第19話 一寸落ち着こうか

「一寸落ち着こうか。それに・・・・レナーテというのはこの人だろうか?」

 俺が最初に回復させようと試みていた人だ。ほぼ全身鎧で身を固めているから肌の露出が殆どない。

 頭部も顔まで覆うタイプな上に、魔物との戦いでへこんでしまい、顔なんか陥没している気がする。

 なのでほぼ回復魔法が届かない。

 たまに運よく肌が見える?血で汚れていてわかりにくいが、その部分だけは回復した。

 女なんだよな・・・・分かりにくいが・・・・装備を外せられればまだ間に合う。

 それに今死にかけているのは彼女1人だ。

「可哀想なレナーテ。レナーテは魔物の攻撃を一手に引き受けていたのよ。それが今回の相手とは相性が悪かったのか、盾を掴まれ、その後振り回され身動きができなくなっている所に別の魔物からも攻撃を受け、御覧の通り腕が。その後もう片方の腕を掴まれ無理やりちぎられてしまったのよね。」

 今はそんな話を聞く時じゃないんだ。

「すまんが今その話はどうでもいい。レナーテの装備を何とかできないか?肌に食い込んでいるようで取れないんだ。取れればまだ間に合う。」

 するともう1人の戦士らしき女性が、

「そういう事であればこの際致し方がない。どうせこのままではもうすぐ死ぬんだ。ナイフだと肌にも刺さってしまうだろうが、つなぎ目をこじ開けてみる。」

 その後は早かった。

 5人がかりでレナーテの装備を無理やり剥がしにかかってくれた。

 運よく顔を覆っているヘルメットの一部が取れ、顔が・・・・もう原形を留めていないが、何とか顔を直接触れられそうな状況になった。

「まず顔だ・・・・もうこの際だ、触ってもいいよな?」

 結婚相手以外には触らせない!とかそう言った種族がいると聞いている。


 その場合触ってしまうと後々厄介な事になる。

「問題ないわ。」

 俺はその言葉を聞いてすぐに顔・・・・陥没していてもう酷い有様だが、間に合うのであれば止血だけでも・・・・

 早速回復魔法を使ってみた。

 血まみれながらみるみるうちに顔らしくなっていく。

 どうやら何とかなったようだ。

 何がやばいって、頭の損傷が一番やばい。

 もし彼女が顔面以外にもダメージがあれば治しきれるかどうか。


「レナーテの装備、何とか剥がしたよ!」


 幸い?な事に魔物との戦闘でもはや彼女の防具は役に立たなくなっており、俺が顔の治療を行っている間に、レナーテの防具は全て外されていた。

 腕をくっつけてやりたいが、それ以上に身体の損傷が怪しい。

 例えば交通事故。

 実際即死でない死亡事故って死ぬまで結構時間があったりする。

 レナーテの場合、腕を掴まれそのままぶん回されたらしいから、体中を打ち付けられたであろう。

 実際一番ひどいのは脚だ。

 鎧を外してもらったからわかるが、所謂複雑骨折という状態だ。

 こう言うのって治療する前に真っ直ぐにしてやらんといけないだろうが、きっと激痛がレナーテを襲うんだろうな。

 だがそれをしておかないと、どうなるかわからん。

 怪我は治ったが、脚の向きや長さがバラバラでは後々まともに歩けないだろう。

 まあそれも死んでしまえば関係ない。

 おっと集中しなくては!

 だが妙なんだ。

 体の中からこう、あったまってくる感じがする。

 なので正直に言えば治療に集中できない。


 だが・・・・俺は次に身体を治す事にした。

 さっきまでの感じだと、内臓まで治療できるのではないかと思ってる。

 そうであればいいのだが。

「じゃあその、触ってもいいのだろうか。」

「触らないで治療してくれるのが一番有り難いけれど、無理なんだろう?」

 たぶん無理。

 それとも金属の鎧が駄目だったのか?


 レナーテは血まみれで、所々皮膚が抉れ酷い場所は骨が見えている。

 うわ!と思ったが人間慣れって怖いと思った。

 さっきまで血を見れば貧血を起こし、視界が真っ暗になり倒れたのに、今は何ともない・・・・訳ではないが耐えられた。

「じゃ、じゃあその、多分胸も触るがあくまで治療の一環だ。」

 一応断りを入れてレナーテの身体に触れる。

 そんな発言をする俺って小心者な上に小者感が出ているなあ。


 そして遂に?変化が起こった。

 回復魔法を唱えると、レナーテの身体がみるみる回復していくのが分かったが、今度は俺自身がやばい事になってきた!

 何せ体の中だと思うが、さっきまでと違い熱く感じるようになってきたからだ。

 何だこれは!

 まさかレベルアップとかそういう奴か?




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