第27話 ダンジョンブレイカー

 俺はギルドから離れた途端、駆けだした。

 そうして即座に家へと戻り、すぐに装備を身に着ける。

〝ダンジョンブレイカー〟のために用意した専用装備へと。


 密かに新調した採掘用の革防具一式に、頭には疾風の面具。

 ウーティリスを入れた革製バッグを背負い、トレードマークの黒マフラーを首へ。

 さらには新しく買った鉄マトックを腰にマウントして準備完了だ。


 幸い、昨日の道はほとんど塞いでいない。

 なら疾風の面具の効果があれば一気に駆け抜けられるはずだ。

 現地到着まで一〇分ほどしかかからないだろうさ。


「着いたらトラップルームの場所を探り当てるからの、時間を少しくれ」

「わかった」


 間に合ったら御の字だ。

 なにせトラップに掛かってからそれなりに時間がかかっているからな。

 しかしそれでも行く事を止めるつもりはない。


 死体だろうが持って帰る!

 そして証明してやろう、勇者どもができない事を俺がやってやったと! 


「ではよいぞ!」

「よぉし、ダンジョンブレイカー様が行くぜッ!」


 ゆえに俺の一歩は力強く。

 一瞬にして通路の先へと突き抜けた。


 ……存外この名前も悪くない。

 元は奴ら勇者達が勝手に考えた名前だけどな。

 奴らが忌み嫌うからこそ、あえてこの名前を引用させてもらう事にした。


 それでもまだ奴らの噂上の存在でしかないだろう。

 財宝を漁るだけのチンケな存在だけでしか。


 だがいずれ、この名前を世界にとどろかせよう。

 ダンジョンに勇者の出る幕なんかないんだってくらいにな!




 ――それからおよそ一○分。

 さっそくと俺が帰る時に塞いだ壁が迫ってきた。


 それをサクッと掘り返し、先日に財宝へ向けて掘った穴と合流。

 そこでウーティリスのために少し足を止める。


「たしかこっちの方にあった気がするのら。ムムム……ほらやっぱりあったぁ!」


 するとさっそく場所を見つけたらしく、ビシッと両指を向けてくれた。


「あっちの方角まっすぐに、大量の魔物と戦う二人の人間の反応あり! しかし押されておる、急がねば喰われてしまおう!」

「んなら……もうブチかますッ!」


 あいかわらずわかりやすい指示だ。

 遠慮なく真っ直ぐと向けてくれるから助かるぜ。


 おかげでもう、スキルの力で先を見据える事ができた!

 ならばあとは力を目一杯に振り抜くだけだッ!!!


「いっけええええええーーーーーーッッッ!!!!!」


 ゆえに一振り。

 ただ力の限りに。


 そうすれば瞬時にして、巨大な穴が形成される事となる。


 そうしてできた穴へと一気に跳び抜ける。

 するとさっそく、戦闘中の二人の勇者の姿を確認する事ができた。


「な、なんだこれはっ!? 何が起きたっ!?」


 ゼンデルの奴は驚きを隠せずにいる。

 それもそうか、突然目の前のすべてが消し飛べばそうもなるよな。

 床も障害物も、そして魔物も一気に削ぎ取ってやったから。


 だがラクシュの方は驚くどころか、壁に背を預けて動けていない。

 一応目はわずかに開いているが、もう息絶え絶えといった感じだ。


「な、なんだアンタは!?」

「俺か? お前達を助けに来た者だ」

「なっ!? つかその黒マフラー……まさかダンジョンブレイカーかッ!?」


 危ない所だった。

 ゼンデルももうボロボロでやられそうになっている。

 それにしたって半日よく保ったもんだよ、この状況で。


 どうやらこの部屋、一帯が魔物の巣のようだ。

 頭上には巣穴らしきものが見え、そこから絶えず蜘蛛のような魔物が溢れ出している。

 まだまだ出て来るぞ、今消し飛ばした分なんて比じゃないくらいに。


 これを退治するのはハッキリ言って無意味だ。


「て、てめぇ、ここで会ったからには――」

「その先を宣うなら俺は穴を塞いで帰る」

「えっ」

「考えている余裕はないぞ。俺に助けられるか、二人仲良く魔物の餌になるか、今すぐ選べ! その答えは、俺に付いてくるか否かで決める!」


 ゆえに俺は即座に踵を返し、穴へと向けて跳ね飛んだ。


 ラクシュを抱えるなんて生優しい事をするつもりはない。

 二人で助かりたいなら連れて来ればいい。


 しかし一人で飛び込んでくるようなら、辿り着く前に穴を塞ぐだけだ。


「……待て、待ってくれぇ!」


 とはいえ、ゼンデルは思ったより非道ではなかったらしい。

 しっかりとラクシュを抱えて穴を駆け登ってきた。

 やるじゃないか、少しは見直したぞ。


 ご褒美に奴の背後を塞いでやろう。

 魔物を放出させる訳にもいかないからな。


「た、助かった、ありがとうダンジョンブレイカー……」


 でもまさかこうして素直に礼を言われるとは。

 A級勇者だと思われているからだろうか。


 この素直さを他の人にも見せられれば立派なものなのに。

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