第62話 魔王様、来訪者です


「元プルア村の住人……?」


 慌てて俺の元にやってきたフシに事情を聞いてみれば、魔物が襲ってくる前に住んでいた人間が帰ってきたんだという。


「それは本当なのか?」

「にゃにゃにゃ……それがフシたちにもイマイチ分からないのニャ」


 なんでも領主たちに雇われていたフシたちは、館の外にほとんど出させて貰えなかったらしい。だから彼女らが顔を合わせていたのは領主一族と、たまにお手伝いに来ていた人ぐらいなんだとか。



「うーむ、困ったな……」


 せめて前の住人がどんな顔だったか分かれば良かったんだけど。これじゃあ確かめようがない。


「まぁでも、せっかく帰ってきたのなら歓迎すべきじゃないですか?」

「たしかに人手はいくらあっても足りないし、助かるといえば助かるんだが……」


 リディカ姫は歓迎ムードだが、俺は素直に喜べないでいた。

 なんだか、厄介ごとの匂いがする……。



「とりあえず話だけは聞いてみましょうか?」


 リディカ姫の言う通りだな。その人たちが何を思って戻ってきたのかは分からないけども。このまま帰すにしても、まずは話を聞いてみないと始まらないし。


 「会ってみるかぁ」と歯切れの悪い返事をしながら、俺たちはフシの案内で彼らの元へ向かうことにした。



「オォイ! ここがあのプルア村で間違いないのか!?」

「見ねぇ間にこんな立派な建物が出来てやがるぞ!」


 住む村の入り口から少し離れたところに、その集団は居た。

 総勢15人……全員がオッサンか。言っちゃ悪いが顔は汚れているし、衣服もボロボロだ。まだ距離はあるのに、すえた匂いがこちらまで漂ってきている。


 馬などは連れず、最低限の旅装で歩いてきたみたいだ。彼らはいったいどこからやってきたんだろう。



「あ、あの! 貴方たちは……」

「おぉ! 住人がいるでよ! しかもベッピンさんだ!」

「なんだぁ? 獣人の子供も居るぞ?」


 先んじてリディカ姫が声を掛けたのだが、誰何すいかをする間もなく駆け寄ってきた男たちに囲まれてしまった。


 とりあえず俺はリディカ姫の前を守るように立ちながら、男たちへ自己紹介をする。



「俺がこの村の管理をしているストラゼスだ」

「アンタが?」

「前の領主様はどうしたんだ?」

「顔は良いが、ちょっと頼りなさそうだなぁ……」


 えぇ……なんだか酷い言われようだ。


 だいたい領主の良し悪しに顔は関係なくないか?



「ストラ兄さんは今の体型になってから、貫禄がなくなったのです!」

「細マッチョなお兄さんなのー」

「うぅむ。痩せた弊害が出るとは……」


 自分でもだいぶ印象が変わったとは自覚していたが、まさかここまでとは……。


 だが、今は彼らの対応が先決だ。

 ひとまず男たちに村の紹介と、ここで生活をしてみたいかを尋ねた。


「生活してみてぇのは山々なんだがなぁ」

「俺たちも、ここに帰ってきたばかりだからよぅ……」


 彼らはプルア村の変わりように戸惑っている様子。

 てっきり噂でも聞いて来たのかと思ったが、どうして戻ってきたんだ?


 いやまぁ、それは後で話を聞くとして……とりあえずこの汚い人たちがそのまま村に入ってくるのは困るな。



「まずは温泉に入って身綺麗にしてもらおう。リディカ姫たちは食事の準備をしてもらえるか?」

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