消えてしまいたいと思った私へ。
すうら
一度立ち止まって。
忘れたくないから、また死にたいと思った時に見て欲しいから。これは私が自分のために記す物とします。
頭にこびりついて離れない記憶が、私にはあります。
ドラマで見たような電子音、嫌という程鼻につく薬品の匂い、柔軟剤が使われていないタオル、点滴が静かに滴る音。
祖母が、病院で息を引き取りました。私は信じられなかった。
私の中では強い存在であった祖母。癌にも負けずにきっとまた、笑いながら退院してくると思っていました。
点滴を打って、元気な声が聞こえてきたから安心したと祖父は言いました。転校の4日前のことでした。
選択制の食事のメニュー表に書かれた丸、達筆で色々と書き込まれたメモ。どれも祖母を感じさせるものでした。
最後に会ったのは、転校祝いにと食事を一緒にとったときでした。祖母が食べたのは海老と蟹。2巻でした。それでも美味しそうに、ゆっくりと食べていました。今思うと、きっと孫である私に心配をかけないため、なんとか頑張っていたのでしょう。食べ切るように。最後に抱きしめられたときを今でも覚えています。祖母は中々、私たちを抱きしめることなんてしませんから。何かに私は気づいたんです。その2日後、祖母は入院しました。
祖母は優しい人でした。祖母が好きな花のように、強く凛々しく、時には怒られることもありましたが、それでも私たちを思ってのことだったと思います。
祖母の身体を蝕んでゆく病は、私たちの願いとは反対方向を向いて、止まることを知りませんでした。何故、どうして、祖母だったのでしょう。まだ75歳という若い歳で何故亡くならなければならなかったのでしょう。
走ってきた後に待つ、祖母の食事。海老といかの天ぷら。朝ごはんのふわふわの卵焼き。味噌汁。最後に作ってくれた朝食は、フレンチトースト。勘で作ったと言うのに、何故か今まで食べたフレンチトーストの中で1番美味しかったのをよく覚えています。
海で沢山遊びました。自転車の練習もしました。畑に一緒に行きました。料理も一緒にしました。お買い物も沢山しました。勉強も教えてもらいました。なんだって、祖母と一緒なら楽しかった。
立ち止まってください。私。
祖母が大切に貴方を護ってくれているのに、貴方は祖母の元へと旅立とうとしています。
祖母は望んでいないのに。
再び祖母に会えたら、今まであったこと、全てをお話しましょう。
だからどうか。命を絶つのはおやめください。
祖母に元気でいましたと、
過ごしてきましたと、
極楽浄土で伝えましょうよ。
だから、頑張れ。
祖母が亡くなったときの私より。
消えてしまいたいと思った私へ。 すうら @suuradesu4649
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ちょい怪/フシギの実話最新/コロガルネコ
★9 エッセイ・ノンフィクション 連載中 10話
医者嫁日記/吉本いちご
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 150話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます