迷子の子を助けたら後輩になって懐かれた

pan

第1話 再会しちゃった

「センパイいますかー?」


 ドアを開けながら、小柄な少女は言う。その音に、教室内にいるほとんどの人が振り向いた。


 もちろん、俺もその一人だ。そりゃあ、急にドアを開けられれば気になる。


 その少女はおそらく一年生だろう。なぜなら、ここは二年生の教室だからだ。


 しかし、なんとも抽象的な人の探し方だな。ここにいる全員がセンパイにあたるだろうに。


「誰探してるんだろ?」


「さあな。まあ、俺らには関係ないだろ」


 俺はドアから目線を逸らし、友人との会話を再開させた。


 窓側の席に座っているし、人を探しているというならわざわざ俺が手伝わなくてもいいだろう。


 今は昼休みで弁当も食べ終わって少し眠くなってきている。このまま、会話もなし崩し的に終わらせて一眠りとしようか。


「どしたん。寝るの?」


「眠くなってきたからな。ふわあ……」


 適当に話に相槌を打っていたが、一方的に言葉が飛んでくるだけでは流石に飽きる。欠伸が出てしまうほどに。


 とにかく眠い。俺は亀が甲羅に籠るように、腕の中に顔をうずめた。


「あ! いた!」


 少女は、まるで母親を見つけた子供のような声ではしゃぐ。


 ようやく探していた人物を見つけたようだ。安心というか、これで教室内も静かになる。もうそろそろ、本当に寝たい……。


 もう少しの辛抱だ。少女のことを話している声が聞こえなくなれば。


 ……って、もう聞こえてなくね?


 それに、足音が近づいているような……。


 視界が真っ暗なため聴覚が過敏になっている。だからこそ、コツコツと鳴る上靴の音が近づいているとわかった。


 だからといって、俺ではないだろう。だって、見覚えはなかったし、それにまだ一年生が入学して一週間も経っていないんだぞ。


 部活見学期間も始まっているわけでもないし、全校集会とかがあったわけでもない。


 だとすると可能性があるのは中学の後輩か。でも、俺は仲の良かった女子の後輩なんていない。


 だったら、もう俺の可能性は無いに等しい。もういいや、寝よう。


「センパーイ」


 足音が鳴り止み、近くで誰かを呼ぶ声が聞こえてくる。周囲には俺と友人の佐久間ぐらいしかいない、ということは探していたのは佐久間ということになるのか。さっさと後輩の頼みを聞いてやってくれ佐久間。


 心の中で唱えてもしょうがないが、もう頭を上げる気がなかったから仕方ない。


 つーか、いつまで何も言わないつもりだよ。


 トントンと肩を叩かれる。手の大きさ的に佐久間だろうか、うっとおしいなあ。自慢したいんか。


 そして、再度。トントンと肩を叩かれる。

 今度は小さめの手で優しく……。


「へ?」


 俺は情けない声音と同時に頭を上げた。目の前に広がる光に思わず目をくらませる。


「あ、センパイ! おはようございます!」


「え、あ、おはよう……」


「というか、久しぶりですね! やっと会えました」


 少女は嬉しそうに目を輝かせながら見つめてくる。


 久しぶり……?


 その言葉が引っ掛かっていた俺は細めていた目を凝らして少女を見てみることにした。


 しかし、見覚えのない少女だ。変態に間違われては元も子もないので、さらっとしか見ていないのがいけないのか。


 まじまじと見たところで思い当たるシルエットが……。


 あれ、シルエット?


「あ、もしかしてあの時の……」


「覚えてるんですか!?」


 頭をぎる記憶。

 それは、昨年の文化祭まで遡る。

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