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愛子

死を司る愛の神アモル

人間世界は、今まさに混沌の時代にある。

人は発達し、増えすぎると必ず争いが起きるようにプログラムでもされているのだろうか?


「今日もやることねーな。」


死を司る神として増え過ぎたり悪行が過ぎる人間の魂を刈り取る役割のあるアモルだが、最近はむしろ人が勝手に減っていく傾向にある為、お役御免のプータロー状態だった。


アモルがいるのは天上界。

いわゆる神々の住む世界だ。

ここには人間界を覗き込める大きな水鏡が存在し、なにかあればここから飛び込め、人間界へも行けるようになっていた。

アモルはプータローながらも毎日そこから人間界を覗き込んでいた。


「一番の大国は…ここだな。……わあ…まさに今、兵達が戻ってきた所だよ。こんだけ大国だったら自国で自給自足できるっしょ。皆にだって家族があるに…。話し合いとかでなんとかならんのかね…ダメならジャンケンとか…。」


その国は世界で城も一番大きくきらびやかで、ある程度の権力はすでに持っているように思えた。

アモルはもう少し、その場に波長を合わせた。

城の謁見の間であるらしいその場所では、ひときわ大きく宝石であしらわれた椅子に王が深く腰をかけて座っており、その椅子から左斜め後ろの位置に同じ作りではあるが一回り小さな椅子があり、そこに王妃が鎮座する。

王の身分を強調する為か段差があり、王達にひざまずく、これまた偉い立場にあるであろう兵の一人がいた。


「今回も…生き延びたか…。」


王は唸るような低い声で口を開いた。


「はっ!テネレッツァ様は身体能力も高く、並の兵では相手になりません故。」


兵が答える。

王妃はただその後景を、氷のように冷ややかな目で見つめている。


「ただ、此度の戦では兵が一般市民に扮装しているという噂もありました故、テネレッツァ様も何名か手をかけた模様、ひどく心を痛めておられました。精神的に参られていると存じます。」


「そうか…。」


王は一言そう答えると、兵に部屋から出るように手で合図を送った。

兵は、ハッ!と声をあげ、深く頭を下げ早足で部屋を出ていく。

部屋には王と王妃の二人となった。


「しぶとい女ね。さっさと戦に紛れて死んでしまえばいいのに。」


冷たい目をしたまま口を開いた王妃。


「……お前が腹を痛めて産んだ子であろう…もう少し言い方があるではないか…。」


王は一気に老けたように肩の力を落としため息を吐いた。


「子はペルフェッタさえいてくれれば良いです。あんな子だとわかっていれば産みませんでした。一家の恥です。」


はぁっと、王様はもう一度深くため息を吐いた。

アモルには二人の会話の意味がまったくわからなかった。


ガチャッ

扉が開く音がした。


「お父様、お母様、ダンスのお稽古よりペルフェッタただいま戻りました。」


女が部屋に入ってきた瞬間、辺りがキラキラとしたように見えた。

フワフワの長い髪、エメラルドのように美しい瞳の目、柔らかい声、ふんわりした形のドレスがまた彼女を優しそうにみせている。

王妃が慌てて立ち上がり、ペルフェッタにすり寄った。


「お〜おかえりなさい、私のペルフェッタ。今日もよく頑張りましたね。お稽古後も決して気品を失わない貴方は今日も世界一美しいわ。さすが私の娘だわ。」


さっきまでの氷は溶けたように、優しく母の顔をした王妃の姿がそこにはあった。

王の顔を映すと、王もまんざらではない顔つきで先程までの威厳はどこえやら、1父親の顔つきになっていた。

この三人の幸せそうな顔が、アモルがよく知っている家族の姿であった。

だからこそ気になった。

もう一人の娘は何故殺されようとしているのか?


水鏡にまた違う世界を映し出す。

その娘を探そうと思った。

水鏡は静かに揺れて、辺り一面に白色の小さな花たちが敷き詰められた花畑の中に座り込んだ一人の女戦士を映し出した。

先程の城からは少し離れた場所のようで、すぐそばには森があり、小さな川も近くを流れている。

都会の喧騒から離れた静かな場所のようだった。

女戦士に視点を集中する。

まず目に入った彼女の手に握られた剣には、たくさんの血がべったりとこびりついていた。

そこにポトッと落ちる一粒の…涙。

女戦士は虚ろな目で流れるままに涙を流していた。

短く一本一本が輝くような美しい金色の髪にも、深い緑色の大きな目をしたその顔も返り血で真っ赤になっていた。

しかし、急所しか守られていないような簡易な鎧を纏う彼女自身には外傷は見られなかった。

きっとこの女戦士が、先程話していたもう一人の娘だろう。

戦士として生きているからか短髪である以外に、王家として何かひっかかるようなものがあるようにはとくに感じない。

戦後に剣を見ながら泣いている姿に後悔も感じられ、人としての心を失われているようにも思えない。

アモルはしばらく彼女を眺めていた。

ただ気になって、ただぼーっと眺めていた。

瞬間

彼女が剣の切っ先を自分の首にあてた。

!?

一瞬のことだった。

アモルは体が動いていた。

死んでほしくない。

ただその想いだけで、水鏡の中に自らの体を飛び込ませていた。







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