第15話 小鳥の宝物(ピィSide:前編)


 ~ピィ視点~


 あたしの名前はピィ。

 ふわふわな黄色の髪がチャームポイントの鳥獣人だ。


 だけどあたしは、もう空を飛ぶことはできない。


 なぜなら、飛ぶための羽を失ってしまったから。



 今から十年前。

 魔王の代替わりが起きて、人族が勇者を使った戦争を始めた。


 国境の近くに住んでいた私たち鳥獣人の村はその戦火に焼かれ、家族もバラバラになってしまった。

 お父さんとお母さんのおかげで、あたしはなんとか逃げ出すことが出来たけど……その途中で怪我をして、あたしの翼は使い物にならなくなってしまった。



 帰る場所もなく、行く当てもなく彷徨う日々。そのうち食べ物も無くなって、毎日泣きながら虫ばかり口にしていた。


 生きる希望もなく、途方に暮れていたあたしを拾ってくれたのが――フシだった。



「フシがご飯にありつける場所を知ってるのニャ! ついてくるのニャー!」


 そう言ってフシは、ボロボロになったあたしをプルア村に連れてきてくれた。そこにはあたしと似た境遇のクーが居て、三人は家族になった。


 人族の領主様は怖かったけれど、言われた通りの仕事をすれば、最低限の水と食べ残しをくれる人だった。


 生きるために必死になって数字と格闘する日々。

 辛かったけれど、フシとクーが居れば幸せだった。


 ――だけどそんな生活も、魔物の襲来で崩れ去ってしまった。



 領主様は村を捨てて、さっさとどこかに逃げていった。

 食べ物を分けてくれていた親切な村のおばさんも、泣きながら「ごめんね」と言って避難してしまった。


 悲しかったけれど、あたしは別に恨んでいない。

 この国ではどこにいっても、獣人たちは半端者だって嫌われている。避難した先で迷惑を掛けるわけにもいかないし、あたしたちはこのプルア村に残ることにした。


 たとえここで朽ちることになったとしても、フシとクーの姉妹と一緒なら……。



「おぅ、お前ら。大丈夫か?」


 そんなときに現れたのが、勇者のお兄ちゃんだった。


「落ち着け、俺たちは決して怪しいものじゃない」


 本人はそう言っていたけれど、とてもそうは見えなかった。

 領主様みたいにブクブク太った体に、人のことを何とも思ってなさそうなにごった瞳。

 人さらいに来た盗賊だって言われた方が、まだ信じられると思った。



 当然、フシは警戒して――噛みついた。

 文字通り、お兄ちゃんの腕にバクッといったのだ。


「ウソニャ! 人間族は信用できないニャー!」


 本当は臆病で、あたしたちの中で一番優しいフシお姉ちゃん。彼女は私と同じく戦争で足をケガしてから、早く走るのが苦手になってしまった。


 なのに、あたしたちを守るためだったら――こうして必死で戦ってくれる。そんなフシお姉ちゃんが、あたしたちは大好きなのだ。



 だから今回も、あたしたちは適当に隙をついて逃げるつもりだった。

 フシが噛みついて、あたしが相手を怒らせて、力持ちのクーが二人を担いで逃げる。それがいつものセオリーだった。


 だけど、ストラゼスお兄ちゃんは怒りもせず、あたしたちを説得しようとしてきた。


「人族は嫌いニャ! 騙されないニャー!」


 フシは牙を放すことなく、お兄ちゃんの腕に噛みついたまま離れなかった。

 あたしはクーと顔を見合わせた。彼女もあたしと同じことを思っていたみたいで、同時に頷く。


 このままじゃ、フシはお兄ちゃんを嚙み殺しちゃう。フシを人殺しにはしたくない一心で、怖くて震えながらも、あたしたちは何とか口を開いた。



「……おじさんは敵なのです!?」

「悪い人なのー?」


 フシが噛めば噛むほど、お兄ちゃんの顔色は青くなっていって。だけど強がっているのか、ぜんぜん平気そうな声で言った。


「違うぞー。俺は勇者ストラゼス。悪者を倒す、正義の味方だ」

「勇者……正義の味方……」


 そんな馬鹿な?

 だけどストラゼスお兄ちゃんの目は真剣だった。

 あの目は……お父さんにちょっとだけ似ていると思った気がする。



 結局その後、私たちは後から出てきたお姫様を見て、お兄ちゃんの言っていたことが本当だったんだって分かった。


 ……お兄ちゃんはちょっとだけ納得がいかない様子だったけど、あたしたちの顔を見て笑いながらこう誘ってきた。



「それよりお前たち。これから一緒にメシを食わないか?」


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