第67話 魔王様、覚悟してください
「大丈夫か、姫様」
制圧自体は一瞬で終わった。
たぶん十秒も掛からなかったんじゃないかな。
もちろん、誰ひとりとして殺してはいない。五体満足のまま、気絶させて床に転がしてある。まぁ少々キツめに縄で縛らせてもらったが、それぐらいは許してもらおう。
さすがにこの家には全員を収容できないからな……転移魔法で運んで街の憲兵に突き出すか。
「…………」
「……リディカ姫は何も悪くない。だから、そんな顔をしないでくれ」
彼女は無言でホウジさんたちを見下ろす。その瞳には悲しみと怒りが込められていた。そんな彼女の背中をトントンと叩いてなだめる。
「どうして……こんな……」
リディカ姫はその場に座り込むと、ポロポロと涙を流しながら呟いた。
そんな彼女の頭を優しく撫でる。俺まで泣きたい気分だぜ……まったくよ。
俺は泣いているリディカ姫を連れて領主館を出た。そして獣人娘たちが避難している村の外へと向かうことにする。
「お兄ちゃん! リディカお姉ちゃん!」
「無事だったのニャ!」
「良かったのです!」
入り口の門を通ると、どこからともなく現れたピィたちがパタパタとこちらに駆け寄って来た。そしてギュッと俺に抱き着く。
「心配してくれたのか?」
ピィはグシグシと俺の胸に顔を擦り付けると、小さく呟いた。
「ちょっとだけ怖かったの……。でもお兄ちゃんが居たから平気なのー!」
あぅ……少し涙ぐむ声でそんなこと言われたらキュンキュンしちゃうじゃないか!
俺はたまらず彼女の頭をワシワシと撫でまくる。すると彼女は嬉しそうに目を細めた。そんな俺たちを見て、姫様がポツリと呟く。
「やっぱり……貴方には敵わないです……」
「ん?」
「いえ、何でもありません……」
彼女は少しだけ寂しそうに笑うと、「みなさんを憲兵に突き出すんですね?」と確認してきた。俺はそれに頷く。
「あぁ……さすがにホウジさんたちを野放しには出来ないからな」
俺がそう言うと、リディカ姫は少しだけ悲しそうな顔で頷いた。
「……分かりました」
そんなやり取りをしてから、いったんホウジさんたちを憲兵に引き渡すために玄関口へ向かうことにする。
念の為ピィたちは再び身を隠すように伝えてから、俺が領主館へ歩きはじめると――……
「貴方の中身は、魔王様……なんですね?」
「――えっ?」
そんな言葉を背中に掛けられ、振り返る。
後ろにいたリディカ姫が、俺の顔をジッと見つめていた。
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