第23話 寒さが身に染みて

 10月の半ばを迎えた早朝、リトルカブに乗った。


 毎月通っている耳鼻科の受付のため(朝9時からの診察なのに、朝の7時半には病院の受付が開いていて、順番がそこそこ埋まっている!)だったが、長袖のシャツに春秋用のコートを羽織っていても、そこそこ風が冷たかった。足下はジーンズのみだったので、風通しは結構スカスカだった。


 車に乗っていても、冬の早朝などは暖房が効くまで寒いのに、バイクだと寒さがモロである。夏には風通しもよくちょうど良い具合だった父の遺品のグローブも、この季節になると寒さを感じる。


 こんな調子だと、冬の時期にリトルカブに乗ることは少なくなるだろうなと思いつつ、一方で雪の日でもリトルカブで最寄り駅まで通勤していた父の凄さを感じずにはいられない。もちろんコートにマフラー、ハンドウォーマーからバイク用の膝掛けまでフル装備だったが。


 そして、他のバイクが欲しいと思っていた自分が恥ずかしくもなった。リトルカブでこんな調子なのだから、他のバイクを買っても冬の時期に乗ることはおそらく無いんじゃないだろうか。


 「バイクは不便さを楽しむ乗り物だ」などとも言われるが、若い頃ならまだしも、この歳だとついつい安楽な方へと逃げてしまう。冬の時期は庭のオブジェと化すものに大金を払えるほど、今の我が家の家計に余裕はない。


 身体と懐の寒さが身に染みつつ、リトルカブに乗った朝のことだった。

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