第75話 宣戦布告完了!

「ふぃー最後でちと焦ったが、うまく誤魔化せてよかったぜぇ」


 ついにギルドと勇者に宣戦布告してやった。


 奴らの驚く顔が今でも目に浮かぶかのようだ。

 ギトスの奴も相当に怒り狂ってるみたいだしな、かなり効いている証拠だろう。


「ちと最後で気が緩んでしもうた。すまぬ……」

「まぁ誰も気付いていないみたいだし? いいんじゃないかなー」

「ああ。今もこうして直下にいる俺達に気付かず咆え散らかしてるしな」


 なお俺達が逃げたのは魔王の死骸のすぐ下。

 あらかじめ掘ってあった逃げ場の下穴だ。

 おかげでギトスの叫び声がガンガンに響いてくるぜ。


「という訳でおつかれさん、ブレイクナイトさん」

「もぉーオフなんだからチェルたんって呼んでよぉ!」

「いやー勇ましくて俺ぁもうそんな可愛く呼べないぜ。呼んだ事無いけど」

「じゃあラブリーナイトに改名するから」

「それは企業イメージに反するからやめておこう?」


 チェルトは最高にいい演技をしていたな。

 今まで巷で伝説装備を着なかったおかげで、奴らにゃいい偽装装備になった。

 ま、表ではまだA級になりたてで着れないし、丁度いい使い道だ。


「ディーフさんもお疲れ様でさぁ」

「ククク、なかなかに名演技であったろう?」

「そりゃあもう! まさかあのデネルをぶっ飛ばすとは思いませんでしたがね」

「フンッ、あの程度などゴロゴロおるわ。所詮は粋がるだけの若造に過ぎぬ」

「さっすが三〇年A級してるだけの事はある……」


 ディーフさんもノリノリだったな!

 相談したら仲間になってくれるって一つ返事だったし、とても助かる。

 お歳ゆえに参加機会はそこまで多くはないだろうが、クラウース共和国の事でなら大いに力となってくれるだろうさ。


 そして最後のこのブレイクソーサラー。

 まさかこいつが生きて俺の下に参じるとは思わなかった。


「さっきは助かったよラクシュ。おかげで無事で済んだ」

「いえ、これがわたくしの使命なれば。主様の力になれて光栄にございます」

「お、おい、なにもひざまずかなくても」

「これが我が忠誠の証なれば」

「こ、こんな扱いにくい奴だったっけ、お前」


 あのゼンデルと共にワイスレットを追放されたラクシュ。

 彼女がエリクスに連れてこられた時はもう驚いたものだ。


 とはいえ、彼女はもうラクシュであってラクシュではないらしいが。


「わたくしはひとえにあなた様のために。そのために生きながらえる事を望み、体に改造を施されたのです」

「そ、そう。ゼンデルはどうなったのやら」

「あの男は最後にわたくしを置いて逃げ、そして先に魔物に喰われて死にました」

「おう……」

「ですがわたくしは生き残った。すべてはあなた様のおかげにございます」


 ……俺は何もしてないんだけど。


 ただ、そう思い込んでいるって話だったな。

 改造を施して、俺への忠誠心が最高にまで引き上げられたとかなんとか。

 よくわからんが、俺達以外の人の言う事は聞かないらしい。


 だが、ギルドに反するならこれ以上に適した人材はいないだろう。

 ギルドから追放された身だからな、復讐という名目なら妥当だ。

 唯一素顔を晒せる人物だと言えるだろうよ。


 ま、この鉄筒メガネは実に奇怪だが。

 赤く丸いレンズがとても怖いし、小さく「チュイイン」とか音が鳴るし。


「しかしこれでもう後戻りはできんぞラング。あとは奴らギルドと勇者を追い込むまでそなたの戦いは続く」

「わかってる。やるなら徹底的に、だ。これから忙しくなるぜ?」

「うむ。とことんまで付きおうてやるわ! 存分に頼るがよい!」

「次はもう吹き替えしくじるなよ?」

「ウッ……気を付けるのら」


 そして世間での俺の声役となったウーティリスの調子も上々だ。

 まだ言葉遣いに違和感はあるが、その内なれるだろうさ。


 さてと。


 正直、企業というモンがこういうものなのかはわからん。

 ディマーユさんもウーティリスも詳しくは覚えていないらしいしな。

 だがやる事は変わらないのだから存分に利用してやろう。


 ディマーユさんの宿敵、反神組織ゲールトをあぶりだすためにな。


 あの人いわく、まだゲールトはどこかに残っているという。

 ギルドの裏で巧妙に隠れているだけで、まだ暗躍しているらしい。

 だからこそ奴らを見つけるために「企業」という名を餌にしようというのだ。


 ゲールトが古より続く団体なら、その名を知っているハズ。

 そうしたら奴らはきっと誘われてくるだろうとな。


 もしかして神が復活したか――そう疑わせる事によって。


 その餌はもう蒔かれた。

 あとは奴らが釣り針にかかるのを待つだけだ。

 それまでは今まで通りにやらせてもらうだけさ。


「それじゃそろそろ帰るとしますかねぇ。あ、お宝は山分けで」

「いや、ワシにその必要はない。かの方に再会させてもろうた礼もあるしの」

「そうっすか……なら恵まれない子ども達への資金にさせてもらうぜ」

「うむ、それでよい。もはや役目を終えたシーリシス家の資産とて存在価値はないのだ。なれば真に世のため人のために使われるのが良かろう」


 ディーフさんもこうして身の振り方を変えようとしているみたいだしな。

 武具コレクターとして家を守るのではなく、久しぶりに戦士として復帰する事を。


 ディマーユさんに教えられた志の下に、きっとこの国を立て直す力となってくれるだろう。


 それでチェルトは俺の普段の付き人として。

 ラクシュは裏側での俺の護衛として。

 あとナーシェちゃんが補佐をしてくれるってんだから最高だ。


 そしてそんな同志が他にも、世界中に数多くいるらしい。


 俺はその同志達に協力してもらいつつ、ダンジョンブレイカーの力を奮う事になるだろう。

 勇者達を封殺しながら少しずつ攻略の仕方を教え、神を解放し、より多くの同志を増やしながら。


 そのためにも俺達は近々ワイスレットを――クラウース共和国を離れる。


 だからこの後はまだやる事は目白押し。

 もういつ帰って来られるかもわからないから、友人達に別れの挨拶もせにゃならんし。


 それじゃあ手始めにテント市場で挨拶でもして回るとしようか。

 あそこもまた良くしてくれた恩人ばかりだしな。

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