が集まった所でそのダンジョンブレイク工業とやらに対する対策を練ろうと思う」

「お待ちくださいギルドマスター」

「なんだねアーヴェスト?」

「そもそも我々だけで対策を練っても仕方がないのでは? この件は本部に持ち帰り、ギルド全体で対策を講じるべきです」

「……そうだな」


 さすがアーヴェスト、こういう時でも冷静さを失わないな。

 その通りだ。こんな地方くんだりで対策しても意味は無い。


 奴の存在は本物で、そして実力も紛れも無かった。

 A級でさえ手玉に取られ、かつ我等を退けられる側近さえ控えているのだ。


 だとすれば全面戦争しかありえないだろう。

 世界中の全ギルド、全勇者を動員してでも奴らを潰さなければならない!


 ――なのになぜギルドマスターは及び腰なのだ!?


「しかしこのままでは奴を野放しにしたこのギルドが責任問題を問われかねん。それだけは避けたい所だ」

「……そうですか」


 チッ、この期に及んでの保身が理由か!

 見損なったぞギルドマスターめ。所詮はその程度の器か。

 これならまだ僕が仕切った方がマシだ!


「そこで奴に対しもっと詳細な情報を集め――」

「それよかぁ、もっとやるべき事があるでしょお?」

「なんだキスティ? 言ってみろ」

「それはぁ……」


 珍しいな、キスティが進言なんて。

 この人も結局は長い物に巻かれるタイプなのだが。


 ん、なんだ、席を立って……僕の方に来る?


「なんですか――」


 そして直後、僕の側頭部に強い衝撃が走った。


 叫ぶ事さえ叶わないほどの衝撃だった。

 椅子から飛び出し、転げ、壁へと叩きつけられるほどの。


 それで気付けば視界が上下逆さまとなり、キスティを見下ろしていて。


「お前さぁ、あの時キスティ達を置いて逃げたよねぇ?」

「え?」

「自分だけ逃げてさぁ! キスティ達に飛び出させてぇ! 攻撃喰らわせたよねぇ???」


 あ……


「お前、なんで逃げたの?」

「う、あ……」


 それは命波が見えたからで。

 ――う、声が、出ない!?


「なんで喰らわなかったのっつってんだよッ!」

「うげえッ!!?」


 そんな僕の腹に蹴りを一発。

 少女でもA級勇者――その一撃は尋常ではない。


「あ"!? なんでお前はキスティ達の盾にならなかったんだよォォオ!!?」

「うげっ!? がっ!? ゲフッ!!?」


 それだけじゃない。

 何度も何度も細かく蹴り始めた。

 身動きできず固まる僕を容赦なく!?


「何をやっているんですキスティ!?」

「掃除だよぉ! この役立たずのゴミカス処理に決まってんでしょおおおお!!?」


 そうか、キスティはあの時からずっとイライラしていた。

 それは僕があの時号令を出した事にずっとイラついていたのか。


 くっ、命波も見えない奴が何を粋がって……ぐはっ!?


「お前みたいなクソはとっととくたばれ! ゴミ! 生ゴミ! 生きる価値も無い虫以下のゲロミソがあああ!!!!!」

「げぼっ!? ぐがあっ!?」


 こ、このままでは本当に殺されてしまう!

 どうすればいい、どうすれば――


 ――あれ、このシチュエーション、どこかで……!?


「もうお前はいらない! 肉塊にして魔物に喰われちまいなあああ――!?」


 そう思い出した時、僕は苦しみに耐えながら咄嗟に体を動かしていた。

 繰り出された蹴りに合わせ、足にしがみつくように動いたのだ。


 それはいつかラングが僕にしてみせたように。


 ふとラングの事が脳裏によぎった。

 あいつとの楽しい思い出とか、師匠との三人の思い出とか。


 そしてそれと共に、僕を蹴るキスティへの怒りが瞬時に沸き上がる。


「あっ!? うあああーーーっ!!?」


 その拍子になぜか力が沸き上がり、キスティの足を取った勢いが増す。

 さらにはラングがしてみせたのと同様、このメスガキを前面から倒してやったぞ!


「ぶっげえ!!?」


 見事な前転だなぁキスティ!

 拍子に醜い声と、鼻血みたいな鮮血が飛んだぞぉ!?


