第24話 魔王様、困惑です


『おい、そこの豚ァ! 貴様正気か!?』


 巨大なふわふわの白玉から、いきなり顔が生えた。

 いや、正確に言えば元々空を見上げていた顔が、単に俺たちの方に向いたというべきか。


 しかし初手から豚呼ばわりとは、失礼な白毛玉である。



『聖獣である我に石を投げつける行為……貴様、その意味が分かっているんじゃろうなァ~?』

「えっ? 聖獣……?」


『そうじゃ! 我はローウン王国を守護する、偉大な聖獣であるッ!!』


 ――ブワッ。


 そう叫んだ瞬間、コイツの全身の毛が逆立った。

 お、怒ってるっぽいな……。



「リディカ姫、これって……」

「わ、私の知っている守護聖獣様のお姿とは違いますが……おそらくは本当かと」


 俺とリディカ姫は、小声でひそひそと囁き合った。


 この国で兎の聖獣が崇められていることは、俺もなんとなく知っていた。ピィと一緒に行った隣街のティリングでも、凛々りりしいお姿の兎像が置いてあったしな。


 たしか名前はアルミラージという、伝説の兎だったような気がする。だがどうしてそんな偉い守護聖獣サマが、こんな辺境のド田舎に……?



『ん、ンゴ……? どうして黙っているのだ。我、もしかして何か変なことを言っちゃった?』

「え? あっ、いや。すまん、ちょっと考え事をしていた」


 俺がそう言うと、巨大な白玉が急にふるふると震えだした。心なしか声も涙ぐんでいたようにも聞こえた。


『ひ、久しぶりに人里に降りて、勇気を出して話し掛けたっていうのに! 無視するなんて酷いンゴ!! 我、偉い聖獣なのに……」

「別に無視していたワケじゃないんだが……」


 何だこの聖獣、急にンゴンゴ言い出したぞ?


 しかしなんだか、急に雰囲気が柔らかくなったな。さっきまでの偉そうな態度はどこへ行ったのやら。



『むむっ、その反応! さては我のことを疑っておるな!』

「い、いえ……そんなことは……」

『ふふふ、別に構わないンゴ。人の子にとって我のような存在は、と~っても珍しいンゴね。疑いたくなる気持ちは分かるぞ~』


 なんだろう、この妙なガッカリ聖獣感は。というかコイツ、意外とチョロそうな気配がする……。


 俺と同じことを思っていたのか、口元を引きつらせたリディカ姫と目が合った。


「ストラゼス様……」

「まぁ、こんなんでも偽物ってことはないだろう。聖獣とは?って感じだけど」

「ですよね……」


 こっちに害を与える気はなさそうだし、取り敢えず目的をたずねてみるか。


 俺は石を投げ付けてしまったし、第一印象はきっと最悪だろう。ここは親善大使としてリディカ姫に任せてみよう。



「あの、聖獣様? あなた様はどうしてこのプルア村へ?」

『んほほっ、我好みの可愛い女の子ではないか~! おぬし、名前は?』

「えっ?」

『……ご、ごほん。よくぞ聞いてくれたぞ、人の子よ。我はこの村に観こ……ゲフンゲフン。天からの啓示を与えに参ったのだ』


 天からの啓示……?

 啓示ってアレだよな、神様からのお告げって意味だったはず。つまり俺たちに何かを伝えるためにやってきたってことか。


 でも今、観光に来たって言いかけていなかったか?


 だが聖獣様は急に真面目なトーンで、俺たちに語り始めた。



『実はな、この村に危険が迫っていることを伝えに来たのだ』



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