底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました! ~残念ながら本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでどうかお引き取りを!~
第50話 首脳会議(ワイスレットギルマス視点)
第50話 首脳会議(ワイスレットギルマス視点)
まさかワイスレットのギルドマスターともあろうこの私が首都に呼び出されるとはな。
先日もギトスを送り込んだが、自分も来る事になるとは思わなかった。
緊急収集という話だが、一体なにをやらかしたのやら。
それでようやく首都ギルドへ辿り着いた訳だが。
……さっそく知った美男顔が見えるな。
アラルガンのギルドマスターだ。
「来たかワイスレットの」
「うむ。それでアラルガンの、今回の話とはなんなのだ?」
「聞けばわかる。すでにこの先の会議室にてクラウースの首脳陣と関連者は集まっている」
どうやら私待ちだったようだな。
まったく、どうして呼び出す必要などあったのか。
それでアラルガンのギルドマスターが私を連れて会議室へ。
するとまた見た事のある面々の、ずらりと並び座る姿が見えた。
首相に各庁の大臣、それと十二名家の当主達か。
あのA級勇者ディーフ老もいるようだ。
珍しいな、奴は政治的な話には首を突っ込まないと聞いたのだが。
チッ、こっちを睨むなよ。
先日のチェルトの一件ではしっかりと責任を果たしただろうが。
「役者が揃ったようじゃな。ではさっそくじゃが、本題に入らせていただこう」
ぬ、ディーフ老が仕切るのか?
なるほど、それでこの場にいるという訳か。
「実はのう、一昨日に地下封印ダンジョンの真なるコアの破壊に成功した」
「「「なっ!!?」」」
なんだ、なぜ場にいる奴らが驚いている?
地下封印ダンジョンとは一体……。
そう口出す訳にもいかず唇をすぼめていたら、アラルガンのマスターが私の腕を肘で突いてきた。
「貴殿は知らぬだろうが、この地下には古より残る高難易度ダンジョンが存在していたのだ。コアを破壊したが消滅しなかったというな」
「なに……!?」
それで小声で囁いて教えてくれたのだが、どうにも驚きを隠せん。
まさか首都の地下にそんな物が存在していたなどとは。
「本当なのですかディーフ=シーリシス!?」
「うむ。この目で真なるコアの消滅を見届けたわ。疑うのであればこの後にでも地下封印ダンジョンへ足を踏み入れればすぐにでもわかろう」
「なんと……」「ついに我々の悲願が」「ようやくこの日が来たのね!」
ぬう、首都の政治士どもが揃って感極まっている。
それほどの代物がずっと存在してたという事か。
だがなぜ今さら?
「なお、そのコアを破壊せし者こそ……あのダンジョンブレイカーだったのじゃ」
「なっ!?」
「「「おお!」」」
ば、バカな!? あのダンジョンブレイカーだとお!?!?
やはり奴の存在は本物だったのか……!?
「それは先日、孫のチェルトと封印ダンジョンに挑んでいた時じゃった。中腹まで差し掛かり、ワシらでも苦戦を強いられた時に奴は突然現れた」
「そ、それで奴の正体はどうだったんだ!?」
「お、落ち着けワイスレットの」
「装いは噂の通りじゃ。黒いマフラーに荒々しい皮鎧、そして仮面を被っており素顔はわからなんだ。しかしすぐにわかったよ。奴こそが噂に聞くダンジョンブレイカーなのだとのう」
ま、まさかここで奴の名を聞く事になろうとは!
しかも噂通りの装いなら我々にも好都合だ!
今までは謎の存在だから無理だった指名手配がこれで正式にできるぞっ!
「ディーフ殿、情報を感謝する。それでは我々はその情報を元に奴を捕まえて――」
「何を言うておるのか?」
「――は?」
「聞かなかったかワイスレットのギルドマスター。奴は我々の悲願を成就してくれたのだぞ? 封印することしかできなかった地下ダンジョンの完全破壊という偉業をのう」
「そ、それは……」
「そのような恩人を捕まえるなど恩知らずも甚だしい。そなたも派遣された身とはいえこの地に住む者。なれば此度の偉業に対しては礼金すら用意しても足りぬ!」
「ううっ……」
「ご容赦をディーフ老。彼は我々と違い、事情を知りませぬ」
「……なれば仕方あるまいのう」
くっ、ディーフめ、長く貢献しているからと妙にいばりよって……!
ギルドに身を置く立場でありながら国にも協力する蝙蝠めが。
「……そういう話でしたらなぜギルドに相談しなかったのです?」
「よせ、ワイスレットの!」
「我々の戦力なら封印ダンジョンなどA級勇者達の手で――」
「三七二人じゃ」
「――え?」
「かつてより三七二人のA級勇者が挑んでこのザマなのじゃよ」
「なっ!?」
「それほどの人数が探索しようと誰もが見つけられんかった真のコア。それをあのダンジョンブレイカーはワシらの目の前で容易く見つけてしまった。それがどういう意味かわからぬそなたではあるまい?」
「ぬ、ぬう……」
ま、まさかそれほどのダンジョンだったとは……!?
