第53話 ギトスの強さの秘密

 まさかギトスと同じ便に乗ってワイスレットに帰る事になるとは思わなかった。

 しかもあいつ、ランクを下げていたなんてな。驚きだよ。

 一体何があったんだか。


『クククッ、わらわの思考盗聴に隙はないのら!』

『ねぇ~~~あの方、とても心が穢れてますぅ~~~犯罪者ですかぁ~~~?』


 いいや違うとは思うよ? たぶん。

 さすがにギトスも犯罪までは犯しちゃいないだろうよ。きっと。


『浄化しましょうかぁ~~~?』

『やめておくのら。奴そのものが消滅しかねん』

『まぁ~~~魔物みたい~~~大変れ、すぅ~~~!』


 馬車内は私語ができないくらい静かだが、頭の中はとても騒がしい。

 まぁ下手に騒がれるよりはマシだし、俺的には退屈しなくていいがね。

 その分チェルトを退屈させてしまうのが心苦しいが。


 だが、やはりギトスが気になる。

 内心はよほど焦ってるだろうにな。


『そなたにバレたくないよ~って泣きベソかいておるのら』


 いや、ベソってそれはないだろう。自信過剰なアイツがそう弱気になる訳ない。

 ちゃんと真実だけを言いなさい。


 だがバレたくないと思うのは事実だろうな。見栄っ張りだから。


 まったく、昔からそうだ。

 自分が自慢できる事に関してはいつも頑ななんだから。


 俺との一本勝負でたまたま勝てた時もそう。

 あの時は「やっと僕が勝てた、やっぱり僕は強い」って言って憚らなかったっけ。

 まぁその後は連戦連敗してへこんでいた訳だが。


 でもあの時はまだかわいいもんだった。

 それでも弱気になるとすぐ「ラングアニキ助けて!」なんて、すぐ裏に隠れていたからな。


 ……あの頃は毎日が楽しかったなぁ。

 師匠とも笑い合って、互いに学んで修行して。

 あの頃に戻れたらどれだけよいか。


 そういえばギトスはまだあのペンダントを持っているのだろうか?

 師匠から渡されたあのプレゼントを。


『この人ぉ~~~心の声がぁ~~~すっごく速くてぇ~~~』

『色々とぐちぐち心で言っとって読み取りにくいが、なんか持っておるようらぞ』

 

 そうか、大事にしているんだな。

 ならまだあいつも諦めてないって事だろうさ。


『しかしこの波動……妙らのう』


 ん、どういう事だ?


『こやつの胸元から嫌~な力を感じるのら。おそらくはそのペンダントとかいう奴であろうが』

『そうねぇ~~~でもでもぉ~~~どちらかというとぉ~~~ウーティリスちゃんの気配を~~~なんか感じますぅ~~~』


 えっ?


 それはどういう事だ?

 なんでアイツのペンダントからウーティリスの力を感じる?

 お前から何か渡したりしていないよな?


『んな訳がなかろう! だぁれがこんな奴にわらわの物を渡すものか!』

『ウーティリスちゃん~~~心の汚い人~~~大嫌いだからぁ~~~』


 ……少し確かめてみるか。

 直接見れば二人も何かわかるかもしれないしな。

 少し抵抗もあるが、我慢だ我慢。


「あのぉギトス様ぁ、少し聞きたい事があるんですがぁ」

「あ"あ"?」

「ま、まだ師匠との約束の品、持ってらっしゃいますかねぇ~……?」


 変に意地はるなよぉ、当たり障りないように言ってやってんだから!


「……当たり前だ。僕と師匠の誓いの証だからな。肌身離さず持っている」

「いやぁそうでしかぁ! でしたら是非とも一目見せていただきたいなぁ~なんて」

「なんでだ? お前にはもう関係ないだろうが?」

「あっ、そのぉ、最後の未練を断ち切るために、どうか、ね?」

「……」


 あー……こりゃダメか?


「……そんなに見たいなら見ればいい。これが最後の慈悲だ」

「あ、ありがとうごぜぇやす!」


 よしっ、いいぞ! 胸元から取り出した!


 この銀の逆三角を描いたデザイン、懐かしいな。

 師匠が自ら付けていた物だったっけ。

 ギトスが欲しそうにしていたからと譲ってもらってたんだよなぁ。


『こ、これは……!』

『まぁまぁ……!』


 だがなんだ、ウーティリス達の反応がおかしい。

 見てすぐに驚いたような顔を浮かべているし。


「もういいだろう。いい加減師匠の事は忘れろ。お前には過ぎた方だ」

「へ、へい、ありがとうございやした!」


 そこで俺は二人の伸びていた首を掴み、強引に引き戻す。


『あれは間違い無い。〝反願の呪鎖飾り〟なのら』

『うんうん、しかも~~~かなりのぉ~~~高精度品ねぇ~~~』


 な、なんだそれは?

 あきらかに物騒そうな名前なんだが!?


『反願の呪鎖飾りとは、対象が不幸になればなるほど力を蓄積し、装着者に恩恵を与えるという物なのら。しかもその恩恵は装着者の願いのまま。力を願えば力を、知恵を求めれば知恵を与えてくれよう』

『でもぉ~~~逆に対象者がぁ~~~不幸じゃなくなるとぉ~~~』

『当然、その能力も反転しよう。場合によっては装着者の才能さえ吸い尽くす』


 な、なんつうシロモンだ!

 まさか師匠がそんな物を渡したなんて!?


 けどどうして師匠がそんな物を!?

 つか不幸の対象って――まさか!?


『うむ。おそらくは……わらわであろう』


 な、なんてこった。じゃあこういう事か!?

 ウーティリスは復活したからもう不幸じゃなくなった。

 それでギトスは力が元通り、あるいは反転させられた状態……!?


 ――っつか、おいおい!?

 それってつまりあいつは、今までズルして強くなっていたって事かぁ!?

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