リトルカブと僕

和辻義一

第1話 リトルカブがやってきた

 先日、父が亡くなった。その詳細についてはこの物語に関係がないので省略するが、あまりにも突然の死だった。


 そして、何も分からない状態から喪主を務めて、何とか父の葬儀を無事終えたあとのこと。


「お父さんが乗っていた軽自動車とバイク、誰か乗らない?」


 母から出たこの一言が、この物語の発端だったと言える。


 実家には普通車が一台、軽自動車が一台、原付が一台あったのだが、軽自動車は主に父の趣味(鮎釣り)用として、原付は亡くなる前日まで通勤用として父が使っていた。


 父が残した財産は全て母が相続するということで、母や妹達とは話が決まっていたのだが、母は「これから自分が生活していく上で、普通車が一台あればそれで良い」とのことで、軽自動車と原付の乗り手がいない状態だった。年老いた母にしてみれば、軽自動車は微妙に扱いづらく、原付に至っては「乗ることなど到底出来ないもの」だった。


 妹二人はそれぞれ結婚していて、実家からは遠く離れた場所で家庭を営んでいた。その妹達に聞いてみたところ「貰ったところで置き場所も使い道もない」「そもそも持って帰るのに手間とお金がかかる」とのことだった。


 一時はそれぞれ廃車にすることも考えたが、結果的には実家の近くに住んでいた僕の家で引き取り、時折母に父を偲ぶ材料にしてもらうこととなった。


 軽自動車については、僕の家ではちょうど長男が車の運転免許を取ろうとしていたところだったため「渡りに船」だった。長男は「別にどんな車でも良い」と言っていたのだが、そろそろ登録後10年を迎えるものの走行距離はまだ5万キロメートルも走っていなかった父の車は、長男の「初めての車」としては正直有り難かった。


 一方、原付については、現状において乗り手は実質僕しかいなかった。妻は車の運転免許を持っているため、乗れなくはなかったのだが「バイクには興味が無い」らしく、長男も運転免許を取ったところで、原付に乗るつもりは今のところ無いらしい。


 僕自身は車もバイクも大好きだったため、父の残した原付は主に「僕が母の様子を見に行く時の連絡用」として使われることになった。これが僕と父の原付――リトルカブとの物語の始まりだった。

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