第55話 魔王様、提携先GETです
「でも、いいんですか? 正直かなり負担になると思うのですが」
俺が相談を持ちかけたのは、あくまで食材を仕入れる方法。サムアッさんの店で取り扱っているような食材を使って、自分の村で食堂をやりたいという話だ。
だからそんな無理させてまで、使わせてもらおうとは思っていなかった。
「全然構いませんよ! むしろこちらからお願いしたいくらいです。それにストラゼスさんには、色々とお世話になっていますからね」
そう言ってサムアッさんは屈託なく笑う。本当に良い人だなぁ。
「お世話って、取引先の農家さんの件ですか? でもあれはウチも打算ありきだったので……」
あれはたまたま俺が、辺境の魔物退治をしていたときのこと。
サムアッさんのお店と提携している農家さんの畑が、魔物の豆イノシシに襲われていたのを助けたのだ。
あのときも彼女に感謝をされて、お礼に食べきれないくらいの野菜詰め合わせを貰ったっけ。おかげで数日は野菜尽くしで、俺のヘルシーなダイエットが加速してしまったわけだが。
とまぁお礼はともかく、辺境で恩を売って回っているのは、自分の目的のためだ。だからあんまり仰々しくされると恐縮してしまう。
「だったら、こっちも打算アリアリですよ~。ウチの野菜で美味しい料理が作れるって評判になったら、もっと売り上げが増えるでしょ?」
サムアさん、まだ見ぬ未来に期待してワクワクしている様子だ。
「まぁ、お互い様ってわけですね」
うん。打算ありきでも良いから、少しでも互いが繁盛するよう俺も頑張ろう。
「あっ、話は変わるんですけど。もしよかったら、またアレをお願いしたくって……」
サムアッさんはチラチラと俺を上目遣いで見つめてくる。
「アレというのは……あぁ、アレのことですか?」
「はい。一度あの快楽を味わってしまったら、もう忘れられなくなっちゃって」
もじもじと恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めて、お願いっと両手を合わせてきた。
随分と意味ありげな言い方だが、これは豆イノシシを使ったボタン鍋のことだ。
豆イノシシを討伐した報告のついでに俺が作ってご馳走したところ、彼女はこの野性味のある肉を大変気に入ってしまったようで。
「別に良いですけど、サムアッさんは肉は苦手って言ってませんでした?」
「あの臭さと歯ごたえがたまらないんです……お肉にあんな魅力があったなんて、初めて知りました」
まるで恋する乙女のように、ウットリし始めてしまった。そして彼女の肉食好きはそれだけでは済まなかった。
「あの日から私、すっかりワイルドなものが好みになってしまって。街で見掛けるワイルドな人に、つい目を奪われるようになったんです……」
突然、筋肉の素晴らしさをペラペラと喋り始めるサムアッさん。
最近では筋トレや、肉のつく食事も始めたらしい。いつかマッチョに囲まれるのが夢だと、口元から涎が溢れさせながら語っていた。
あー……これはなにか、俺の知らない世界の扉を開いてしまったようだ。
筋肉ムキムキな赤髪の四天王が脳裏をよぎる。サムアッさんと会わせたら、きっと面倒なことになりそうだな……よし、彼女は極力プルア村に呼ばないようにしよう。
「あはは、じゃあまたあの魔物が狩れたら、ご連絡しますね」
「待ってます! 絶対ですよ!」
そう言って俺とサムアさんは握手を交わす。
ティリングでの用事を済ませた俺は、そのまま次の目的地へと飛び立つことにした。
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