第78話 俺は一体なんの処刑を受けている!?

 まさかレトリーが俺の事を想っていてくれていたなんてな。

 もしかして俺に対して強気だったのは全力で抵抗させるためだったのか?


 その点、俺はちっとも遠慮しなかったからなぁ。

 ドMらしいし、罵声とかが快感なんだろうよ。


 だけどそんなレトリーが涙ぐんで離れたくないと訴えてきた。

 しかもその騒動に勇者どもが駆け付けてきやがった。


 最悪の状況だ。

 このまま打ち首なんて勘弁してくれよな!?


「レ、レトリーさぁん? 書類、離してほしいなぁ???」

「やでずう! わたぐしぃ! 離したくなぁい!」

「おいラング! テメェ何してんだ!」

「ハーベスターごときが!」


 イィヤアアアアアアーーーーーー!!!!!

 マジで勘弁してくれ! ホンット許して!


 穏便に解決させてェェェーーーーーー!!!!!!!!!!

 

「てめぇ! レトリーに惚れられやがって!」

「この野郎! レトリーの気持ちくらいわかってやりやがれぇ!」


 ……え?


「たしかにレトリーは変人だ!」

「メガネクイクイもうっとおしいし、変に高圧的だしな!」

「だが俺達勇者を支えてきた掛け替えのない受付嬢なんだよぉ!」

「そうだ。数少ないファンの俺達が保証する」


 どういう事?

 なんだこれ、応援してくれてんの?


「そんなレトリーをお前みてぇなハーベスターに取られるのは納得いかねぇ」

「けどな、それがレトリーの想いってぇなら俺達は目を瞑るぜ」

「ああ、それがレトリーのファンである俺達の役目だからな」

「その通りだ」


 お前ら……すっごいめんどくせぇ!!!!!

 なんでこういう時だけ親身なんだよ!?


 それになんなんだよファンって!

 ならいいよ、じゃあお前らがもらってやれよ! 譲るからぁ!


「ラング……ワタクシをもらってください」

「なんでレトリーもノリノリなんだよ!? いやまって!? 俺退去届けとか出しに来ただけなんだけど!? そういう話をする為じゃないからぁ!」


 あ、片手を離した!

 よし今のうちに――


 おぉぉい!!!!!

 婚姻届けを挟むんじゃねぇよ!!!!!

 つかなんでそれが今ここにあるんだよォォォォォォ!!!!!


「もらいなさい」

「「「もらえ! もらえ!」」」


 ウゼェ! 究極にウゼェ!

 なんだこの晒しは!? 俺は今いったいどんな処刑を受けている!?


 クッ、こうなったらかくなる上は!


「悪いけどレトリー……俺にはもう、婚約者がいるんだ」

「「「ッ!!?」」」

「俺は、チェルトと共に生きるよ」

「「「!!!!!???」」」


 仕方がない、最終手段を取らせてもらう。

 最悪な事態が起きた時にとチェルトから言付かったこの作戦でッ!


 今やチェルトはA級勇者で最高峰の権力を得ている。

 その勇者と婚約・結婚しているならば、たとえ相手が別のA級勇者だろうと口出し手出しはできなくなるのだ。


 それがレトリーのような相手だったとしてもな!


「そ、そうですか……」

「だからすまない。好意は嬉しいがな」

「なら、仕方ありませんね……」

「ああ。だからどうか達者でな。お前の事は応援しているよ」

「「「うおおお! レトリィィィ!!!!!」」」


 正直、本当に申し訳なく思う。

 好意を寄せられた事は意外だったが、嬉しいのも真実だし。


 だけどレトリー、今のお前からでは好意を受け取れないんだ。

 ギルド員で、本当の俺に関係無くて、これからは敵同士になるから。


 それに事情も話せない。

 俺にはまだ、お前を信じていい確証がないから。


 だからもう、さようならだ。


「今までありがとう、鉄面皮メガネ。これからもメガネ芸を忘れずにな」

「ええ、あなたもねケダモノ。引っ越し先でも他の女の尻を追わないように」


 お前にはそう見えていたのか。

 そんなつもりは無かったんだけどな。


 ま、いいさ。

 それはそれで面白い与太話だ。


 だからと鼻で笑いつつ、渡された書類を書いて提出する。

 そんな紙はすでに存分に湿っていて、だけど書く事に苦は無かった。


 レトリーの悔しさを吸い取って、少しでも心の重しを軽くしてくれるなら、と。




 こうして俺は手続きを済ませ、二日後に街を発った。

 ただしすぐに拠点へと移った訳ではないが。


 なにせ故郷を離れるからな。

 一番報告せにゃならん相手がいるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る