ディーフめ、普段から姿を見せないのはそのダンジョンを攻略していたからか?
「むしろこれでギルドの無能さが浮き彫りになったと言える。のう、アラルガンのギルドマスターよ?」
「くっ、返す言葉もありませんな……」
「しかしこれで証明されたと言えるじゃろう、あのダンジョンブレイカーの真の存在価値がな」
「真の存在価値……?」
なんだ、何が言いたいディーフ!?
ダンジョンブレイカーが一体なんだというのだ!?
「奴はもはやA級勇者にあらず。ワシは奴を伝説の〝X級勇者〟と見ておる」
は?
な、なに……?
お前、い、一体何を言って……!?
奴があ、あの伝説のX級勇者だとおおおおおおお!!!??
「バカなっ! そんなバカな話があるものかっ! X級勇者は向こうウン百年と現れていない存在! そんな存在がギルドを通さずに現れる訳なかろうっ!」
「そうだディーフ老。いくらあなたといえど口が過ぎますな!」
これにはアラルガンのギルドマスターも憤慨を隠せないらしい。
それも当然だ。
今の一言は職業と階級を管理する我々への冒涜とすら言えるのだからッ!
X級勇者――それはかつてあらゆるダンジョンを制したと言われる伝説的存在。
そんな存在でも我々ギルドがランク解放をしなければ出現しえない。
それをまるで自然発生したかのように騙るなどとは。
「フン、噂程度にしか奴を知り得なかったそなたらが偉そうな口を叩くでないわ」
「ぐっ……!」
「奴の正体を証明できぬ者達がいくら咆えようと、奴の存在価値を見出す事などできるものか」
ぐううう! ディーフめぇ!
貴様だって偶然居合わせたようなものではないかぁ!
「……よってワシは奴に特別報奨金を支払う事を提案したい」
「異議なし」「誰が反対するものですか」「ぜひ一度お会いしたいものだ」
「クラウース政府としては肯定一致のようじゃな。ワシも喜ばしく思うぞ。それでギルド側はどうなのだ?」
くっ、そうか、そういう事かディーフよ。
わざわざ我々に恥かかせるためにこの場に呼んだという事か!
おのれええええええ……! かくなる上は……!
「……アラルガンのギルドも異論はありませぬ」
「ワ、ワイスレットも左に同じく。しかし一つ条件がありまする」
「条件?」
「その報奨金を渡す役はぜひとも我々ワイスレットのギルドが引き受けたい。なにせ我々が最初の遭遇者ですからな。我々こそ奴に最も近しい存在と言えるでしょう」
「ほぉ~?」
「そこでギルドで全力を挙げてダンジョンブレイカーと接触しましょう。そして今までのわだかまりを捨て、必ず報奨金を渡すと約束しますよ……!」
奴に近いのはまぎれもなく我々ワイスレットのギルドだ。
だからこそ奴を見つけ出す事は可能なはず!
それに、見つからなければ報奨金を我々が頂いてしまえばいい……!
なんて事は無い。「奴は見つからなかった」と言えばいいだけなのだからなぁ!
そう、奴も勇者ならば我々ギルドに従わねばならない。
従わないのであれば罰金も致し方なかろう? クククッ!
……私の思惑もうまく行き、報奨金はワイスレットのギルドが預かる事となった。
常々ディーフの眼が鋭くて少し堪えたが、まぁ結果オーライと言えよう。
それで会議も終わり、ようやく当ギルドマスターと二人きりになれた。
「あまり彼らを刺激するなよ。彼等もまたギルドのスポンサーなのだから」
「わかっているとも。だが度を越えればギルド本部も黙ってはいなかろう? だからこそ奴らは私の条件を飲んだと言える」
「ああそうだな。……ともあれ、報奨金の扱いをどうするかは貴殿に任せるさ」
「なぁに、悪いようにはせんよ、ククク」
「フッ、貴殿も随分と手馴れたな」
どうやらアラルガンのギルドマスターも私の意図に気付いたようだ。
それをわかって黙っていてくれるところは実にありがたい。
――と、そんな訳で高額紙幣を一枚、奴の裾へと差し込んでやった。
「ところで、先日貴殿が派遣してきたギトスというA級だが……」
「どうだ、使い物になりそうか?」
「あれはダメだな。本当にA級なのか? C級並みの実力しかないじゃないか。どうして奴を派遣したのだ」
「気分転換のつもりだったのだがな、それでもダメだったか」
ぬう……だがギトスの方はやはりか。
奴の面倒を見てくれた礼としての賄賂でもあったのだが。
「このままでは我等も厳しい判断を下しかねぬ。よって早急にA級らしい仕事をしてみせろと伝えておいてくれ」
「……善処しよう」
チッ、今日はツイていない。
まさかここまで大恥をかかされ続けるとは。
特にギトスについては、どうやら本腰を上げねばならんようだな……!
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