底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました! ~残念ながら本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでどうかお引き取りを!~

ひなうさ

第一部

神との邂逅編

第1話 希望が潰えた日

「ラング=バートナー、あなたに〝勇者〟の素質はありません。以上、後がつかえておりますのでどうかお引き取りを」

「えっ……嘘、だろ……?」


 才能選定所の受付前で、俺は膝から崩れ落ちた。

 信じられもしない現実を突きつけられたショックのあまりに。


 そして受付嬢から一枚の紙が無造作に放り投げられる。

 評価儀式によって導きだされた才能「採掘士」と書かれた認定書類を。


 でも俺にはもうそんな屈辱的な紙きれになんて用は無かった。

 だからただ無心で這いつくばりながら受付から離れていて。


「ま、まさかアニキが採掘士だなんて……」


 そんな紙を、俺を慕ってくれている親友のギトスが拾い上げる。

 ただしその内容を目にした途端、声は震えていたが。


 俺はこのギトスともに勇者を目指してきた。

 一緒に特訓に明け暮れたし、やれる事は何でもやってきたんだ。

 だからこそ内気で気の弱いギトスでさえ勇者の素質を得られたっていうのに。


 それなのにどうして……っ!!


「アニキが――いいや、ラングゥ~! アンタがまさか底辺職の才能に選定されるなんてなぁ……!」

「ギ、ギトス……?」

「あっはっは! ざまぁねぇなラングッ!」


 しかしギトスは紙をくしゃりと握りつつ、すっくと立ち上がっていた。

 それどころか俺を見下しながらあざ笑っていたのだ。


「おかげでやっと言えるぜぇ、ずぅーっとアンタが気に食わなかったんだってなァ! 少し腕が立つってだけでずっと目の前をウロチョロしやがってよぉ!」

「お、お前何を言って……」

「アンタはいっつも僕の前にしゃしゃり出てきたァ! ぼ、僕ならいじめっ子の奴らだって倒せたのに!」

「それはお前がおびえていたから助けようとしただけで……」

「それだけじゃない! 修行の時だっていちいち口を挟んでくるし、むりやり僕を引きずり回したっ!」

「それはギトスが『ついていきたい』って言ったからじゃないか!?」

「う、うるせぇ! 僕はもう勇者だ! 僕に反論するんじゃねぇこのド底辺がっ!」


 しかもこんな口論の末、ギトスは座り込んでいた俺に蹴りまで見舞ってきた。

 まさしく弱者をいたぶるかのごとく、つま先で何度も何度も。


「や、やめろギトス! 俺達は親友だろう!?」

「てめぇが親友!? 笑わせんな! 僕に底辺のダチなんていらねぇーーーっ!」

「くっ、この分からず屋がっ!!」


 だから俺はたまらず咄嗟にその足を掴む。

 さらには体全身をひねってギトス自身をも巻き込み、前から思いっきり倒してやった。


「うぶげっ!?」

「もういい加減にしろよギトスッ!」

「か、は……」


 体術ならさんざん特訓してきたからな、これくらいは余裕だ。

 とはいえ思いっきり顔から倒したせいでギトスは失神してしまったが。


「ちょっとあなた達、ここを一体どこだと思っているのです!? ここは神聖なる才能選定所ですよ!?」

「うっ、まずい!? す、すいませんっ!」


 するとこんな俺達の騒動に気付き、受付嬢が騒ぎ立ててしまった。

 このまま居座れば底辺職どころか犯罪者認定さえされかねない。


 それなので俺は失神したギトスを引きずりながら急いで場を離れた。


 それで外へと出てさっそく、ギトスの上半身を壁に立てて起こす。

 いくら豹変したとはいえ、今までずっと一緒だった親友だから心配だしな。


 あいかわらず鼻から鼻血をだしたまま目を回して失神している。

 頬をいくら叩いても起きる気配がない。死んではいないようだけど。


 やり過ぎたかな……?


 ――いや、俺にはもう手加減する余裕なんてないんだ。

 選定を受けた以上、〝才能補正〟によって各個人能力が上がってしまうから。

 まだ選定されたばかりとはいえ、ギトスももう最高位戦闘職である〝勇者〟だから身体能力は俺を越えているはずだし。


 でも、ギトスが起きればまたさっきのようになりかねないよな。


「俺はお前の事、信じていたんだ。なのにまさかこんな形で仲を違えるなんて夢にも思わなかったよ。……じゃあな、ギトス」


 だから俺は立ち上がり、踵を返した。

 あんな目に遭わされるのはもう御免だし、起きたら怒り散らかしそうでもあるし。

 なら冷静になる時間を与えてあげたいとも思う。


 それに同じ街にいるのだから、きっとまた会えるだろう。

 その時は話し合って仲直りをしたいものだ。


 ただしそれが叶うなら、だけど。


 ギトスは最高職。

 一方の俺は底辺職。

 その隔たりの大きさは、世間の常識的にも並外れて大きいのだから。




 ……だがそれから二年経っても、俺とギトスが和解する事はなかったんだ。




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