死神社 (寿)
輝空歩
死神社 (寿)
「10年ボタン?」女は聞いた
「はい。」女の前に浮く黒い死神が答える。
「あなたがこのボタンを押せば、今この場に1億円が現れます。もちろん、税金はかかりませんし所有権は貴方にあります。」
死神とは思えない謙虚な口調で彼はつづけた。
「しかし、このボタンを一回押すごとに、あなたの死ぬ日が10年早まります。死因は関係ありません。」
1億。借金を抱えた彼女にとって十分すぎる金額だ。借金をすべて払い終え自由の身になってもなお、さらに20年は遊んで暮らせるだろう。
だが、気がかりなところがある
「貴方には私の余命が見えるの?」
死神が答える。
「えぇ。はっきりと。死因も 時刻も その情景も。 それが死神という生物ですから」
「生物..なのか...」ボソッと呟いた。
...私がこのボタンを押さないとしたらどうする?
女は心配性な性格であった。
それも、この女の過去を見たら当然だろう。
両親がいない彼女は、騙されては騙され、人生の半分を捧げなくては返せない量の負債を得てしまったのだ。
「なにもしません。私はこの場から去りますし、あなたは1億円を得ませんし寿命も削られません。」
押せばすべての借金を返せる。この資本主義の国において今後私をここまで助けてくれる物はいないだろう。
ただ私の寿命が減る。平均寿命が76歳だから、65歳ぐらいだろうか? そうなると私の余命はのこり39年ということになる。四捨五入すれば40年。決して少なくない数字だ。
正直、このまま金の怨霊に付きまとわれる人生よりは、よっぽど良く感じられる。
私の考えが
「押しますか?」
「押します。」
私は答えた。
「ではどうぞ、押してみてください。1回押すごとに寿命が10年減り、1億円が現金で出現します。」
私はボタンをつっと押した。
—
女はボタンを押した瞬間、ぷつりと倒れ込んだ。死んだようだ。
やはり。彼女の寿命が10年以下なのは既に知っていたのだから。私..死神は笑った
それにしてもいい商売だ。たった1億円で人の魂を買えるだなんて。
通常、「10億円払うので貴方を殺させてください」だなんてお願いしても、殆どの場合誰一人交渉にのらない。
例え対象が自殺志願者であったとしてもだ。
しかし、前もって顧客の寿命を調べ、寿命が10年以下の若者を狙えば確実に交渉は成立する。法にも触れず、無料でノルマを達成できる。
「さぁてと。」
私は出現した1億円に触れて地獄金庫に転送させた。
これでよし。
さてさてお楽しみの魂ちゃんは。。。
私は死神の笑みを浮かべて
人間は、死神が近づくと逃げるように魂が放出されるようになっているのだ。
。。。。
魂は、一向に現れなかった。
私は屍に乱暴に触れる。
一向に魂は現れない。
なぜ? なぜだ。私の15年の死神歴の中でこの様な事は一度もなかった。
可笑しい。人間の魂は...
…ニンゲン?
私は屍の服を脱がせ、手を丁度腹の上空に置き、手刀の形を作り、腹の上に垂直に突き刺した。
生物の種類を外見で判断できぬ場合は、この方法でその生物の種子を取り出す事ができる。人間ならば、ここで人間の卵子が抽出されるはずだ。
ゆっくり、私は垂直に手を抜き出していく、空いたところを、皮膚色の物質がうめていく。
私は手のひらの上に転がる種子を見た。
それは人間のものとは違った、青白く、そのまた黒く水面のように
彼..
死神の腐心は、酷く苛立ちに満ちた。
死神社 (寿) 輝空歩 @TS_Worite
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