第63話 魔王様、……大丈夫?


「いやぁ~! あの“温泉”っちゅうのは最高だったべや! 溜まり切った疲れから体の垢まで、ぜぇんぶ取れた気分だがや!」


 あれから総勢15名の来訪者を、プルア村自慢の温泉へとご案内したわけだが。


 最初は戸惑っていた彼らも、今ではすっかりその魅力に憑りつかれたらしく。リディカ姫が「プルアの温泉は腰痛にも良いんですよ」と伝えたら、さらにテンションが上がったくらいだ。



「それにこの奇妙な饅頭がまた美味い!」


 今は温泉宿に併設された食堂で、村自慢の料理に舌鼓を打ちながら、旅の道中の話やプルア村の印象について語り合っている。


 彼らみたいに40歳近くのオジサンになると、温泉に入って美味いメシを食うのが至福に感じるんだろうなぁ。



「いやぁ、どうなるかと思っとったが。おめお前たちの方はどうだ?」

「あぁ? 俺たちゃ、もうすっかり元気だぜ!」

「んだんだ! おかげさまでな!」


 その話し方はどこかなまっていて、独特のイントネーションをしていた。



「この村は良い村になっとった。だけんどもよ……」


 全員が思い思いに会話している中、ひとりの男がふと立ち上がった。確か彼は“ホウジさん”だったか? 集団を率いていたリーダー格の男性だ。


「ホウジさん? どうした?」

「ストラの旦那。やっぱり今のプルア村の連中は、オラたちが居ちゃ迷惑でしょう」


 急に席を立ち、そんなことを言いだす。

 いったい何を言い出すのかと困惑していると、続けて彼は口を開いた。


「だってオラたちゃ自分の命可愛さに、一度はこの村見捨てて逃げ出したんだ……そんな裏切り者は置いておきたくねぇがよ」


 そんな彼の言葉に対して真っ先に反応を示したのは……意外にもリディカ姫だった。椅子から立ち上がると、彼女は真剣な眼差しで話し始めた。



「そんなことないですよ、ホウジさん。それどころか、こうして帰りを待ち望んでいました」

「そいでもオラたちゃここに居ても、なぁんの役にも立てねぇど?」

「私がみなさんに相応ふさわしいお仕事を探します。ですので、安心してここに住んでください」

「……姫さんが面倒見てくれるだか!?」


 姫様の言葉で、急に村人たちの目の色が変わる。


 それまでどこか余所者のように俺たちと接していた彼らだったが……今では親しみを込めた視線を送ってきている。故郷に戻ってきたという、安堵の表情を浮かべている者も居た。



「なぁ、おめたちよ! 領主の嫁さんがこう言ってくれてんだ。ここにオラたちの骨を埋めようじゃねぇか!」

「おぉ!」

「賛成だぎゃ!!」


 やいのやいのと、ミルクを片手に乾杯を始める村人たち。


 そうして賑やかなうちにうたげはお開きとなり、新たにプルア村の住民が増えることとなった。



 ◇


「なあ、リディカ姫」

「はい?」


 領主の館に戻ってからひと息をついて。俺は先ほどの村人たちの様子について、彼女に尋ねてみることにした。


「あの人たちを受け入れて、本当に大丈夫かな?」

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