第39話 魔王様、煽られる
『あくまでも我の加護“ラビットラバーズ”は、心の支えや励みにするためのもの。決して、いち個人をチートで最強にするためのものではないンゴ』
温泉旅館の大広間にて、俺はミラ様からそう説明を受けた。
「そ、そんなぁ……」
ショックを隠しきれない俺の横で、リディカ姫が苦笑いを浮かべている。
「でも加護を頂けただけありがたいですよ」
彼女はそう言って
『そんなことを考える奴に、恐ろしい力なんか与えられるわけがないンゴ』
「ぐっ……俺の期待を返せよ、クソ白玉兎め」
まぁいいや。どうせコイツの加護がなくたって、今の俺はほぼ最強だし?
「それで、具体的にはどんな力をお与えになったんですか?」
リディカ姫が興味深そうに問いかけてくると、ミラ様は「待ってました」と言わんばかりにニヤリと笑った。
『ぎゅもももっ! 我が騎士には、配下から好かれやすくなる加護を与えたンゴ。白豚と蔑まれた悪徳勇者には、お似合いの加護ンゴ』
「うっぜぇなぁこの白玉兎! 今の俺は健全領主だっての」
『ただこれは、あくまで“好感度が変わりやすくなる”だけンゴ。配下に対して、絶対的な力を与えるものではないンゴ』
え……どういうこと?
『むしろ酷い扱いをすれば嫌われやすくなるから、気を付けるンゴよ?』
な、なんだよソレ!?
完全に嫌がらせじゃないか!
魔王のときはたとえ部下に嫌われても、腕力と権力でどうとでもできた。だが勇者の体を得た今は、そうはいかない。だからこそ俺は嫌われないよう、これまで以上に謙虚堅実に生きているんだ。
それなのに、好かれやすくなる加護とは真逆の効果とか、何のための加護だよ!
あまりの理不尽っぷりに俺が愕然としていると、
『用件は済んだンゴ? ではまた会おう、我が騎士よ――』
ミラ様は俺のツッコミをスルーして、温泉へと戻っていった。
あいつ、逃げやがったな?
今度会ったら、あの長い耳を引っ張りまくってやる。絶対にだ!
「ふふ、ミラ様にも困ったものですね。でも、どうしましょう? 外に出て効果を試してみますか?」
「うーん、そうだな……」
リディカ姫にそう言われ、俺は温泉旅館の外へと出てみる。
「しかし好かれやすくなるって言われても、何も実感が湧かないんだが」
ふと隣にいるリディカ姫と目が合った。しばし見つめ合うも、ただコテンと首を傾げられただけ。ロマンスっぽさは皆無だ。
好感度か……姫の俺に対する好感度って、どうなんだろう。痩せるために運動をしたり、真面目に領地経営したり。俺としては、結構頑張っているつもりなんだけど……。
そもそも今の俺たちの関係ってなんだ? 婚約者??
「ん? なんだあの湯気は」
考え事をしているうちに、当初の目的だった畑にやってきていた。だが様子がおかしい。堆肥を作っている区画から、焚き火のような煙がモクモクと出ていた。
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