第7話
伊笹は、季月の背中を見ながら思った。
あの方は何かに追い込まれたように見える。ひたすらに、国のために尽くすのは良いのだけど。ただ、心身共に疲れてボロボロになってしまわないか、心配だ。なら、わたくしがお支えしなければ。
伊笹は秘かに決意をしながら、勉学に励む季月を見守った。
季月が卯木の屋敷に居候するようになってから、二月が過ぎた。季節は秋から、冬に変わっている。まだまだ、学ばなければならない事は多い。一人で勉学する事が殆どだが、時たまに卯木や息子の
「季月殿、今回は他国について話して進ぜよう」
「よろしくお願いします」
「まず、この
ふむと頷きながら、季月は帳面に筆で卯木の話す内容を書き込む。卯木はお茶で喉を潤してから、続きを話す。
「……初代は名を確か、朝霧様とおっしゃったはずだ。この方が妹で巫女姫でもあった
「成程、宮月様の名は初めて聞きました」
「それはそうであろうな、あまり宮月様は表には出てこぬ。が、儂は昔に初代の朝霧様が遺した手記を読んだ事があってな。そのおかげで知る事ができた」
また、頷きながら季月は帳面に書き込んだ。なかなかに興味深い内容ではある。二人の講義はしばらく続くのだった。
昼頃になり、伊笹が昼餉のお膳を持ってやってきた。卯木は立ち上がり、静かに部屋を出て行く。季月は手をついて一礼しようとしたが、止められた。
「……仮にも、あなたは先王の御子。安々と儂のような臣下に頭を下げてはならん」
「ですが」
「構わんよ、口で言ってもらえたら。それで充分だわい」
卯木はそう言って、からからと笑う。そのまま、彼は去っていく。季月は仕方ないかと思いながら、伊笹に気がついた。
「あ、伊笹。いたんだな、すまない、気が付かなかった」
「いえ、わたくしの事はお気になさらず。けど、季月様。あまり、根を詰め過ぎませんように」
「心配を掛けて悪いな、俺なりに気をつけてはいるんだよ」
季月が苦笑いしながら、言うも伊笹は引き下がらない。お膳を彼の前に置く。そのまま、後ろに回った。
「お食事が終わったら、あん摩でもしましょうか?」
「……いいのか?」
「構いません、そのために申し上げたのですから」
伊笹はにっこりと笑った。季月は断っても、彼女なら無理にでもやるだろう。さすがに伊笹の性格も分かってきていた。最後には頷いたのだった。
昼餉を食べ終えると、伊笹は若い侍女にお膳を下げるように言った。侍女がそれを持って部屋を出て行く。足音が遠のいてから、伊笹は季月にうつ伏せで横になるように言った。
「分かった、最近は肩が凝っていたように思うしな」
「ええ、とりあえずは。首筋からしていきますね」
「頼む」
季月が言ったら、伊笹はおもむろに彼の頭の付け根辺りからあん摩を始める。最初は軽く揉んでみて、様子を見た。
「力加減はどうですか?」
「ううむ、もうちょい強めでもいいぞ」
「分かりました」
伊笹は頷いて、少し先程よりも強めの力で揉み解した。徐々に背中へと移っていく。
「……伊笹、結構慣れているな」
「よく、旦那様や奥様のあん摩をしていますから」
「成程」
話しながらも、伊笹は慣れた手付きで背中の凝りも解した。腰や腕、肩に足と全身を一通りしていく。季月はしばらく、眠気と戦うのだった。
「さ、終わりましたよ」
「ありがとう、だいぶ体中が解れたように思うよ。次も頼んでいいか?」
「構いませんよ、また肩が凝ったりしたら。おっしゃってください」
季月は頷く。伊笹はやりきったと言わんばかりに、笑った。それを見ながら、また胸が高鳴る。季月は複雑になりながらも勉学を再開した。
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