 だが、この程度で終わる僕じゃない……っ!


「ああああああッ!!!!!」

「な――ぎゃうっ!?」


 ゆえに僕はこのメスガキに馬乗りとなってやった。

 それどころか思いっきりツインテールを引っ張って頭を持ち上げ、自慢の顔を殴ってやったぞ!


 一発じゃ飽き足らないか!?

 なら何度でも殴ってやるよおおお! 


「ぶげっ!? あぶっ!?」

「よくもやりがたったキスティィィィ!!!!! 何倍でも何倍でもォ! 好きなだけやり返してやるよおおおおおお!!!!!」


 不思議だ。力が溢れて来る。

 僕がA級勇者だった頃の力がとめどなく!

 まるで今までにないまでの残虐性が噴出してくるかのようだ!


 それでいて、とても気持ちイイっ!!!!!


 ああ! ああ!

 師匠! ラング! お前達の事を思い出すとこれすっごく気持ちいいよぉ!

 一発一発に後悔と、それを上回る快感が走るんだあ!


 その快感のままに殴りまくって、キスティの顔が歪んでいく!

 なんだこれ! 醜くてカワイソウなのに楽しいよお!

 最高だ! 最高過ぎるよこの女の涙目顔ぉぉぉ!!!!!


「や"っ、や"め"っ、やめでえ!!!」

「辞めるものかよキスティィィ! お前が! 懇願! しても! 僕は! 辞めたくないんだああああああっ!!!」

「ぴぎゃあああ!!!??」


 勇者だからな! 頑丈だよな!

 だからすげえよこの女! 何度殴っても壊れねぇ!


 なぁラング!? 師匠!? そうだったんだよなぁ!?

 だからお前達は勇者がよかったんだねええええ!!?


「もうやめるんだギトス君ッ――」

「いや、よせ、これでいい」

「なっ!? ギルドマスター!? なぜ止めないんです!?」

「丁度いい頃合いだからだ。キスティは少しやり過ぎた」

「だからってこんな!?」

「それにな、もう一つ理由があるのだよ」

「えっ!?」


 ああ? 外野がごそごそと!?

 僕は今とってもエクスタシーを感じているんだ! 黙ってろよ!


「ギトスよ、これが何かわかるか?」


 ん、なんだ? ギルドマスターが何か手に取っている。

 あれは、ギルド員章……?


 しかも金の縁で囲われた、上級ギルド員章じゃないか!?


「お前の他者を統べようとする志、不屈の精神には一目置いていた。よってお前を正式ギルド員、それも上級ギルド員として勧誘、認定したい。それがどういう意味かわかるかね?」

「僕が上級ギルド員……ギルドマスターの次に権威のある存在――それって!?」


 それを僕にくれるのか!?

 それってつまりぃ!!!


「そう、そのキスティもお前の部下になるという事だ。すなわち、どうしようが好きにしてかまわんという訳だな」


 あ あ あ

 うおおおおおお!!!!!


 最高だ! 最上だあっ!!!

 そうか、僕は上級ギルド員となる!


 それすなわち!

 僕が今どれだけ!!

 キスティを殴っても!!!


 一切の罪にならないという事だッ!!!!!


「いいでしょう! 僕はその認定を受けたいっ!」

「よかろう。ではギトスは今日より上級ギルド員となる」

「そういう訳だキスティィィ……!」

「ひ、ひ……」

「じゃあ存分にお仕置きタイムを続けるとしようじゃないかぁ……!」

「あ、あ、いや、いやああああああ!!!!!」


 ゆえに僕はその叫ぶ口にも拳を奮ってやった。

 何度も何度も、泣こうと喚こうと漏らそうと構わずに。

 そして弱ればアーヴェストに命令して回復魔法をかけ、さらに続けてやったのだ。


 あは、あははは!

 そうだ、僕こそ勇者の上に立つ者!

 A級勇者さえ僕にとっては踏み台に過ぎなかったのだ!


 そう、ここからが僕の本当の野望の始まりである!

 ゆくゆくはギルドマスターをも超え、ギルドをも牛耳ってやろう。


 そうして世界が僕にひれ伏すのだ!

 その時こそ、僕が師匠をもこうやって支配してやるぞぉぉぉ……!

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