その後の私達

@pu8

詩と栞①


 七星詩ななほしうた、十七歳。色々とありまして憧れていた大好きなお姉さんとお友達になることが出来ました。

 そして今日はそんなお姉さんと初デート!!

 …………生きてて良かった。


「楽しそうな顔してるのね」


「それはもう。なんせお姉さんとのデー……」


「デー?」


「お、お、お姉しゃん!!? いつからそこに……」


「今来たばかりだけど……大丈夫? 顔赤いし、具合悪いならまた今度にする?」


「い、いえ……こ、これはその……お姉さんとのデートが嬉しくて……す、好きです!!」


 照れを隠す為本音を叫んでしまう暴挙。

 初っ端から終わったなと思い項垂れていると、頭上から天使の声が聞こえてくる。


「あ、ありがと。でも恥ずかしいから人がいない所で言ってくれる?」


 少しだけ照れたお姉さん、まじ天使です。

 可愛すぎる……


「ご、ごめんなさい……じゃ、じゃあ行きましょう!!」


 私からデートに誘ったものの……言い訳がましくも私はまだ高校生。大人のお姉さんを満足させられる自信なんて……無い。


「あ、あの……そのですね、今日の予定は……」


 頑張れ私。この日の為にサッちゃん(親友)にスーツ着させてお姉さん風メイクして練習台にしてきたじゃないか。


 楽しく過ごして、私といて良かったなって思ってもらって……それで、あわよくばキスとか……


「…………こっちいらっしゃい」


「へっ? あっ……」


 手……繋いでくれた……

 どうしよう…………温かい……


 コインパーキングまで案内されると、駐車場目一杯のサイズの大きな箱型の外車が目に入る。

 ……よく芸能人とかが乗ってるやつだ。


「ほら、乗って。もしかして車苦手……?」


「やっ、そんな……えっと……お邪魔します?」


「ふふっ、邪魔しないでよね?」


 まだ何も知らない……お姉さんの一つ一つの表情が可愛くて格好良くて…………しゅき。


「とりあえず……海でも見る?」


「見ます見ます!! ふへへ……幸せだ……」


 暫く車で走ると、高速道路の手前辺りで停車させるお姉さん。

 少し困ったような可愛い顔で頬を指でかいている。


「……今の高校生って何聴いてるの? 一応理解してるつもりなんだけど、生の声とトレンドって案外ズレてることも多いし」


 芸能関係者であるお姉さん。仕事で知りたいことなのかな……?


「こ、これ私のプレイリストです!! 参考になるかは分からないんですけど……」


 お姉さんにスマホを見せると、また新しい顔で手に口を添え笑ってくれた。

 ドキドキが……ずっと治まらない。


「ふふっ、あなたとのドライブで流す曲なんだから参考にしかならないでしょ?」


 毎日聴いている筈の慣れ親しんだ曲達は、初めて出会ったときのようにキラキラと輝き只ひたすらに私を高揚させていく。

 

 パーキングエリアの自動販売機、ノリの良い軽快な曲と共に作られるコーヒー。

 ふと横目でお姉さんを見ると、可愛らしくその曲を口ずさんでいた。


「この曲知ってるんですか?」


「有名な曲だけど……今時の子は知らないか」


「お姉さんだって十分今時ですよ?」


「…………ふふっ、じゃああなたがそう思ってくれている間だけはそう思うようにするわね」


 どこか楽しそうな、嬉しそうな顔で笑うお姉さん。どうしよう…………好きが止まんない。

 数多くの聞いたことのない名前のアーティスト達がカバーしている曲らしく、コーヒーが出来る間お姉さんはそれらを教えてくれた。

 間の抜けた顔で頷くことしか出来なくて、そんな私を見てお姉さんは少しだけ困った顔をしていた。


「どうしました?」


「……あなたに変なことを教えているんじゃないかと思って。影響受けやすい時期だし…………詩ちゃん、素直だから」


 頭の中で、私の名前を呼ぶお姉さんの声が何度も何度も響いては弾けている。

 嬉し泣きしている私を心配するお姉さんも好き。色々なお姉さんが見れて知れて……どんどん好きになっていく。


 横浜の海を見ながら学校のこと、家族のこと、私のことを聞いてくれるお姉さん。

 私もお姉さんのことをもっともっと知りたいのに……何から聞いていいのか……大人なお姉さんと肩を並べたくて背伸びしてしまい、上手く話せなかった。


「日が暮れそうだし……詩ちゃん、そろそろ帰る?」


 帰りたくない。でも……私はまだ高校生。

 いくら背伸びしたって…………


「そ、そうですね……お姉さんも明日は朝早くからお仕事だって言ってましたし……」


「……名前、呼んでくれないのね」


 背伸びとか肩の高さとか……私、馬鹿なこと考えてた。

 なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。

 お姉さんを……栞さんを傷付けてしまったかもしれない。

 詩、アンタは素直なところ褒めてもらったでしょ?高校生の……今時の私らしさを伝えなきゃ。


「しっ、し、しお、栞しゃん……しゃん……」


「……ふふっ、あなたのそういう所好きよ?」


 そう言って笑いながら私の前髪を掻き分けてくれる栞さん。まつ毛が目に入り思わず目を瞑ると……おでこに温かくて柔らかな感触がした。

 まつ毛なんて気にならない程……見開いてしまう。


「お腹減ったし……何か食べながら帰ろっか?」


 私の手を引く栞さん。名前を呼び合って、手を繋いで…………背伸びなんてする必要無かった。

 だって……こうして私はあなたの隣を歩いてるんだから。


「わ、私この辺のこと調べてきたので……その、栞さんと行きたいお店がありまして……」


「……じゃあ、案内してくれる?」 


 繋がる手を指先で絡ませた栞さん。

 これから先、沢山の初めてが待ってるけど……

 今日は記念すべき栞さんとの初デート。

 指を強く絡ませて……駆け足気味で、幸せを抱きしめた。

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