第49話 師匠の正体とは
装備も売り、代替コア問題も解決。
古来より続く地下ダンジョンもまもなく消えるだろうという話だ。
しかし話はそれだけでは済まなかった。
知らないと言っていたはずの師匠の事を、ディーフさんは何か知っているらしい。
だから俺はその話を聞く事にした。
少しでも師匠に繋がる話を知りたくて。
「ワシはたしかに、君の師匠自体に関しては知らぬ。これは言った通りじゃ」
「ふむ……」
「だが、君があの一閃を放った際に口走った言葉だけは知っておる」
「あの台詞だけを知っている……?」
「あれは君の師匠から学んだものなのであろう?」
まさかあの台詞を知っているとは。
あの台詞はディーフさんの予想通り、師匠の受け売り。
魔物達が故郷の村に攻めてきた際、あの人は一瞬にして切り伏せた。
そして俺とギトスを救い、その上であの台詞を放ってみせたのだ。
〝出で立つ命に感謝を、我が剣の英魂とならん〟
すべての命に無駄などなく、剣はその魂を吸って強くなる、という意味だ。
これは師匠が剣を奮う意味でもあり、信念でもあったそう。
「あの言葉を、ワシははるか昔、若い頃に聞いた。上級ダンジョンへと赴き、魔王との戦いを繰り広げた時じゃった」
そんなに昔の話だったのか。
だとすると師匠はまだいない時代かな。
「ワシはその頃、まだA級になりたてでのう。少し無理をしてしまい、魔王に負けそうになってしまった。迂闊じゃったよ。得物も失い、仲間も失い、精根も尽き果てあとは死を待つのみというほどに追い詰められてしもうた」
ディーフさんでもそんな時があったのか。
「だがその時、ワシの前に一本の刀を下げた女が現れた。スタイルもさることながら出で立ちはまさに強者のごとく。ワシを背にして刀を抜き、不安を消し飛ばすほどの闘志を立ち上らせて揺れておった」
「つまり、ボンキュッボンだったのですね!」
「しかりッ!」
「妙な所で話が合うのね、お二人」
なるほど、その辺りはたしかに師匠と同じだ。
現れ方も、人を助ける所も、そのバルンバルンスタイルも。
時代が違っても共通点が同じだなんて不思議な話だな。
「そしてたった一太刀で魔王を切り伏せ、ワシを救ってくれた。その際にかの言葉を放ってのう」
「もしかしてその一閃も……」
「うむ、君が放った物とまるで同じ、閃光の如き一薙ぎであったよ」
そう、あの技も師匠の受け売り。
俺が無理を言って伝授してもらったものだ。
決まった名称は無いらしく、なので俺は勝手に『駆走閃薙』と名付けている。
「それで彼女は名も名乗らず、ワシを助けてくれた。しかもダンジョンから出てその別れ際になぜか彼女の刀を託してくれたのだ。〝これで多くを救ってやってくれ〟と言い残してな」
きっと思考も同じだ。
師匠なら得物を渡す事もいとわないだろう。
俺達にも託してくれようとしたからな。
ギトスにはペンダントを。
俺には物ではなく志の一言を。
……だとすると考えうるのは、師匠とディーフさんが会った人は直系の血筋である可能性があるな。
そういった志を受け継いで旅する勇者一族のような。
「以来、あの刀をワシは奮い続けておる。壊さぬよう大事に扱いながらな」
「なるほど、あの剣がディーフさんの思い出の人の武器だったんですね」
「うむ。受け継ぐ者を絶賛募集中じゃ。かの言葉をかけて渡すのがワシの夢でのう~……しかし相応の勇者に巡り合えん! ゆえに未だ現役という訳じゃ」
「あ~そんなのに出会う希望なんてないぞ、今の時代は。わらわが見てきた限りじゃみんっなカスら、クズら、ダメダメらあ!」
「えぇ~……じゃあ私はどうなるのぉ?」
「あ、そなたらは別なのら。安心せい」
「よ、よかったぁ……」
「かっかっかっ! 神様は容赦ないのう!」
ディーフさんにもそんな夢があったんだな。
まぁこの人ならしばらく現役でも問題ない気がする。
少なくとも俺はこの人の実力は信頼できるし、実際に安心させられたからな。
上級くらいまでならなんてことないだろ、この人の実力なら。
「しかしのうラング君。ワシはそこで少し一つ推理してみた。君の師匠とワシの恩人……この二人の共通点からのう」
「何かわかった事があるんです?」
「これはただの予想に過ぎぬのだがのう……もしかしたら、どちらも同一人物かもしれんぞう?」
「ッ!?」
な、なにっ!?
同一人物、だと!?
そんな事がありえるのか!? うん十年前の人なんだろう!?
師匠はそこまで年増という訳では無かった。
むしろハタチ過ぎかそこらという若さだったんだ。
そんな人がディーフさんの若い時代にもいたなど信じられる訳がない!
「この世には長寿の人間もおる。たとえばエルフやニンフ、亀人などのな」
「でも彼等はもう……」
「いないと思うか? いいや可能性的には無いとは言い切れぬ。ワシらが知らない所で繁栄しとるかもしれんしのう」
「ですがね、師匠は普通の人でしたよ!? 耳も尖っていないし羽根も無い、甲羅だって持っていませんでしたよ!? 全裸姿を見た事がありますが!」
「そうじゃな。そうかもしれん。それらの種族ではないのじゃろう」
「だったら――」
「なら神ならどうじゃ?」
「うっ!?」
な、なんだって!?
師匠が、神!?
ウーティリスやニルナナカと同じの……!?
「ニルナナカ殿はともかく、ウーティリス殿はワシらヒューマル族にそっくりじゃ。つまりワシら人間と同じ姿を持った神が他におっても不思議ではなかろう?」
「そうらな、わらわのようにナァイスバディでピューティフォーウな神は他にもいっぱいおるぞ!」
「君、それ本気で言っとる?」
いや、可能性的にはありえなくもない。
もしそうだとしたら同一人物だとしてもつじつまが合う。
なにせ数千年と人知れず旅し続けているなら、正体なんて誰も掴める訳がないんだからな。
だとすればシャウ=リーンという名前も偽名の可能性すらある。
一概に否定する事ができない話だ。
「……とまぁ事実は結局わからぬという事じゃ。可能性も可能性にしかすぎぬし、それくらい幅広く探す必要があるという訳じゃのう」
「なるほど。勇者として探すんじゃなく、もっと視野を広げて見ろって事なんですね」
「うむ。さすれば見えてくるものもあるかもしれん」
「おおっ、ありがとうございますっ!」
結局ヒントは得られなかったが、知見は広げられたと思う。
これから探す際にはもっと別の視点からも探してみた方が良さそうだ。
もっとも、他国に行ってしまってては見つけようもないが。
さりとて。
これはチャンスを拾う機会が増えたと思えばいい。
これからはそのチャンスを得るために、ちょっとづつ些細な情報も集めていく事にしようか。
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